第11話「オルフェウスpart1」
「……で、君のことなんだけどさ」
シエラが手首の装置を操作すると、彼女が着ていた赤い
「イオに頼んで、さっき教団のデータベースで調べたんだ。でも該当するデータがなかった。だから出来れば教えてほしいんだ。君がどうしてあの少女を抱えていたのか。あの少女は何者なのか。君は一体、何者なのか」
先ほどとは別人のような険しい顔でリュウトに問い詰められ、全身から汗が染みだすような感覚に襲われた。自分を落ち着かせるように息を整え、唇を舐める。
答えてもいい。だが最初に約束してもらいたいことがあった。
「話す前に、保証してくれませんか? 俺たちを、特にあの少女を、安全な場所に連れていってくれるって」
シエラは片方の眉を釣り上げ、腕を組んだ。
「まだ私が信じられない?」
リュウトはそんな彼女に向けて、挑戦的な視線を向けた。
これは賭けだが、やってみる価値はある。
「初対面の相手に、剣を向けるような人ですから」
彼女はこちらを向いたまま、しばらく押し黙ったままだった。
さすがに強く出過ぎたか、と内心で冷や汗をかいていると、不意にシエラが笑い出した。あまりにも急なリアクションに困ったリュウトは、思わず口をあんぐりと開けた。
「確かに、それもそうだ! あの時は悪かった。謝るよ」
それから手をこちらに差し出して、
「これで手打ちにしてくれないかな。リュウト君?」
リュウトは差し出された手を握り返した。
「えぇ、あなたのことは許します」
そしてそれから、シエラに会うまでの経緯を話した。が、一応、パンドラのことを伏せておいた。
彼女たちを信じていないわけではないが、リュウトの口からは話すのを躊躇われた。少なくともパンドラは、普通の女の子だ。
全て話し終えたとき、シエラは困惑しているようだったが、無理もないだろう。転生だなんて、所詮はフィクションの産物なのだから。
「……正直なところ、信じ難いとは思う。君は本当に、別世界の人間なの?」
そうです、と答えたかったが、それを実証するものは何もなかった。パンドラの繭を開けるのは別世界の人間でなければならないと言っていたが、それを話すわけにはいかない。
「はい。ですが、俺は今の状況を飲み込めてません……何しろ全く環境が違いますから」
うーん、と口に手を当ててシエラはしばらく考え込むと、その顔を上げた。
「うん。とりあえず信じてみることにするよ。まぁ今の君には嘘をつく理由が見当たらないし」
それを聞いてほっと胸を撫でおろす。シエラはそんなリュウトの肩を叩くと、椅子に座るように促した。
「ごめんね、なんか尋問みたいなことしちゃって……で、これが例のレリック?」
そう言うと、シエラはクラークを両手で掴んで横に広げた。
「やめろ! お前、死にたいのか?」
睨んでくるクラークに全く動じる様子のないシエラは、ニタリと笑ったまま、伸ばしたり縮ませたりを繰り返した。
「シエラさん、さすがにもうやめた方が……」
明らかに殺気立っているクラークにおろおろしていると、そうね、とシエラは彼を放り投げた。
それを何とかキャッチするとクラークは、
「女。後で覚えておけよ」
「ごめんなさいね」
小さく笑ったシエラは、窓の外を指し示した。窮地を救ってくれた、あの銀色の船がこちらに近づいてくる。
「あの船は〈オルフェウス〉。現存するアルゴー級の最後の一隻。あれでも、もう一世紀以上も飛んでるんだ」
距離感が掴めなかったせいで遠目には分からなかったが、この船はかなり巨大なものだった。オルフェウスの側面に回り込んだトリノ號が、格納庫に通じる通路に侵入する。
格納庫に入ると、そこには十数機の戦闘機が収められているのが見えた。先ほどの砲撃といい、この船は明らかに戦うための船……戦艦だ。
ならば、このシエラという人物は軍人なのだろうか。
「そろそろ着陸します」
トリノ號のランディングギアが床のジョイント組み合わさり、船体が小さく揺れて固定された。
「イオ、一通りのチェックとメンテナンス、お願いね」
「了解しました」
そう言いあう二人についていくように、リュウトもコックピットを出た。パンドラの様子を確認すると、いまだに彼女は眠ったままだった。ただ規則的な呼吸を続けている。
「彼女も連れていこう。このソファよりかはマシな場所で眠れるだろう」
クラークの言葉にうなずくと、慎重に彼女の体を抱えた。
「なんでずっと眠ってるんだ?」
「長いこと眠っていたからな。外界に適応しきるまで時間がかかる」
シエラたちに続いて外に出ようとしたとき、クラークが袖を握ってそれを止めた。
「ん、どうした?」
「さっきは、感謝する。パンドラのこと、黙っておいてくれて」
「あぁ、あれは何と言うか、うまく言葉にできないんだけど……」
「いいんだ。オレもお前と同じ考えだ。その子には、普通の女の子としていて欲しい。女神じゃなくてな。女神はもう……いらないんだ」
女神はもういらない、その言葉に悲しげな響きを感じ取ったリュウトは、ただ頷いた。
「そうか。分かったよ」
シエラたちに比べれば非力なリュウトだが、少なくともパンドラだけなら、守る通せるかもしれない。だからリュウトは呼び出されたのだ。
なら彼女を守るのが、今のリュウトの使命なのだろう。リュウトはそう自らを納得させるかのように、もう一度頷いた。
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