第12話「オルフェウスpart2」

 ハッチから外に出ると、一行を出迎えたのは腕を組んだ初老の男性と、グレーの制服を着た小柄な女性だった。女性はたすきのような物を肩からかけていて、それは一定の間隔で紫の光を明滅させていた。


「あ、リュウト君、気を付けて――」


 タラップを降りた瞬間、シエラたちの身体がふわりと浮かんだ。初めての無重力に適応しきれなかったリュウトは、そのまま宙をふわふわと浮いてしまう。


「――格納庫内は無重力なの」


 ほかの全員が普通に立っている中一人だけ宙を無様に浮いている。この状況があまりにも恥ずかしいように感じられ、思わず顔が真っ赤になる。


「最初に言ってくださいよぉ……」

「イオ」

「どうぞ」


 磁力靴で床に固定したイオの肩を持って、情けない声を上げながら飛んでいくリュウトを掴んで降ろさせる。

 床に降り立つと、この場所は完全な無重力ではなく、若干床の方に重力が働いているように感じた。


 だがこの妙な感覚には、慣れるのに時間がかかりそうだった。


「お久しぶりです。コリント艦長」


 うむ、とグレーの軍服に身を包んだ初老の男性――コリントは少しだけ頷き、シエラの差し出した手を握った。


「そちらがゲストか?」

「ええ……シュシュエ副長も、お変わりなく」

「そちらこそ、お元気そうで何よりです」


 それからコリントはリュウトの方へ体を流すと、


「私はこの〈オルフェウス〉の艦長をやっている、コリントだ。どうぞよろしく」


 パンドラを抱えたままでは握手もできないので、とりあえず小さく礼をした。


「リュウトです。よろしくお願いします」

「そのお嬢さんは、うちの医療チームに運ばせよう。よろしいかな?」


 コリントの傍にはストレッチャーと、二体の医療ロボットが待機している。リュウトはその二体にパンドラを預けるかどうか迷い、シエラの方を見た。


「大丈夫。傷つけるようなことはしないわ」


 リュウトは頷いて、


「彼女を、お願いします」


 二体のロボットは彼女をストレッチャーに寝かせて、微小重力下で飛んで行ってしまわないようにバンドで軽く固定する。それから、一体がアームでパンドラの額に触れた。


「安心してください。彼女はただ眠っているだけです。もうじき目覚めるでしょう。我々は医務室にいますので、何かあれば来てください」

「……お願いします」


 リュウトは再び深く頭を下げた。ロボットたちはともにうなずくと、ストレッチャーを運び出した。


「そちらの用件は分かっている。今から本艦は〈サンクチュアリ〉に向かう」


 初めて聞いた単語について、リュウトはシエラに耳打ちした。


「〈サンクチュアリ〉って何です?」

「私たちの本拠地。宇宙一安全なところ」

「それはご大層なものだな」


 懐疑的な視線を向けるクラークに、シエラは「本当のことよ」と言った。


「シュシュエ副長、ゲストを部屋に案内してやってくれ。それとシエラ、お前は私についてこい」

「では、こちらに」


 やれやれといった表情でコリントについていくシエラを尻目に、リュウトはシュシュエの案内に従い、蟹股で歩くような慣れない足つきで格納庫を出た。

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