虎視眈々2

 一人目はAさん。Aさんは、少女漫画に出てくるような外面良し内面良しの、超完璧な王子様で、難しい性格のKさんと唯一話の合う友人でした。二人の話題は将棋やテレビの政治問題や無駄に難しい文学の話題ばかりで、君達実は年誤魔化しているでしょうと聞きたくなるくらい堅苦しいものです。

 さて、そんなAさんとKさんですが、実は二人は中学生時代からの友人で高校はAさんが関西、Kさんが関東とかなりの距離がありました。だけどAさんはKさんが心配のあまりわざわざ学校を休んでお見舞いに来たのです。Kさんは驚きましたが、同時に怒りました。


『私のためだけに学校まで休まないで。部活動はどうするつもりなの』


 Aさんは部活で主将を務めていたので、彼女が居ないとAさんの高校の部活動に支障をきたすのです。だけどAさんは嬉しそうにはにかんで『心配してくれてありがとう。しかしKの怪我を聞いたらいてもたってもいられなかったんだ。許してほしい』と言われてしまい、Kさんは何も言えなくなりました。

 口ではそう言いつつも、Kさんは見舞いに来てくれたことを内心喜んでいてAさんもそれをわかっていたからです。少しお互いの近況を話した後、そしてAさんはKさんにある質問をしました。


「犯人の顔は見たの?」


 Kさんは「見ていない」と答えました。更にAさんは質問を続けます。


「犯人の特徴は見てないのかしら? 性別とか身長とか、何でもいいから教えてほしいの」

「そういえば落ちる寸前に体格は見た。男で、髪が黒く、身長は――」


 Kさんは記憶に残っている全ての情報を教えました。するとAさんは考えるような仕草をして、しばらくしてから納得したように頷き、「ありがとう」とお礼を言いました。それからKさんが退院してから一週間後、Kさんを突き落とした犯人が捕まりました。Aさんが突き止めたのです。その犯人は二人いて、Kさんに土下座して謝ってきました。

 軽傷のようですが怪我をしている方なのが実行犯で、顔を真っ青にしたもう一人は彼を唆した人間だとAは言います。どちらも泣きながら何度も何度もKさんに謝ります。何だかんだ優しいKさんはそんな犯人の姿に同情してしまい許してしまいました。

 その後Aさんに「勝手なことをしないで、危ないじゃない」と怒ると、Aさんは「Kのためよ。こういう輩はしょっぴいてちゃんと反省させた方が相手のためにもなるわけだし。大丈夫よ、二度とそんな考えを起こさせないように厳重注意したから」と返します。

 Kさんは『ふん、それくらい私一人でどうにかした』などと口では可愛くないことを言いますが、その内では自分のためにここまでしてくれるAさんに言葉に出来ないほどの感謝をしていました。

 AさんとKさんは中学校時代にいざこざがあって以降、昔ほどの仲良しな関係ではなかったようですが、この事件を以降に友情は一気に元に戻ったと聞きます。王子様なAさんは、颯爽と現れて悪者をとっちめてくれただけでなく、二人の間にあった溝までなくしてしまったのです。






 二人目はBさんです。Bさんは外見はとても良いのですが、性格はとてもはっきりしていて好き嫌いが露骨に分かる人物です。好きなものには犬のように尻尾を振って懐いて、嫌いなものは視界の端にすら映しません。

 Kさんのことは苦手だと公言していましたが、そういう割には頻度に連絡を取り合っているし会いに行くしで、自ら好んで関わろうとしていました。

 その理由が、あの性格ゆえに友達がいるかどうか心配だったという、自分を棚上げにしている心配性BさんがKさんを放っておけなかったから何ですが。

 さて、そんなBさんとKさんですが、実はこの二人も中学校時代からの友人で高校は同じ関東であるもののKさんより五駅ほど遠い学校に通っていました。しかもBさんは高校に通いながら仕事もしているため暇のない人物です。

 それでもKさんの怪我を聞いて急いで病院に突撃し、人ごみから親を見つけた子供のように声を張り上げて病室に入ってきました。


「Kたぁぁぁぁぁん! 大丈夫なのぉぉぉぉ!」

「病院では静かにしろ馬鹿者!」


 当然ですが早速Kさんに怒られました。ついでに仕事を休んでまで来たBさんに対しAさんと同様に怒ったのも言うまでもありません。だけどBさんは「Kたんは素直じゃないね。でも嬉しい。ボクのことよりも自分の心配しろってことなんだよね。ありがとう」と嬉しそうに笑顔を浮かべます。本音を読み取られたKさんは恥ずかしくてうつむきました。

 Bさんが「照れちゃって、可愛いねぇ~」とからかうと「五月蠅い! この駄犬が!」と返されました。でも顔が真っ赤だったのでBさんは気にしていません。

 BさんがKさんに聞いたのは、犯人がKさんを階段から突き落とした理由でした。何があってそこまでの行動に至ったのかをBさんは純粋に気になっていた様です。

 当時はわからなかったKさんですが、Aさんの手によって犯人かわかった後犯人に直接聞いてみるとどうやらKさんに問題があったらしいです。Kさんは部活動で大変優れた才能を秘めていました。

 努力家な彼女はそれに過信することなく練習はしていたんですが、何というか……Kさんは言葉が足りない上に随分と上から目線で発言をすることが多く、更に自分の行動を制限されることを嫌います。

 Kさんの偉そうな態度に犯人は良心で注意をしたらしいのですが、ずいぶんと冷たい態度を取られて、挙句に「余計なお世話よ、私の邪魔をしないで」的な発言を受けて犯人がカチンときた人が恋人にそれを愚痴り、憤慨したその彼氏が行動に至ったと説明したんです。話を聞いたBさんはKさんに言いました。


「二度とこういうことを起きないように性格を改善しよう!」


 興味のないものには一切心が動かなKさんはすぐに断りました。だけどBさんはしつこく粘り、最終的に「また怪我をして○○○(Kさんの得意なもの)が出来なくなってもいいの!」と言えば、Kさんはいやいや仕方なくしぶしぶながらも頷き、二人の性格改善大作戦が始まりました。

 結果的にBさんの提案は良い方向に進み、性格のせいでしょっちゅう嫌がらせを受けていたKさんのそれはぱたりと止みました。その上周りからも少しずつですが、Kさん自身を理解されるようになっていきました。

 おかげでそれ以後、陰ではこそこそ言われるものの、今回のような危ない目に遭うことはなくなったのです。心配性なBさんの突飛な行動により、Kさんは救われました。

 この時初めてKさんは、Bさんが自分のことを自分が思っている以上に好きなんだと気づきました。

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