第8話 夏だ!水着だ!後輩だ! ①
ショッピング。
それは、生活に必要なものを買うという意味以外では、服だったり、バッグだったり、アクセサリー等を買うことである。
主にショッピングを楽しむのは、女性というイメージがある。
なぜだろうか。
女性はファッションを楽しみ、服やバッグ、アクセサリーを楽しんで買うイメージがあるからだろう。
そして、ほとんどの男はそういったことにあまり興味がない。
いや、興味のある男も当然いるのだ。
しかし、そういう男は決まって、女性にモテるいけ好かない奴と相場が決まっている。
漫画やアニメ、映画、ネット小説が大好きな、そう、つまり俺のような趣味を持った男にとって、ファッションとは、周りから見ておかしくなければいいものだ。ショッピングは、そのおかしくないものを選ぶだけの時間であり、極力、時間をかけなければかけないだけいいのである。
最近の俺の買った服といえば、無地のグレーのシャツと黒のデニムの2着のみ。
スーツ姿で毎日会社に行く俺にとって、普段着など週に2回ほどしか着ることのない重要度の低い服なのだ。
自分の服装にすら興味のない男が他人の服装にどうして興味があるというのだろうか。
「先輩、これ似合うと思います?」
「ああ。うん。いいんじゃないか、多分」
あのファミレスでの「朝まで生『天気の子』論」事件の一件で、俺は小石川に誠心誠意謝罪をした。
しかし、「いいんです。あれは、私が「聞きたい」って言ったんですから」と、小石川は俺の謝罪を受け取ろうとはしなかった。
「いや、それじゃあ、悪いって。……そうだな。今度は、お前の「好きなこと」に付き合うよ。それで、おあいこだろ」と、うっかり口走った完全な自業自得により、俺は小石川の「ショッピング」に付き合うことになった。
夏のワンピースを選ぶと言った小石川は、大型ショッピングモールの女性服を扱うショップに入っては試着し、俺の意見を聞いた。
「先輩、ちゃんと見てください。かわいいとか、かわいくないとか言ってくれないと困ります」小石川は青のワンピースを着て、俺に聞いてくる。
「うん。かわいいと思うぞ?」
とは言え、どれを見ても似合う気がするのだ。
美人モデルがどんなにダサい服を着てもおしゃれになってしまうように、小石川も、どんな服を着たって、それなりに着こなせてしまうのだ。
「なんか、本当に思ってないかんじがします」
「いや、マジで思ってるって。すっげえかわいい」
「……じゃあ、買おうかなー。これ」
え、今ので決めるの?俺は、少し不安になる。
「ちょっと、待て。ちなみに、それいくら?」
「え。これは、2万円ですね」
「2万!?ちょっと待て。……それはやめておこうぜ」
「なんでですか。さっき、「すっげえかわいい」って」
「いや、もっといいものがあるかもしれないし、な。うん。気長に探そうぜ」
「まあ、いいですけど。私も、他に行きたいお店あったんで」
こうして、なんとか、俺は2万円のワンピースを買わせることを阻止した。
小石川には黙っていたが、今回の買い物は俺が出す気でいるのだ。
あまり、後輩を甘やかすのもよくない気はするが、今回ばかりは、俺が悪かったのだ。
しかし、2万円は……、せめて、せめて、1万円以内にしてほしい。
これは、切なる悲しき中年サラリーマンの願いなのである。
「そうだ。水着も見たかったんだよなー」
次に入ったショップで、水着を見た小石川は、思いついたようにそう言った。
「先輩、これとこれだったら、どっちが好きですか?」
小石川は、ビキニとワンピースの水着を手にとって聞いてきた。
……そんなこと、聞かれても、な。
正直なことを言えば、当然、ビキニである。
なぜなら、露出が多いからだ。
100人の男に聞けば90人以上はそう答えるはずだ。
残りの少数派は、格好つけているか、いけ好かない野郎である。
しかし、ここで、ビキニのほうを選べば、完全にドスケベの烙印を押されるに決まっている。
「やっぱり、先輩って、エッチなんですね(笑)」と、からかわれるのが目に見える。それは、まずい。男には、本音を言ってはいけない時もある。
俺は「こっちの方が、かわいいんじゃないか」とワンピースの方を指さした。
小石川は「へー。こっちですか。意外です。確かにかわいいんですけど」と、ワンピースの水着をあらためて見る。
「ああ……。やっぱり、そのひらひらした感じとか、かわいいと思う、ぞ?」
「本当にそう思ってます?」
「ああ!思ってる!かわいいよ!」
「ふーん。そうかー。じゃ、こっち買おうかな」
「……試着」
「え?」
「あ、いや、試着しないんだって。ほら、ワンピースの時はしてたから」
「……先輩。見たいんですね?」
「は、いや。違うよ?ちゃんと、決めたほうがいいって思っただけだよ!?」
「水着の私を見たい、と。このビキニを着た私を」
「ちがっ。……まあ、ほら、ちゃんと選ばなきゃいけないだろ。それには、やっぱり着た姿見るのが、一番いいっていう」
「ふーん。まあ、いいですけど。やっぱり、先輩って……」
「なんだよ?」
「エロいですね(笑)」
結局、結果は同じだった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます