第32話 旅のお供に後輩を

 成田空港はいつ来ても広すぎて、どこ何があるのやら全く分からない。

 しょっぱなから、借りるはずだったwifiが自分の乗る搭乗ゲートのターミナルとは別のターミナルにあることがわかり、無料バスで往復し、やっと手に入れることができた。

 飛行機に乗る前から、疲れきった。

 「いつ来ても慣れないな……」と俺は、一人ぼやきつつ「えっと、搭乗ゲートは……」と探していると、「あー、違います、違います。こっちですよ先輩」と聞きなれた声がした。


 「おーそうかそうか。悪いな。って……」

 そこには、大きなスーツケースを持ち、リュックを背負った小石川が黒いキャップをかぶった旅行スタイルでいた。

 「ども」と、小石川は頭の前に手を広げて挨拶する。

 「なんで、ここに!?」

 「……だって。心配だったから」

 こんなことをするのは、あいつしかいない。

 どうりで、親切だったわけだと、俺は合点がいく。

 「……美咲、か」

 「美咲さんは悪くないんです。私が頼んだんですよ。一緒に行きたいって言ったら、「どーんと私にまかせろ」って。ほんとに、あの人はすごすぎます。ドラえもんみたいです」

 ……確かに、なんでもできるしな。

 「とんだドラえもんだけどな……」

 「怒ってます?」

 「……いや、本当は一人で海外旅行は行ったことなかったから。ちょっと安心した」

 そもそも、海外旅行自体、俺はあまり行かないのだ。

 妻とハワイで挙式をあげたのも、妻が「二人だけであげちゃおう」と言ったからだった。

 妻は自分の両親と折り合いが悪く、親戚もあまり呼びたくなかったのだろう。

 海外なら、二人きりで結婚式をあげてもおかしくはない、と思ったのだ。

 俺も、特に呼びたい相手はいなかったので、賛成して、ハワイで結婚式をあげることになったのだ。


 小石川は、付箋をたくさんはってあるガイドブックをリュックから取り出し、 「へへ。そんなことだと思って、めちゃくちゃハワイについて調べてきました!行きたいとこ、超チェックしてますんで!」と息巻く。

 「観光しに行くのが主目的じゃないけどね?」

 「ええー。行かないんですか!?」

 小石川は思いきり残念がる。

 「まあ……。時間余ると思うし、行ってもいいけど」

 「やった。じゃあ、アラモアナは絶対に行きますね。あと、ダイヤモンドヘッドとハナウマ湾とクアトロ・ランチと……」

 「多いな!……まあ、行ければな」

 3日くらいしか滞在しないのに、大丈夫かなと、心配するが、出発する前からテンションを落とすのもかわいそうなので言わないでおこうと思う。

 「はーい!」

 小石川はとてもいい返事で答えた。

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