異世界転生先の世界が完全にスーパー銭湯だった

@aino888

第1話 倦怠な休日ルーティーン

 なんの予定も無い休日に目覚ましのアラームをかけるかかけないか、なんて話を遥か昔にしたことがあった。高校時代だったか中学時代だったか今ではもう定かでは無いし、誰とそんな話題になったかも覚えていないが。その時から俺はずっとかけない派だった。

 アラームをかけずに寝ると俺の場合起きるのは午後過ぎだ。休みの前日は無駄に夜更かししてしまうので次の日は絶対に起きられない。夜更かしすると何時間寝ても眠いのは何でなのだろうか。何度寝もしてしまう。

 30代になってから休日に予定が入らないことが増えた。周りの友人たちは俺以外結婚してしまったし、彼女も長らくいない。誰からも誘われない。俺も誰かを積極的に誘ったりしない方なので必然的に休日は一人だ。ここ2年くらい休みの日はほぼ毎回明け方まで酒を飲みながらゲームして昼過ぎまで寝て、牛丼屋で夕食を食べて帰り際にスーパーで酒とつまみを買って帰ってまた明け方まで酒を飲みながらゲームをするという繰り返しをしている。一人暮らしで無趣味の独身男性は皆同じような生活をしているのだろうか。同じような生活をしていてほしい。自分だけだと不安になるので。


 この日も俺はいつもと同じように休日を浪費していた。前日調子に乗ってワイン1本を開けてしまったのでいつもよりも体が重い。下手したら明日の仕事に支障をきたす可能性があるくらいに体が重い。こんな時にはスーパー銭湯に行って体を癒すに限る。目覚めたら16時だったけれどスーパー銭湯だったら今から行っても問題ない。どこか他の場所に遊びに行くのであったら、翌日の仕事に備えて早めに行って早めに帰ってくるのが望ましいが、スーパー銭湯ならば癒されに行くのだからいつ行って帰ってきてもいい。帰宅したらすぐ寝てしまえばいいのだから。

 そう思い立ち、着替えだけを済ませて家を出た。顔はどうせ銭湯で洗うし歯も向こうで磨くから何も身支度しなくても良いのが最高だ。ヒゲが伸びているのが若干気になるが、マスクをしてしまえば見えないので問題ない。

 電車を数駅乗って目的地に到着だ。余談だが、スーパー銭湯は往往にして郊外にあるので結構行くのにハードルが高かったりする。俺はそれを考慮してお気に入りの施設に一本で行ける場所に住んでいるのだ。


 靴を靴箱にいれ鍵を閉めて、靴箱の鍵と会員カードと一緒に手渡す。ほとんどのスーパー銭湯はフロントで靴箱の鍵を預かるがこれはなぜなのだろうか。食い逃げならず入り逃げのを防ぐために人質ならぬ靴質を取っているのだろうか、などと考えているうちに受付が済んだのでタオルと館内着を受け取り男性浴室へと向かう。何だかこれから風呂に入るというワクワク感で体の重さがマシになった感じがする。足取りも軽やかだ。

 脱衣所に足を踏み入れると、客はほとんどいなかった。ここの施設は流行りの岩盤浴はなく館内も古びているので若者やファミリー層はあまり見かけない。客層は壮年層〜老年層がほとんどだ。そこがこの施設の良いとことだ。キラキラした若者やファミリー層を見ると自分と比べて惨めな気持ちになってしまう。

 服を脱ぎ捨て大きい浴槽にドボンと入りたいところだが、あくまでも公衆浴場なので自分を抑える。速やかに服を脱ぎ、はやる気持ちを抑えてそれらを丁寧にたたみ、腰に小タオルを巻いて鍵を閉める。ロッカー鍵のバンドを右手に巻きつけ、いざ出陣だ。

 体と頭の洗浄を早々に済ませ、高濃度炭酸泉に入る。ここの炭酸泉はあまり温度が高くないので一番最初に入るのにちょうど良い。しゅわしゅわとして泡が体に当たる感覚も心地いい。お湯に浸かっている部分全てが泡に包まれると一気に体温が上がる感じがする。特に股周辺の温度の上昇が著しい。皮膚が薄からだろうか。炭酸泉を満喫したところで次なる風呂に移る。露天風呂か、ジャグジーか、はたまた電気風呂か。悩みどころだ。すごく贅沢な選択肢だ。どれに行っても満足するのは間違いない。恋愛ゲームのハーレムエンドよりもこっちの方がよっぽど良いと思ってしまうのは俺が枯れてしまったということだろうか。

 しばらく熟考し、サウナに向かった。



 サウナ室内は熱気に包まれていた。当たり前か。温度計は98度を指していた。狭いサウナ室内に中年男性2人、老人1人がゆでダコのように顔を真っ赤にして

詰め込まれていた。あと5分も入れば俺もゆでダコの仲間入りだ。

 昨日の酒の悪い成分よ汗になって出て行け、と念じながら汗が出るのを待つ。早く出て水風呂に入りたい。水風呂の快感を最大限高めるためにしっかり暖まらなければ。


 サウナに入ってから5分が経過した。少し汗が吹き出ている。さっきから視界にを黒い丸がウロウロしている。熱射病にかかった時に同じような症状に襲われたことを思い出した。もしかしたらやばいんじゃないだろうか。そういえばさっきから体の感覚がない。どうしよう、なんとかしなくちゃ……。おじいさんの大声が聞こえる。何て言っているのかわからないけれど、怒鳴っているような感じがする。あれ、俺何で耳あんまり聞こえてないんだ。俺は意識を手放した。







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