狂騒の檻
加香美ほのか
第1話 収監
走る、走る、暗がりを逃げる。けれども追ってくる数多の足音を振りきれない。
『逃げる事は許されない』
声が木霊する。私を追いかける。
嫌だと心が叫ぶ。今までに無い激情が私の体を駆け巡る。もっと速く、と足を動かす。
『逃げれば皆死ぬしかない』
これは幻聴だ。私の恐怖が聞かせるまやかしだ。だってアレが喋るはずがない。喋れるはずがない。そんなことはあり得ない。ああでもそもそもこの状況そのものがあり得ない。
壁から、天井から、背後から、私を追う足音が鳴り響く。
角を曲がり、手近なドアを潜り抜け、後ろ手に閉める。背を預けたドア越しに、衝撃が断続的に伝わってくる。それでもドアが開く気配はない。だって彼らは開き戸を開けることができない。
ひとまずは逃げ切った。そのはずなのに、まだ耳の奥でキイキイと声が木霊する。
逃げる事は許されないと。
「神様……どうか……」
無力な私は天へと願いを捧げるしかない。
一体どうしてこんなことになってしまったのだろう。
脳裏に浮かぶのは、もうずっと会えていない父の顔で。もっと早く会いに行っていれば良かったと、今更になって後悔する。
カリ、と天井から音がした。
見上げれば無数の赤い瞳と目が合って、悲鳴を上げる暇もなく襲い来る大群に押しつぶされる。
視界は蠢く影に埋め尽くされて、そこから先の記憶はない。
***
「あー……完っ全に迷子だ」
曇天の下、鬱蒼と茂る木々がより深く足元に影を落とす。獣道と言うほど細くはないが、歩道と言うには頼りない道。森に入った時はもっとちゃんと舗装された道を歩いていたはずなのだが、徐々に細く悪くなっていき、今ではこの様だ。
立ち止まって、何度目かの地図アプリの確認をする。赤いピンの示す現在地によると、私は目的地まで続く旧道を歩いている事になっている……と思えば短いロードの後、現在地がずれて森の中央を示した。先ほどからずっとこの調子だ。森の中だからか、どうにも電波の調子が悪いらしい。
「暑い……」
立ち止まると湿気が体に纏わりついて、歩いていたときより更に暑さが強くなる気がする。
曇天で、木陰の下で、森の中で、アスファルトの上よりずっと涼しいはずなのに。辺りの木々一帯から注がれる蝉の大合唱も、水を吸った土の香りも、全てが暑さを助長してうんざりする。
スマホを仕舞うついでにショルダーバッグからペットボトルを取り出して、水を一口含む。口の端から零れた水が汗と共に首を伝うのを掌でぬぐった。けれど私とは対照的に、手下げに入った白い花束はまだまだ元気そうで、少し和む。
その調子でお父さんのところまで頑張ってよーと、キャップ一杯ほどの水をかけてやる。
正直、田舎を嘗めていた。こんな事なら運賃をケチったりせず、タクシーに目的地まで連れてきてもらえば良かった。どうしたものかと途方に暮れていると不意に、踝の辺りを何かが掠めた。
「わっ」
驚いて視線を下げる。白色の小さな毛玉のような何かが茂みの中へと潜っていくのが見えた。全体は見えなかったが、毛のない長い尾から鼠だと分かった。
「これだけ自然が豊かなら野鼠の一匹や二匹、いてもおかしくはないよね……」
一人で不安になると、ついつい独り言が多くなる。
一つ息をついて、改めて前方を見る。道は何やら大きく曲がりくねり、背の高い葦の群れが行き先を隠している。連日の雨のせいで足元も悪く、これ以上下手に進むと帰る体力を失いそうだ。
これはやはり一度タクシーを降りたところまで戻るべきだな、と考えていると今度は背後で枝を踏み締める音がした。
振り返る。だが歩いてきた道には何もいない。いや、先ほどの音は道ではなく草藪の中から聞こえてきた気がする。
また動物だろうか。鼠や兎にしては、体重の乗った大きな音だった。
再び、今度は先ほどよりずっと近い場所からガサガサと草木をかき分ける音が上がり、肩が跳ねる。見れば数メートル先の草藪がわさわさと揺れている。
脳裏に熊が人を襲ったというニュースが頭をよぎった。再現VTRの被害者が自分に置き換わる嫌な想像に、背に汗が伝う。
熊は背を向けてはいけない。大きく動いて刺激してもいけない。そんなアナウンサーの声が蘇り、藪を睨みながらじりじりと後ずさる。
草藪の動きは激しさを増し、そしていよいよ分けられた草葉の陰から腕が飛び出した。
五本の指と、短い爪と、露出した肌。熊の、ではない。人の腕だ。
すぐに腕の持ち主も姿を表す。おじさんだ。四十代前半くらいの男性が出て来た。人と分かった途端、張った糸が緩んで詰めた息が口から抜ける。
「こんにちは」
そんな私を他所に、おじさんは片手をあげて声をかけてきた。私も「こんにちは」と会釈する。
「あなたもここの崖に? いや、実は私もでしてね……なかなか踏ん切りがつかなかったのですが、今日やっと来ることが出来ました」
おじさんは一歩二歩と大股で距離を詰めると、ニコニコと饒舌に話し始めた。疲れているのか、笑みを湛えるおじさんの顔は少し大袈裟でわざとらしく見える。
それより、この道の先は崖だったのかと内心で頭を抱える。案の定と言うか、私は道を間違えていた。だって地図によれば目的地に行くのに海の側は通らない。
でも助かった。
おじさんは手荷物を持っておらず、いかにも地元民の様に見えた。この辺りの地理を知っている様だし、まさしく渡りに船だった。
「あのですね、私、崖ではなくて旧渇根山道へ出たくて……」
良ければ道を教えて頂けませんか、と続けようとして息を呑んだ。
それまでの疲れた笑顔が抜け落ちて、おじさんの頬と口唇がだらりと下がった。視線が下を向き、顔に影が落ちる。
相手の急激な感情の温度差に背筋に悪寒が走る。
「……ぇよ」
ぼそりとおじさんがなにかを呟いた。よく聞き取れなくて思わず「はい?」と聞き返してしまう。
「見せもんじゃねえんだよ、とっとと失せろ!」
おじさんは勢いよく顔を上げて歯茎をむき出しに吠えた。目はつり上がり、顔が首まで真っ赤に上気している。
「そうやっていつも俺達を馬鹿にしやがって、楽しいかよ、悪趣味の高慢ちきが。自分こそ病巣だって気付いてない癖に」
驚いて何も言えずにいると、おじさんはぶつぶつとを籠るような罵倒をこぼしながらこちらの首元に向かって腕を伸ばす。
これは掴まれる。
咄嗟に腕で首と頭を庇い、来るであろう力に抗おうとギュッと体に力を入れる。
しかしおじさんの手は私に届く前に、私の背後から伸びてきた別の腕に捕らわれた。鼻を、煙草の香りがくすぐる。
振り返ると、灰色のTシャツの襟首が目に入る。私の後ろには、いつの間にか背の高い男性が立っていた。
「自棄になっているのか知らんが、それ以上やるなら警察の厄介になるはめになるぞ」
男が低い声で唸るようにそう言うと、おじさんは顔を歪めて顎を引く。
一瞬二人は睨み合いになり、しかし男の眼力に気圧されたのかおじさんの足が一歩下がる。そしてそれは間もなくおじさんが腕を引くことで収束した。
「うるせぇんだよ英雄気取りの若造が、毒虫より悪辣な癖しやがって。いつだって嘲笑いやがる。生まれ変わって畜生になるのはてめぇらだ」
男はまたぶつぶつと暴言を吐きながら、私達の横をすり抜ける。そしてこれでもかという大股で、崖へと続くという道を登っていった。
私はそれを呆然と見送った。ばくばくと心臓の音がうるさくて、ただそこに立っているだけで精一杯だった。
男の足音が遠くなり、森が再び静寂に包まれると、私はそこでやっと深く息をついた。
危なかった……のだろう。何があの人を逆上させたのかは分からなかったが、助かったらしい。
助けてくれた彼にお礼を言わねばと後ろを振り返ると、男は眉間に強くシワを寄せ睨むように私の事を見下ろしていた。
「それで、アンタは何だってこんなところにいる」
それは先ほどの唸り声よりも低い、地を這うような声だった。怒りが空気を伝って肌を撫でる。
そう、怒っている。私に対して怒っている。先ほどよりも強く。
「わたし、は」
気迫に圧されて言葉が詰まる。そんな私に男の視線はさらに険しいものになる。
「言えない理由なら、アンタの方こそ警察に連れて行く事になる」
言うが早いか男の手が私の二の腕を掴む。
警察とはどういうことなのか。こちらこそ理由がわからない。これでは先ほど回避した危険と何ら変わりない。
「やめて」
手を振りほどこうとして身を捻るが、二の腕を捕まれてはうまく暴れられない。
「ここはわけもなく子供が来る場所じゃない。ちゃんと理由を言え」
「子供って……私、十九歳」
「未成年は子供だ。良いから、ここにいる、理由は?」
低く、静かに、冷たく、圧ばかりが増す。なんでそんな事、初対面のこの人に言わないといけないのか。訳が分からない。
分からないけれど、言えばこの状況から解放されるなら。私は半分自棄になりながら掴まれてない腕を男の眼前に突き出した。
男の視線が紙袋へと落ちる。
「…………百合?」
白百合が袋の口から花弁を覗かせる。
「私はただ、お父さんに会いに来ただけです……!」
こんな風に問いただされる理由も、ましてや警察につき出されるような理由もない。そう伝えると男は「ああ」と何か納得した風に呻いたあと、私の腕を離した。深いため息をついて、寄った眉間をもみほぐす男から、私は数歩距離をとる。
「…………行きたいのは崖と公園と、どっちだ」
短い沈黙を経てかけられた声には、もう怒りは滲んでいなかった。黙っていると目で「早く答えろ」と促され、仕方なく口を開く。
「……公園、です」
「つまりただの迷子って事か……紛らわしい」
今をもってして訳が分からないが、何やら誤解が解けたらしい。
男は私の方へ向かって足を進める。今度は何だと少し警戒して身をこわばらせる私の脇を通り抜け、私が来た道を進んでいく。
「公園はこっちだ、ついてこい」
一度私を振り返りそれだけ言うと、男はまた細道を大股で歩き始めた。
ついていくべきか、迷った。よく分からないし、いきなり腕を掴む人だし。
けれどこのまま細道を進んだところで先は崖らしく、しかも先ほどのおじさんとまた鉢合わせるのはすごく怖い。地理感のない私が藪をかき分けて別の道を探すなんて到底無理で、どちらにせよ道を戻るという選択しかない。であればと、仕方なしに私はついていくことに決めた。
せめてもの警戒に五歩程距離を空けながら、私は男の灰色の背を追いかけた。
***
「このトンネルの先にある」
連れてこられたのは、レンガの剥き出しになった古いトンネルだった。穴は狭く、車ではなく人が通るために作られたのだと分かる。随分と遠くまで続いているらしく、中を覗いても出口はよく見えない。
足元灯だけが点々と奥まで続いていて、けれど街灯がないからトンネルの壁もよく見えない。
確実に今の法律を順守していなさそうに見えるのだが、ちゃんと整備されているのだろうか。そう躊躇している間にも、男はどんどんと先に進んでしまう。悩んでいる暇も貰えず、ええいままよと私も足を踏み入れる。
トンネルに一歩入ると、ひやりと冷たい空気が泥の香りと共に肌を撫でる。
申し訳程度に整えられているものの、砂利や石や雑草やで足元はあまりよくない。先を行く男の砂利を踏みしめる音がトンネルの中に木霊している。その音を追いかけながら、気持ち慎重に足を進める。
最初は光量の少なさにすぐ先も見えず、足元灯だけを頼りに床を凝視して歩いてしまう。
それでも少しずつ目が慣れて行って、古びたレンガの剥き出した壁や、ひび割れて水の漏れている天井を物珍しく眺める。
それにしても長いトンネルだ。もう十分は歩いていると思うのだがまだ出口の光が見えない。一体どこまで続くのだろう。
「後どのくらいですか……?」
不安からつい声に出すも、前方から返事が返ってこない。
「あの……?」
前を見ても見当たらない。そう言えばいつの間にか、聞こえる足音が私の物だけになっている。
まずい、ゆっくり歩きすぎた。
慌てて走り出そうとした時、後ろの方で何か硬い物が割れるような音が響くのを聞いた。同時に背後から風が吹いて来て、掘り返した泥のような臭いが強く鼻を突く。
割れる音はまた割れる音を引き連れて、連鎖して、反響して、あっという間に背後に迫ってくる。
突然何が始まったのか、私は背後を振り返った。
だが背後には何もなかった。あるはずのレンガの壁も、点々と続いていた足元灯も、石と砂利の地面も、何も見えない。ただ暗闇だけがそこにある。
私がそれに何かを思うよりも早く暗闇は私を飲み込んだ。
***
頬が冷たくて気持ちが良い。でも床が固くて少し体が痛い。
また布団から出てしまったのだろうか。夏は昔からこうだ。冷たい床を求めて廊下にまで這い出てしまう。
お父さんは小さな声で笑いながら私を跨いで、仕事に行っていたものだ。お母さんは呆れた声でブランケットをかけ直してくれて、私はそんな両親の声を寝ぼけ眼に聞きながら二度寝するのが結構好きだった。朝ごはんが出来たと母が呼びに来るまで、うつらうつらしているのが心地よかった。
もう全部、なくなってしまったのだけれど。
だから私は自分で起きなければならない。
目を開く。開いたはずなのに暗い。まだ夜か、と思っていると低い位置でぼんやりと光っている灯りが目に入る。
足元灯だ。見覚えがある。どこだったか。記憶を探してトンネルだったと思い出す。
そう、トンネルだった。私はトンネルを歩いていた。そのはずが、何がどうなって私は寝ているのだろう。気を失ってしまったのだろうか。こうなる前の事がよく思い出せない。
ノロノロと起き上がりながら、違和感に気付く。横たわっていた地面が、つるつると足元灯の光を跳ね返している。地面……と言うか、これは床だ。トンネルの道はもっと土っぽかったはずなのに、ここはまるで屋内の床の様だ。
顔を上げて、周りを見渡す。
「え、」
思わず、声が漏れた。そこには思い浮かべていたものとは違う光景が広がっていた。
私は確かにトンネルにいたはずだ。そのはずなのに緩やかなカーブを描く壁はなく、かわりに両側にドアがいくつも並んでいる。天井を見上げるとひび割れたレンガが消えて直管二灯式の照明が規則的に並んでいる。
足音灯だけがトンネルの名残とでもいう様に薄く足元を照らしているが、明らかにここはトンネルではなくどこか室内の長い廊下だった。
「え、え? なんで?」
起きている出来事が理解できなくて、言葉が漏れる。自分のその不安そうな声が、余計に心をかき乱す。
「ここ……そう、ここどこ」
ショルダーバッグのポケットからスマホを取り出す。しかし地図アプリを開いてもくるくるとローディングするだけで、画面の右上を見ると電波が一本も立っていなかった。つまりここは圏外だ。
文明の利器にも裏切られてますます不安が積もる。
「とにかく……ここを出なきゃ」
外にさえ出ればもう少し状況が分かるはずだ、と立ち上がる。
スマホのライトをオンにしてもう一度周りを見渡す。廊下にはたくさんのドアがあった。端から端まで三十歩ほどの距離の間に、右側に六つ。左側には六つと貨物用エレベーターが一つ。後ろの突き当りに一つ。前法の突き当りにはドアはない。一番手近な左側のドアは学校にある様な貨物用エレベーターの様で、文字盤の上に【B1F】と記載されていた。
「って言う事は、ここは地下……?」
ますますわからない。どうやってこんな所に迷い込んだのだろうか。
トンネルの床に穴が開いて地下施設に落ちて来たとか……なんてSF小説みたいなことを考えてみるが、天井を照らしても穴など開いてはおらず、お粗末な推理は瞬時に破綻する。
エレベーターのボタンを押してみるが、特に反応はない。エレベーターに電気は通っていないらしい。
今度は背後のドアを照らしてみる。ドアは開き戸で中央に【BR205】と刻印されている。その隣にはマグネットが貼ってあり、手書きで【チームC】と書かれていた。刻印の下、私の肩の高さには長方形の小さなガラス窓がついていて、だが覗いてみるも中には灯がないらしく真っ暗で何も見えない。スマホで中を照らすと、部屋の奥にまた扉があるのが見えた。
ここでいつまでも呆けていたところで外には出られない。私はそのまま【BR205】のドアノブをひねってみた。
鍵などはかかっていない。押すと少し重いが問題なく開いて、消毒液を薄めたような香りが鼻をくすぐる。一歩踏み込もうとして、私は何かに脛を強く打ち付けた。
「いッ……」
その場で跪いて脛をさする。涙目で見ると、ドアには床から脛の高さまで金属製のプレートが付いていた。たまたま立てかけてあったのではなく、しっかりとボルトで接合されている。廊下を振り返ると、廊下に面するほとんどの扉の足元に同じようにプレートが付いていた。
何でこんなトラップみたいな作りになっているのだろうと思いながら、プレートを跨いで部屋に入る。
部屋をスマホでぐるりと照らす。ガラス窓から覗き込んだ通り、狭い部屋だった。二歩ほどですぐに奥の扉に辿りつけそうだ。
左の壁にはラックがあって、何やら茶色の瓶や薄手のゴム手袋の入った箱や、使い捨てマスクが並んでいる。まるで病院みたいだと思いながら後ろ手にドアを閉めようとして、手が空ぶった。
「え?」
見ると、内側にドアノブがない。私の手を離れたドアは自身の重さで元の位置に戻っていく。あ、と思った時にはパタンと音を立てて閉まった。
「やっちゃった……」
閉まったドアに触れる。ドアノブがないから当然ドアを開けられない。先ほどの廊下には戻れない。
まさかそんな造りだとは思わなかったから、よく考えもせず入ってしまった。ことごとく、トラップみたいな建物だ。
戻れない以上は仕方がない。進むほかにない。私は反対側のドアに手をかける。
頼むから鍵がかかっていたりしませんように、と願いながらドアノブをひねれば、ガチャリと音を立ててドアが開いた。
このドアにもあった脛打ちトラップなプレートを跨いで、部屋に入る。
やはりこのドアも内側にはドアノブが無くて、でも戻れても仕方がないからとドアを閉める。
今度は少し広い部屋に出た。ライトで照らすとあちらこちらからチラチラと銀色が光る。
ゲージだ。壁一面のラックに銀色の飼育ゲージがずらりと並んでいた。ハムスターを飼えそうなサイズだが、どれも空で何も居ない。
部屋の右手と左手にはそれぞれ引き戸があって、中央にはステンレスの作業台が鎮座していた。台の上には電子秤と大小さまざまなビーカーが並んでいる。
私はその作業台に歩み寄り、そっと手を添える。大量のゲージと、作業台。私はこれを知っている。これに近い光景に覚えがあった。
瞼の裏で、四角い額の中から白衣の父と母が私に笑いかける。
「ここって……もしかして動物実験施設……?」
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