第9話 Imagine
ニコライは、ピクリとも動きませんでした。
彼は、みんなの中では
「ピィーピィーピィー、タンカを、とおさせていただきます。ごちゅういください」
「ピィーピィーピィー、タンカを、とおさせていただきます。ごちゅういください」
「ピィーピィーピィー、タンカを、とおさせていただきます。ごちゅういください」
「あ、タクちゃんだ」
「タクちゃんがくるよ」
「タクちゃん
子らはクスクス、わらってます。
リニアタンカ(地面からわずかに浮いた浮遊型) が、
タンカの
その
この手のデータは、
すべてをカンオンに
「ピーピーピー、きけんだよ。そばに、よらないでね」
「ピーピーピー、きけんだよ。そばに、よらないでね」
「ピーピーピー、きけんだよ。そばに、よらないでね」
赤い
手ばやくベッド台に、使いすてシートカバーをはり、三歩はなれたところから、リモコン
「ピーピーピー、ブームを下ろさせていただきます。ごちゅういください」
「ピーピーピー、ブームを下ろさせていただきます。ごちゅういください」
「ピーピーピー、ブームを下ろさせていただきます。ごちゅういください」
手ぶくろにマスクの
「ピーピーピー、あぶないよ。ちかよらないでね」
「ピーピーピー、あぶないよ。ちかよらないでね」
「ピーピーピー、あぶないよ。ちかよらないでね」
タク(37)は、
「今日のニコライのかかりの人は、だれですか?」
だれもこたえません。
「今日の、ニコライの、かかりの人は、だれですか?」
「今日のかかりは、だれよ?」
やや、声をあらげていいました。タクはだれに対しても、ものおじしないしゃべり方をしました。そのせいで、たびたびトラブルにみまわれましたが、
ほんらいなら、ソウルメイトの
「ハイッ」
「それでは、ほかの子がぶつからないように、タンカの後ろから、ちゅういして、ついてきてください」
タクはマニュアルの
「それでは、バックします。みんなさん、さがっていてくださいね」
「はぁーーい」
子らが
ギヤがバックに入りました。
「ピーピーピー、バックさせていただきます。ごちゅうい下さい」
「ピーピーピー、バックさせていただきます。ごちゅうい下さい」
「ピーピーピー、バックさせていただきます。ごちゅうい下さい」
間をおいて、タンカがモタモタ、うごきはじめました。
「ピーピーピー、タンカを、とおさせていただきます。ごちゅういください」
「ピーピーピー、タンカを、とおさせていただきます。ごちゅういください」
「ピーピーピー、タンカを、とおさせていただきます。ごちゅういください」
ろう下を
リトリート(保健室的なヘヤ)につくと、鳥のときの
タクも
タクはこしをおとし、
「それでは、きみが、ニコライの、ホットパンツと
「きみが」のところを、一番つよく
おどおど、おしきられるソル。使いすての手ぶくろをわたされました。
おそるおそる、ホットパンツを人さし
「ゲホッゲホッ、ゲホゲホ、ゲホホホ」
タクのしじどおり、大ぶりのぬれティッシュでふきとるというより、こそぎ落します。
「ありがとうソル」
ぼうよみで、タクはいいました。
タクは、たなから新しいものを二つだして、ソルに手わたします。
「きみが、ニコライに、新しい
はっきりした
「ありがとう、ソル」
けっきょく終わってみれば、すべて彼一人でやっていました。これはマイノリティーのたちばにたった、
「おわりました。スズキさん」
タクがいうと、スクールドクターがうなずき、カンオンとのやりとりをやめました。
「ありがとうソル、よくやってくれたね」
さらりと、スズキ(30)がいいました。
彼はソルをともない、あいているベッドの方へいき、そこへこしかけ、ソルにもすわるようにうながしました。彼はなんとなく、イヤな
スズキがきりだします。
「さあ、きみが今やったボランティアについて、どんな
ボランティア? ソルは心の中で、
「今なにを感じているのか、そっちょくにぼくに、はなしてくれないかな?」
「えっと、かんそうですか?」
「きみはニコライのこと、どう思ってるのかな?」
「かんそうを、ゆうんですか?」
「きみはハンディのある、ニコライのことを、どう思ってるのかな?」
「ニコライのことですか?」
まずいことにソルは、三回つづけて、
「だれのことだと思ったの、きみのかかりでしょ」
「はぁ」
「はぁじゃなくて、彼のたちばになって考える、いいきかいになったでしょ」
「マイノリティー
「はあ」
「はあじやなくて」
「なんか、イヤイヤやってなかった?」
「えっ」
「きみはマイノリティーの人のこと、その人の身になって考えたことあるの?」
「その人の気もちになってみたことあるの?」
「……」
「その人の
「……」
「ニコライは今、どんな気もちだと思う?」
「えっと、今ですか、おきたらですか、
ソルのトンチンカンな空気を
「リクツをいってるんじゃなくて、人の気もちのことをいってるんだが?」
ソルはスリーテンポおくれて、のみこみました。この人は
「……」
「きみあのとき、すぐに手を上げなかったよね」
「ほらオレが、かかりの人って、言ったときさ」
だしぬけに、タクがわりこんできました。
「ちょっときみは、だまっててくれないか」
イラッとして、スズキがいいました。
「あ、サーセン」
タクは頭に手をやり、すぐに引っこみました。
「へへ、またおこられちゃったよ」
「また、よけいなことをいう」
ななめ下を見て、小声でスズキがぼやきました。
「だいたい、
「……」
「もしかしてきみは、ニコライとか、ハンディキャップのある子とか、女の子たちとか、マイノリティーの人たちを、
「いっておくが、彼女たちや彼らの方がきみなんかより、ずうっとガマン強いんだぞ」
「ハンディを、ものともしない、
「いえ……」
ソルは消え入りそうな声で答えました。ナミダぐんでいましたが、こぼれないよう、こらえていました。
「だいじなことは、こうしたふれあいの中でカベをつくらず、きちんと
「イヤ、これはあくまでボク
「きみの方は、どう思っているのかな?」
ハイと
けっかは、いつもどおり
成熟(平均域化)できない自分のなさけなさ、
ホントか?
ホントウは、はじをかかされて
じゅくじゅくした
ぎゃくに
さいげんがなくなり、いっぱい、いっぱいになってきました。
スズキにだけ、ハラを立ててるんだ。
そう思いこもうとしても、うまくいきません。自分に対する
「
気はずかしくも正しい、そんな
けっきょく、鳥のことはきけずじまいでした。
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