第4話
「
「うん、まあー小学校の同級生でさ。中学までは同じ所に通ってたんだけど、高校は離れたよ。僕も会うのは久しぶりだ。」
中学まで続いていた仲が高校進学をきっかけに途切れてしまうと言うのはよくあることだ。
「あいつはなんと言うか、こういう噂とかを趣味で調べてる様な昔からかなり変なやつだったからさ。あいつなら何か手掛かりを持ってるかもしれないと思ってな。」
そして、白陀神社に僕達は辿り着いた。
閑静な住宅街の一角にそれは存在し、まるで空間そのものを仕切るかのような竹林が左右に生えた鳥居は異質な雰囲気を放つものであった。
「何故か基本ここに居ることが多い奴だから多分会えると思う。」
果たしてあいつはそこにいた。
神社の御堂の賽銭箱の隣に腰掛けて本を読み耽っている。
「……やあ。久しぶり。」
長らくあいつとは言葉を交わしていなかったので一瞬なんて声を掛けたらいいか戸惑ってしまったけれど、選択した言葉に特に問題は無いだろう。
「うん? その声は何処かで聞いた事があると思えば神澤くんじゃないか。どうしたんだ?」
千嶋幸樹は少し割腹がよく、髪型も前髪ストレートでよくキノコみたいだなと思っていた。
性格や言動は割かしキザなことを言うことが多い彼ではあるが、お世辞にもその顔立ちは整っているとは言い難い。
しかし、ひょんな事から何かと気が合う事も多く昔からつるんでいた。
「おや? 隣に居る素敵な彼女は君のかい? なら随分といいご身分になったものだね。」
「え、いや……そんなのじゃないけど……。」
「友達です。」
はっきり言われた。
少々傷つく。
「まあ、冗談だよ。まさか君のような奴に彼女、ましてやここ一帯では有名人の朝比奈由美さんと付き合えるだなんて微塵も思っちゃいないさ。」
「え? 知っているのか?」
「俺の情報網を甘く見ないでくれ。」
そもそも他校の女子生徒の情報を知っているなどむしろそっちの方が事件の匂いのするような発言であるが、ここらでは有名人ということに変わりないので、知っていて当然だろう。(奴は情報網などと少々かっこつけた言い方をしているが)
「まあ、そんな有名人を連れて君がここにやってきたってことは、何かあったのかな? 例えば最近噂になってる記憶泥棒に接触したとか。」
鋭い。
「……まあ、そうなんだ。」
「マジで?」
幸樹は驚きのあまり素が出たようだ。
そして僕は簡単にこれまでの経緯を幸樹に伝えた。
*****
「なるほど。いささか信憑性には欠ける話ではあるがこれ程大きくなっている噂だ。十分に関係している事は間違いないだろう。」
「それで、僕達はなんとか記憶を取り戻す方法を探しているんだ。どれだけ少なくてもいいから、なにか情報は無いか?」
長い説明を終え、やっと本題について切り出した。
すると幸樹はニヤリと笑い。
「まあ、当然俺はその噂も現在調査していた。つまり、君達は奴から直接被害を受けたとなれば予定外に俺にとって良い情報源となる。その情報と俺の情報を交換で取引といこうじゃないか。」
得意気にそう言ったのだった。
どうやら幸樹を当てにしたこと自体は間違ってはいなかったらしい。
今の僕らにとっては案外心強い助っ人なのかもしれない。
「わかった。」
交渉成立だ。
「ところで君達は、
「……?」
そう言って、幸樹は自分のケータイの画面を僕らの方に向けた。
「これって……。」
「まあ、いわゆる裏サイトってやつさ。」
でもまあ、君が木四宮高校に受かったなんて聞いた時は冗談かと思ったよと、幸樹は僕を見下しているような言動は相変わらずのようだった。
「大半は生徒達の愚痴や先生への陰口なんかが書き込まれてるけど……おっと、これはいじめかな? 酷いことをする奴もいるなあ。まあ、今は関係ないから置いておくとして問題なのはこれだ。」
そこには、「記憶泥棒被害者の会」なるタイトルの書き込みの掲示板のようだった。
「ここに上がっている名前だけで10人以上は被害者を名乗ってるな。まあ、自称被害者も中には居るんだろうけど。」
そういう君達も自称といえば自称か。
と皮肉を言ってくる。
「あの! 私達は、嘘ついてません。」
今まで口を開かなかった彼女の急な反応に僕は面食らってしまった。
由美の反論は不意打ちだったようで幸樹にしては珍しくキョトンとしていた。
「いや、勿論冗談さ。気を悪くしたのなら済まなかった。とにかくこうして今までは情報源があったとは言ってもほんの一部だろうから、やはり君達の情報と合わせたとしても真相には辿り着けはしないのだろうね。」
「辿り着け無いって……それじゃあ僕達は困ってしまう。何とかならないのか?」
「まあ、焦るな。君達はあの学校の生徒、そしてあの学校にその記憶泥棒の被害が一番多い。つまり、情報の宝庫だ。それは君達が直接情報収集にあたるのに手っ取り早いだろう。」
聞き込みは捜査の基本って言うだろ?
と、付け加えて幸樹はまたもニヤリと笑う。
随分と回りくどい言い方だが、とにかく聞き込み調査をしろ、とそういう事だろうか。
「そういえば、由美の友達の先輩が被害にあったとか言ってなかったか?」
あの佳子とか言うやつの先輩だっただろうか。
まあ、名前はどうでもいい。
「あ、そっか。ならその人に聞けば何かわかるかもね。」
と、そこで僕は自分で提案した事ながらふとこんな事を思ってしまう。
僕も記憶を奪われながら、何も手掛かりも無かったではないか。
それなら結局その人にせよ、何も手掛かりは得られないのでは無いのかと。
本人にも分からないことを聞き出すことなんて、不可能なのだから。
「いや……でも、やっぱり僕達が犯行現場なんかを目撃もしていないし、気づいたらいつの間にかって感じだったじゃないか。本当にそんなので手掛かりを得られるのか?」
「いやいや、神澤くん。当たるとも当たらずとも、何も無いなら他を当たればいいさ。人数が二人だけというのではローラー作戦とまでは行かないけど、とにかく数打ちゃ当たるってやつさ。」
「そうだよ! やる前から諦めちゃダメだよ。」
……そうか。
僕はここ一年は全く仲間という物を持ってはいなかったが、改めて仲間という物は居るだけでなんだか根拠は無いのになんとかなってしまいそうな気がしてくる。
今の僕には仲間が出来たのだと。
そう深く実感した。
「ごめん。そうだな、とにかく何かやってみるか。」
「それじゃ、また数日後にここに集まって情報整理という事でいいかな? 君達は学校で聞き込みを、そして俺は色々と調べてみる事にするよ。それじゃ、解散。」
そして、気づけば空は随分と暗くなってきた。
日は長くなってきたとはいえ、流石にそろそろ帰らなければいけないようだ。
「あのさ……その……ごめん。」
僕は幸樹に謝る事にした。
「何を謝っているのか、君は何か俺に悪いことでもしたのかい?」
「僕は……その……お前の事をはっきり言って避けていた。本当に酷いことだとは思う。それでも、お前は僕を仲間だと思ってくれるんだな。」
「当たり前だろ、友達じゃないか。」
そう、彼は相も変わらずいつもの調子でキザな台詞を言うのだった。
その一言で、僕の心の中のわだかまりは綺麗さっぱり消えたような気がした。
「ああそうだそれと、最後に一つ聞いてもいいかな?」
「なんだ?」
「朝比奈由美はどうして君と居るのかな?」
どうして僕と居る?
「なんだそれ? 一応、最初にも言った通りそういう関係じゃないし、別に何も疑問に思う事も無く単にお互い被害者ってだけで協力してくれてるんじゃないのか。」
「いや、まあそんなに気にしないでくれ。これはただの好奇心で聞いた質問だからね。」
どうにも要領を得ないな……どういう事だ?
すると、鳥居の向こうから由美が呼んでいた。
どうやら帰るべきのようだ。
僕は一抹の不安を胸に帰路に着いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます