虎視眈々5

「さて、ここからが問題です。一問目、Kさんのお見舞いに来た人は全員で何人でしょう。二問目、この中で一番得をした人物は誰でしょう? 三問目、上記の四人の中でKさんの恋人は誰でしょう?」

「は?」


 翔は意味が分からないと言いたげな顔で心理を見ていた。すらすらと暗唱のテストでもしているかのような心理の話を、食べながらも真面目に聞いていた翔であるが、出された問題はずいぶんとすっ飛んだものである。


「国語の……文章問題なのか?」

「突っ込むところはそこなんだ」

「えーと、じゃあ、Kさんって奴には恋人がいたのか?」

「あ、気になるところはそこなんだね。そう、いたんだよ。愛し合う者同士が結ばれた時に付ける名称が」


 心理の言い回しにいろいろと言い返したい翔だが、心理にも何か考えがあってやっているんだろうと思い、そこは我慢をした。偉いぞ、芦尾翔。

 けれど問題を理解したくても翔には理解できなかった。問題の本質や心理の真意、わからないことが沢山あるため、ただただ困惑した表情を浮かべて心理を見ることしか出来ずにいる。


「ごめん」


 しばらく黙って翔を見つめていた心理だったが、やがて見切りをつけたように目を閉じて謝罪の言葉を口にした。


「とある推理小説の話を問題にしたんだけど、やっぱり概要だけじゃ難しいよね。うちもなかなか解けなくて苦戦しているんだ。けれど続きを見たいので、どうしても問題を解きたかった」

「推理小説って、アンタ最近学校で読んでたか? 携帯を弄ってる印象しかねぇんだけど」

「家で読んでいるんだよ」


 部活が終わった後に、自室でゆっくりと読むのが好きなんだと心理は続けた。そういえば、心理は推理小説を読んでいるとわからないまま真相を知るよりも、自分で推理して仮説を立てた後に真相を読もうとする傾向があった。成程、今回のその一環だったのか。


「だからごめんなさい。今の言葉は忘れてね」

「あ、ちょっと、しん」


 今度は翔が心理に話しかけようとした時、


「あ、心たんとかっくんだー!」


 二人の間に元気に溢れまくった声が乱入した。同時にぽんと肩を叩かれる。髪を三色に染め分けた北戸雷きたとあずまだった。


「え? 何? ボク、何かした?」


 ぽかんとする翔をよそに、早速状況を察した心理が、鞄をよけて席を作る。


「アンタ……僕が言うのもなんだけど……ホント、アレだよな」

「諦めなよ翔くん。雷くんのアイデンティティーは誰かの邪魔をすることなんだから」

「ええええ心たん!? それってボクの存在定義は『お邪魔虫』ってこと!? ひどいよそれ!」

「その通りじゃないか」


 心理は悲しそうに笑った。

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