虎視眈々3

 三人目はCさんです。彼は長身痩躯の切れ長眼鏡つきという、いかにもインテリな方で、実際インテリな方でしたが、口が悪く嫌味が呼吸の如くポンポン飛び出してきます。しかし意外と面倒見が良いため、難しい性格のKさんを厳しく指導しながらもずっと見守っていました。

 Cさんは売られたと思った喧嘩はすぐに買うため、マイペースなKさんとは小さな喧嘩が絶えませんでしたが、お互い根に持たない方なのですぐに仲直りが出来ていたようです。

 さて、そんなCさんとKさんですが、彼らは高校の部活動で先輩と後輩の関係にあります。ああ、言っときますけどKさんが後輩ですからね。上記で説明した喧嘩は主に部活中に起こっていました。気に食わないのなら関わらなければいいのに、Cさんはしょっちゅう議論討論をKさんに求めるのです。

 ですがKさんが病院に運ばれたと聞いた時、Cさんは顔面を青白にして病院に駆けつけ、普段の威圧的な態度は身を隠してとてもとてもKさんのことを心配していました。


「君……だからあれほど気をつけろって言っただろう! 怪我の状態はどうなんだい? 深刻なのか? どうなんだ?」


 Cさんが問い詰めるように聞くと、Kさんは普段との落差に戸惑いながらも返しました。


「数日ですが入院することになりました。でも心配はいりません。怪我は大したことはなかったので、○○○(Kさんが所属している部活)に支障をきたすことはありません。しかし、しばらく練習は出られないので、迷惑はかけると思います。すみません」


 珍しく素直な返事を返すKさんに、今度はCさんが驚く番でした。


「何をしおらしい態度とっているんだ。君らしくないな。私は○○○(Kさんが以下略)が出来る出来ないだけでこんな心配しているんじゃない。君が大事な後輩だから心配しているんだぞ」


 恥ずかしげもなくさらりと言われた台詞に、Kさんは顔を真っ赤にしてうつむきました。

 CさんはKさんのように才能を鼻にかけない人一倍努力家の方で、部活動の居残り練習も積極的に参加し厳しい練習にも弱音を吐かずに頑張ってきました。だからこそ、Kさんは部活動に出られないことでこんなにも心配をされていると思っていました。

 それどころか、まさか自分自身を心から心配くれているなんて夢にも思わず、どう返せばいいか分からなくなってしまいました。

 まあ要するにKさんは嫌われていると思っていたんですね、Cさんに。Cさんは怪我をしたその日からKさんにメールをするようになりました。

 内容は、体調の心配から周囲に怪しい奴はいないかなどさまざまでしたが、どれでもKさんを心配するものです。それだけでもKさんには十分驚愕するに至ったのに、退院後はもっとすごいことが起こりました。

 何と休み時間から昼食、果ては朝の登下校までCさんがついてくるようになったのです。

 二度とあんな事件は起こさせまいと、Cさんは自分に出来る限りの力を使ってKさんを守ろうとしたのです。「私は大丈夫です。申し訳ないですからやめてください』とKさんが言っても「迷惑だろうが何だろうが私はKが心配なんだよ。黙って私に守られておきたまえ」なんて男前な返され方をされてしまい、Kさんは言いようがありませんでした。

 むしろあまりのカッコよさに尊敬までしたそうです。結局Cさんは犯人が捕まり、Kさんが周囲に溶け込むまで、ずっとKさんの傍を離れなかったそうです。

 Kさんの生意気な言動にいちいち、嫌味っぽい言葉をぶつけながらもそのうちではずっとKさんが心配で仕方なかったのです。面倒見のいいCさんは、最後までKさんのことを見守り続けたそうです。

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