第25話 ねむけ
存在するものを否定し、存在しないものを解釈するのが、時代を問わず哲学者の共通癖である。
――「新エロイーズ」第6部の手紙10へのルソーの脚注
万物の移ろいやすい本性を見抜くことにかけては、わたしは傑出していると自負するものだ。まことに奇妙な傑出ぶりであって、わたしのいっさいの歓びを、いやそれどころか、もろもろの感覚をすらそれが廃物にしてしまうのだ。
――「生誕の災厄」E・M・シオラン(紀伊國屋書店)
少年は
ソルはあいての
目も
にらみ合いが、つづきます。彼は、おなじ
「ちぇっ、もったいつけやがって……」
小声でブツブツ。
オレがなんかするの、まってやがんな。クソ……。
じっさいのところ、もったいつけているというワケではなく、それが
「おいっ!」
シールドにポツポツ、ツバが、かかりました。
水中で聞こえるわけありませんが、ソルはわかっていて、やっています。こんどは、
「おいっ!」
「おいっ!」
ヘルメットの中で大声を出し、ブウン、ブウンと水を切りました。
彼はこの時点では、
「おーい!」
「ブウウゥン、ブウウゥン、ゴボボボボ……」
「おーい!」
「ブウウゥン、ブウウゥン」
「おーい」
「ブウウゥン、ブウウゥン、ゴボボボボ……」
アレ、もしかして、ぜんぜん気づいてないかも?
ますます
「おい! なんとかいえよ、コルァ!」
「おま――」
「ウルサイ」
ドン! とハチキレそうになるソル。
「ゴボボボボ……」
あたりは、しずかでした。
おそるおそる、小石を
「おーい……」
「聞こえてるか……」
「お――」
「聞こえてる」
やっぱり
「なんだ、気づいてたのか」
キョドリつつ、なにくわぬ
しばらく間が
「よごしてくれたな」
「あ……、うん……」
「
「あ……、うん……」
「……」
あれ、なんで水の中で聞こえてんだ?
と、思ったとたん――
「お前が自分に、はなしてる」
すかさず、彼の中で
「人間じゃないんだ、
?!
「そうだ、その
今まさに思い当たるフシが、
――じつのところ
とくに
みんなでたがいの力をそぎ合い、
もはやロストドラゴン
「――つまり、どういうこと?」
うまく考えが、まとまらないソル。
「……」
「――ん、だから?」
ぶしつけに
「メンドウクサイな……」
イヤイヤといった感じで、
「お前らの
イヤな
「心をよんでいるの?」
「つまらないことを言うな。
「いってんじゃんw」
「出会わす、くらいはするさ。お前はウルサイ。こっちは、ただ
生アクビ。キバにとどまっていた
「べつに分からなくていい。お前の方で
やっと
「ジチョ―?」
「なにいってんの? ちがいが、わかんないんですけど?」
「わからなくていい、といっている」
まだ、なんかあるのかと、イラつく
「どけ、ジャマだ」
「石だ。石とおなじだ。かんちがいするな」
「石? 石になに、いってんの?」
「うごける石だ。お前からどけ」
「そんなもんないよw」
「どっちでもいい。お前らの
「はぐらかすなよ」
「うごきたくないんだ」
そういったきり、しゃべらなくなりました。
とうとう、しびれを切らしたソルは、かるくツバを
「ねえ……」
へんじは、ありません。
「ねえ」
「ねえ」
「ねえ」
「ねえ」
「ねえ」
「ねえ」
「ねえ」
「ねえ」
「ねえ」
「ねえ」
「ねえ」
「ねえ」
「ね――
「ウルサイ!」
やっとのへんじに
「あのさ……」
「もういいかげん、返ってくれないかな……」
「きてよ」
「……」
「きてよ」
「……」
「きてよ、まちをこわしに」
「
「しらん……」
「そういうキマリだろ?」
「しらん」
「だって、そういう
「だから、しらん!」
「……」
「……」
「お前らが
「そのままつづければ良いじゃないか」
「なにが
「つづければ良いじゃないか。いつまでも、いつまでも」
「生きつづければ良いじゃないか。どこまでも、どこまでも」
「ただ、
しゃべり
「……いみ、わかんね」
ソル。
「わからなくていい」
と言った後、
「ところで他の三人には、この世で
「なに、いってんの?」
「
「だから、なにいってんの?」
「
「なんかよくしらんけど、むかしっから、ねつきメチャクチャわるいんだけど」
「なんだイリヤか」
「なに?」
「なんでもない」
はなしを、もどす
「気がついているか? お前らは、とっくに
「はぁ? なにいってんの」
「だから、わからなくていい。といっている」
「もう、またかよ」
もったいつけやがって。いるよね、こういう大人。じぶんだけ、わかってりゃいいじゃん。じぶんだけ。ホントはなに言ってるか、じぶんでも、よくわかってないくせに。ブツブツ……
「お前らの
「は?」
とつぜん、なにいってんだコイツ。
「出し
「ちょっ――」
クチバシを
かまわず、つづける
「ものごとの
「みずからの
「
「
「ストップ! ちょっとぉ、なに一人でいってんの?」
手を前に出し、
「なんのこと、いってんのか、さっぱりなんですけど?」
「お前の
「ハァ?」
「お前の目に移った、
「とにかく、オレ
「お前が
さえぎる
「こっえー、ぎゃくギレかよ」
「
「しらんよ……」
ソルは、なにも思いうかびません。
間のわるいデジタルな時間が、すぎていきました。
重たくなった空気を
「ところで、あんたって、なに?」
かなり時間をおいてから、ようやっと、
「なんで、へんじを
「さいごだから、いいだろ」
彼は少しヒクツに、ニヤリとしました。
「エラン……」
「え、なに?」
「なんでもない」
「なんでも、なくない?」
「石だ。お前より大きい石だ」
つくづく、ガッカリするソル。
「そうかい、こたえる気はないってか。あんたの方こそ、ケチじゃないか!」
「こっちも
「は?」
「一人
「はぁ~?」
「イヤもとから四人だし。なにいってんの? (笑)」
また、つごうよくダンマリかよ。やっぱりこのじいさん、モウロクしてる……。
どっと
つづければいい。いつまでも、いつまでも。
それを
「あっ、ずっりー。いい
あたりはすっかり、月明かりがさしこんでいました。
ソルは
「わあー!」
とつぜん、さけび声。
「おまえを、ぶっこわしてやる!」
「クララン
水にむかって、がなりたてます。
「このまま、うごけないんだろ!」
「いつかおまえを、こわしにくるからな!」
「かえってきてやるからな!」
目の前には、白っぽくすすけた
「おぼえてろよ!」
サッと、
どういうわけか、こんなところにカンオンがいます。今まで、
これって、オレの?
だれかのと、入れかわった?
エネルギーターミナル(エネルギー充填装置)、
彼は目の前の
マジまだ、ねてんのかよ……。
ソルの前には、
フワフワとしているのは
ひととおり
「まあ、いいか。ほっときゃ、そのウチかわくだろ」
カンオンが赤く
カンオンをあらためましたが、なんだかサッパリわかりません。か細い
「ぶはっ!」
と、はき出しました。
なにもかも、あいそがつきました。
「またオレのせい?」
へへっと
オレの番になると、いっつも!
じぶんがなにかをしようとすると、かならずジャマが入る。彼はそれが
てめーら、いいかげん、おきろ!
と
なんで
バカバカしいじゃん。
なにかしようとして、なにか考えようとして、メンドーくさくなってやめました。
足を引きずるよう端(はじ)っこまでいき、ドサッと、こしを下ろしました。
「もう、しらねーよ」
とめどもなく生アクビが出て、なんだか、ねむくなりました。
ゴロンと横になりました。体をまるめ、
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