虎視眈々6
「駆け落ち……しちゃお?」
その言葉に、私は自然と頷いていた。
「よろしくね」
透けるような亜麻色の髪と、好茶色の瞳。初めて会った時大好きな人は、姉の恋人だった。お兄さんは優しくて笑顔が可愛い人だった。私がそんなお兄さんを好きになるのにそう時間はかからなかった。
「俺も好きだよ」
「もちろん、一人の女の子として」
思い切って告白したらニコッと笑って言ってくれた。その笑顔に私は完全に落ちていた。それからお兄さんと私は付き合い始めた、姉に内緒で。姉への罪悪感よりもお兄さんへの想いの方が強かった。
「好きです」
「俺も好きだよ」
お兄さんが優しいキスをしてくれた。でも此処にいる限り幸せは続かない、姉がいるから。どうしたらいいか聞いたらお兄さんは言ってくれた。
「駆け落ち……しちゃお?」
小さなスーツケースとキーを持ったお兄さんは、私に手を差し出した。
「どこに行きたい?」
運転しながらお兄さんは話しかけてくる。何処がいいか。何て決めていなかったはずの私の口は自然と言葉を紡いだ。
「……海」
「海、ね」
お兄さんは分かったと言ってバイクのスピードを上げた。私は流れてく景色をただただ見ていた。
そこまで読み進めて、心理はそろそろ右肩が限界を訴えてきたので、立ち読みをやめた。
「偉音くん、一つゲームをしよう」
久方ぶりの休日に二人で遊ぶことになった偉音と心理。ちょうど昼時だったので昼飯でも食べようと学生の味方ファミレスへ行った。注文して暫く食べ進めた時、心理の口から出た言葉は突拍子もないものだった。
「これからうちが出す問題に答えてほしいんだ。大丈夫、偉音くんにも理解できるくらい簡単だから」
心理は微笑んだ。店内には雰囲気のあるジャズが流れていたけれど、人の声がうるさくてあまり聞こえない。
いつからかは分からなかった。けれども好きになっていた。好きなのかな、なんて思った時にはもう遅くていつの間にかこんなにも恋しくて恋しくてたまらなくなっていた。ずっと一緒に歩んできた……といっても彼女の親友には負けるけれど。それでも他の人に比べれば誰にも負けないくらい一緒に居た。
最後に見たこの光景を、ずっと忘れないでおこう。誰よりも凛としたうつくしい背中がドアの内側に消えるまで、瞬きもせずに見送ろう。
今日、私達は学校を卒業した。先輩は、卒業してすぐは恥ずかしいだろうけど、しばらくしたら遊びにでも誘ってくれるかもしれない。でも、その時俺はもう居ないんだ。彼女の側には居ない。考えただけで、絶望に連れて行かれそうになる。
大声で叫びたい。好きだ。君が好きだ。でも勇気のない私は、ごめんねの一言だって先輩の目を見て言えやしない。聞く相手のいない謝罪は、春先のまだ冷たい夜の空気の中に溶けて消えた。
戻れない過去はなぜこんなに優しく美しいのだろう。心理は目を閉じて心を落ち着かせるように、夜のしっとりとした甘い匂いを鼻から吸い込んだ。
バッティングセンターに行く前に腹ごなしをと立ち寄ったファミレスで、まさかこんな話を持ち出されるとは思わなかったのだ。
「さて、問題です」
にんまりと笑みを浮かべる心理を見て、偉音はぞくりと悪寒が走った。普段から表情筋が死んでいると言っても過言ではない心理が笑うこと自体珍しい。だがその表情とは裏腹に、声がいつもと違って冷しゃぶのように冷めている。こんな心理、不気味でしかない。
「大丈夫だよ。偉音くんにも理解できるくらい簡単なものだから」
そう言って心理は問題を語りだした。始めは長ったらしい問題を聞いていた偉音だが、聞いているうちにだんだん飽きてきてしまい、飛ばし飛ばしに心理の言葉を耳に入れていた。ほとんど問題の内容を右から左へと、偉音は素麺のように流していく。
偉音の脳が問題を解釈すると、こんな感じである。
(性格以外は何でも出来るチート美人Kさんが階段から突き落とされた。しばらく病院に入院することになったKさん、そこに四人の人物が見舞いに来た)
(Aさんはなんか
(Bさんは喜善希楽みたいなヤツ。一人だけ、Kたんとかわかりやすいあだ名で呼んでいた。Kさんの性格を改善させた。Kさんから「こいつ私のこと(友情)が好きなんだー」と認識された)
(Cさんはツンデレ(?)で厳しい先輩。該当者は特になし。Kさんのことを心配しすぎて初期段階のストーカーになっていた。Kさんはこの人に嫌われてると思ってたけど、実際は違った)
(Dさんはよく縁とよく一緒に居た
「さて、ここからが問題です。一つ目、Kさんのお見舞いに来た人は全員で何人でしょう。二つ目、この中で一番得をした人物は誰でしょう? 三つ目、上記の四人の中でKさんの恋人は誰でしょう?」
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