第12話 探偵はマッサージ店にいる ①

 グーグルマップで検索しても、名前がヒットしない建物の地下2階。

 建物に入っている店舗はほとんど風俗店だったり、ウシジマくんがやっているような闇金融だ。

 違法な空気に包まれたその建物は近寄りがたい雰囲気満載である。

 けれど、そこに俺は定期的に、月に一度か二度は行っている。

 なぜなら、そこには、天才的なマッサージ師、久能美咲がいるからである。

 

 「まいどー。今日もキモい顔してますねー」

 「それが、客に対する態度か……」

 久能美咲は、会うなり、いつも毒を吐く。というか、毒以外、吐かない。

 「今日もいつものコース、ぬれぬれオイル全身びしょびしょマッサージっすね。マジでド変態お兄さんすね」

 「いやいや、いつも、そんなコースじゃねえだろ!普通のやつな!」

 「マジすか。いつも、あんなことやこんなこと要求してくるくせに。今日は、いいと……。まさか、他に女でもできたんすか?」

 「おい、マジで読者が誤解するようなことを言うな……」

 久能美咲とは、あることがきっかけで知り合って以来、定期的に会うようになった。と言っても、会うには、この店にマッサージの予約をするしかないので、俺が一方的に客として会いに来ているだけなのだが。

 店はこじんまりとしていて、いつも薄暗い。普通、こういう店なら、お香やらアロマのいい香りがするのだろうが、どこもかしこもたばこ臭い。

 客もそうだろうが、美咲本人が最も多く吸っているからだ。

 個室に行き、ベッドにうつ伏せになると、美咲は「なんか、めちゃめちゃこってますね。うわー引きますわ」と言った。

 「触ってもないのに、なんで、こってるかわかるんだよ」

 「そんなもん、見りゃわかります。私を誰だと思ってんすか」

 「……まあ、確かに、最近、いろいろあったからな」

 「へー。いろいろってなんすか?」

 「……いろいろは、いろいろだよ」

 「ふーん」

 美咲は、肩からゆっくりと心地いい手つきで揉み始めた。

 「うっ」思わず、声が出る。

 「何です?もうイッちゃいました?」

 「変な、言い方、するな……」

 美咲の天才的なマッサージの技術は、手放しで褒めざるを得ない。

 今まで、マッサージなんて、ただの気休めくらいにしか思っていなかった俺だが、美咲のマッサージを受けてからは、そんなことは言えなくなってしまった。

 美咲のマッサージを受けている間は、本当に「天国があるとしたら、ここだ」と思うくらいに気持ちいいのである。

 もちろん、その分、値は張るし、予約もとてつもなくとりづらいのだが、一度、この快感を味わってしまうと、もう、美咲のマッサージなしには日常生活を送れないほど、虜になってしまう。まさに、脱法ドラッグ?的な存在だ。

 「ピ〇ール三寿って呼びましょうか?」

 「やめろ……いろいろな意味でやめろ」

 美咲の手は、肩から肩甲骨、そして、腰にゆっくりと移動していく。

 「あーあー。腰はがっちがちだ」

 「ううっ」

 「気持ちいいですか?いいですよ。もっと、大きな声出しても」

 「はあっ。あっ。だめっ」

 「何が、駄目なんすか?やめます?やめてほしいんすか?」

 「いや、そうじゃない」

 「何?わかんないっすよ?ちゃんと言ってくれなきゃ」

 「やめないで!腰を揉むのをやめないでくださいっ!」

 「んーどうしようかなー。頼み方がなー」

 「美咲様っ!!美咲様、やめないでくださいっ!!」

 「よくできました。じゃあ、特別にやめないで、天国見させてあげますよ」

 「う、うわあああああ!!!」

 

 と、いつものように、俺は天国に行き、1時間後に目が覚めた。

 「お客さーん。終電っすよ?」

 美咲の声で目を覚ました俺は、ゆっくりと身体を起こす。

 「ごめん。また寝ちゃったな」

 「いいっすよ。いつものことですし。今日、もう客こないんで」

 「……いつも、悪いな」

 美咲は、吸っていたたばこを灰皿に置いて、箱のままたばこを目の前に差し出し、「吸います?」と聞いてきた。

 俺は「悪いな」と一本だけとり、美咲に火をつけてもらった。

 「なんか、いつも以上に死んだ顔してますけど、ツッコんだほうがいいすか?」

 「……実は、ちょっとお前に聞いてもらいたかったんだけど」

 「いいっすよ。三寿さんの話は、まあまあ面白い部類なんで」

 美咲は意地悪く笑った。

 「そいつは、どうも」

 久能美咲、天才的なマッサージ師であり、彼女は、探偵でもある。

 俺は、3年前、妻を探してもらうために、彼女に出会った。

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