第2章•軽井沢編
第14話 そうだ 軽井沢、行こう。 ①
駅を出ると、そこは山に囲まれていた。
夏とは思えないほど、空気は冷ややかで、風は肌寒いほどだった。
「来てしまったか……」
俺は一人、ごちる。
避暑地として、金持ちの別荘が立ち並び、駅前には大型ショッピングモールもある。
夏に行きたくなるリゾート地の代表格。
この軽井沢に、まさか一人で降り立とうとは。
美咲に小石川のことを相談してから、俺はずっと考えて、考え続け、そして、考えるのをやめた。まるで、ジョジョ第2部のカーズのように……(言いたいだけ)。
もう、限界だった。
大体、妻以外に恋愛経験がない俺に、急に自分に降りかかった恋のことなど解決できるはずもない。
美咲の言うように、確かに、俺は小石川に恋をしているのかもしれない。
だが、俺には妻がいる。戻ってくるかどうかは全くわからないし、戻ってこない可能性のほうが高い妻がいる。
仮に、そんな可能性があるのかどうかもわからないが、小石川と俺が付き合うことになったとして、その後に妻が戻ってきたとき、俺はどうするのだろうか。
その答えは、寝ずに考え、悩んでも出ることはなかった。
そうこうしているうちに、衰弱していった俺は、上司にも「病院行った方がいいよ」と言われる始末になった。
会社がお盆休みに入ることもあり、俺は気分転換に一人旅行に出ることにした。
場所を軽井沢へしたことに特に理由はなかった。
夏だし、暑いし、涼しいところに行きたい。
単にそれくらいの理由で、思いついたところが北海道と軽井沢。
北海道は遠いから、軽井沢にしよう。
それくらいのノリである。
最近、小石川が一緒にいることが多くて忘れていたが、本来の俺のスタイルとは、一人で映画、一人で食事、一人で旅行のロンリーウルフ(?)だ。
つまり、孤高な一匹狼である。
けっして、友だちがいないわけではない。
一人で自由気ままに過ごすのが好きなだけなのだ。
妻と気が合ったのは、お互いに一人で行動するのが好きだったからで、お互いに干渉し合わないからというのもある。
干渉があまりにもなさすぎて、突然いなくなってしまったわけだが……。
ちょっと、油断するとすぐこれである。
俺は、深呼吸し、気を引き締める。
今日から3日間、ここ軽井沢で何も考えず一人だけの時間を楽しもう。
そして、小石川への、妻への想いは、その後、答えを出すのだ。
「……もしかして、三寿内蔵助か?」
その懐かしい声は、相変わらず凛としていて、綺麗で透き通る声だった。
「……浅倉先輩?」
長い髪が風でゆれた。
麦わら帽子に黄色のワンピース。
忘れようとしても忘れられない初恋の人、浅倉楓がそこにいた。
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