第6話「ウェイクアップpart2」

 廊下をしばらく歩き続けると、荘厳な神殿のような場所にたどり着いた。太い柱が何本も連なり、天井からは青白いステンドグラスの光が投げかけられている。しかもその模様は万華鏡のようにゆっくりと、絶えず変化していた。


 その奥に、白い繭が見えた。大きさはちょうどリュウトと同じほどで、あの中にその繭の大きさに見合った虫が眠っていると思うと、少し不気味だった。


 頭上のステンドグラスの色が変わり、オレンジ色の光で複雑な模様を描き始めている。そんな中で、あの繭は銀色の光を放ち、それ自体が輝いているようにも見えた。


「……まさか、あの繭なのか?」

「そうだ。この繭は、この世界の人間が開けないように設定されている」

「理屈は分かんないけど、大体分かった」

「そうだ。さぁ、彼女を解放してくれ。あの繭に触れるだけでいい」


 大きく息を吐き、繭に手を触れた。その瞬間、見たこともない景色を『思い出した』。


 捻じれた黒い六角形の柱、獣のような息遣い、血と狂気……


 まばたきをするように訪れた断続的なイメージに圧倒され、足元がふらついたリュウトはたたらを踏んだ。


「リュウト? 大丈夫か?」

「大丈夫。ちょっとふらついただけだよ」

「ならいいが……」


 再び手を触れると、繭がぼうっと光を放ち、それを構成する銀色の糸が解けていく。その中にいたのは、繭と同じ銀色の髪を持つ幼い少女だった。色が抜け落ちてしまったかのような白い肌に、黒いトーガのような服を着ている。


 繭から解き放たれて漂うように落下する少女を受け止めると、その華奢な体に少し驚いた。


 少しでも大きな力を加えたら壊れしまいそうな、その細い身体。まだ幼い彼女が、どうしてこんな繭に閉じ込められていたのだろうか。


 その時、何かに気づいたクラークが後ろを振り向いた。


「待て。何かいる」


 入り口からぞろぞろとロボット兵たちが現れ、冷たい銃口をこちらに向けた。頭部の赤く光る単眼が、危機感を募らせる。リュウトは半ば反射的に顔を強張らせたが、クラークは何も言わずただ浮いているだけだった。


「こいつらがこの子を?」

「そうだ」

「こんな小さな子相手に大人数で……!」


 その時、ロボット兵の一体がこちらに近いて、


「お前たちを連行する。抵抗は無意味だ」


 卑怯な奴、とリュウトは小さく毒づく。だが突き付けられた銃口に、なす術もなかった。


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