第7話 迷路 2 ダイ
ダイは高いところが好きでした。そこから見下ろす
「オレはまだ、こんなところで
「オレにとってこんなところは、まったくふさわしくない」
「オレにかげりは、まだにあわない」
「オレはオレに対し、ただ、よろこばしい
これは今の心のさけびではなく、彼の
彼にとっての
ダイのまわりには、カンオンがいませんでした。
ごく一部の、
ギュゲスの
ある日のこと、ひつじかいギュゲスが、じしんによってできた
この後すったもんだあって、
ギュゲスの
カンオンをこわしたり、すてたりしたもの。また、ギュゲスの
カンオンから消えるという
また
それら、じったいのない
フェンリル大橋の上で、とりまき
ベレー
キョロキョロしないよう、目だけで、ダイはあたりを見わします。チラリと、赤いモノが目のはしに入り、消えました。
さわがしい
しずかになったところで、おもむろに
のけぞってそりかえり、ノドボトケをおどらせながら、グビグビ一気にあおってゆきます。
こぼさずカラッポになったビンを、ゆっくりと口もとからはなすと、空中で
しばしの
天をあおぐよう、そらした上体。ダラリとたらした
ぐらぐら
顔を上げ、りょう手で天をあおぎ、もったいぶった
ふいにのけぞってフラつき、そのまま落下しました。
「ダァーーーーーーーーーーーーン」
コーナーポスト最上だんからのボディプレス。みたいなハデな音をさせ、
しばらくもめていたかと思うと、
パチパチと、まばらに、はくしゅがおきました。
のこった一人からマイクをうけとると、まぶしそうにも、ねむそうにも見える目に手をかざして、ダイはあたりを見まわしました。
「みなさん、こんにちは」
フッと
「なんか、ここ、まぶしくないですか?」
目をいっそう細め。
「あー、なんか、まぶしいですね」
あたりを、かくにんします。
「まぶしいですよね?」
耳に手をあて。
「まぶしくないですか?」
はっきりと。
「私は、まぶしいです」
ある人をさします。
「あなた、あなたは、どうですか?」
「光が多すぎると思いませんか?」
つぎつぎ、人をさしてゆきます。
「あなた、あなた、あなた、あなた」
「あなたは、どうですか?」
「お日さまの光だけで、十分だと思いませんか?」
ナナホシテントウの
「ああいった目に見える、手にふれられるもの、
「見えるもの、聞こえるもの、さわれるもの、あじわえるすべて。まあ、われわれも大きな音をたてますが、今だけです(笑)」
「私が光といっているのは、たとえです。たとえばなしです」
「光とは、目からだけではなく、耳からも、鼻からも、口からも、
「あらゆる
「ザックリいえば、メディアのことですね」
「それに、
それらの
「わたしにとって光とは、外部からの
ぐっと一口、水をのみました。
「ある
「その
しきりなおします。
「みなさん」
「われわれの、今いるここは」
「ここはどうしてこんなに、明るいんでしょう」
「今、わたしたちの生きているこの
「だれの
見まわして、しばらく、間をおきます。
「そうです、わたしたちの
「他に、だれがいるんですか」
フフッと、わらいました。
「われわれは、くいあらためねば、なりません」
「このかたよった
「まだ、光が足りないというのでしょうか」
「足りないのはむしろ、
気をあらため。
「みなさん」
「
「
少し間をあけます。
「われわれは、むきだしの
「人間はありのままの
「
「新しくすること、変えること、
「いったい、なにをそんなに、いそいでいるんでしょう? なぜ、われわれは、こんなにガマンができなくなったのでしょうか?」
「動くのでなく、ただ動くことに、今さらなんの
ここらへんでダイは、いつもの手ごたえのなさにみまわれ、フゥーと
「
「これらの、どこに出しても
「しかし、これら
大きく手をひろげると。
「みなさん、よく聞いて下さい。
にらみをきかして。
「
「いいですか、みなさん」
「人は
やや、間をあけると。
「人間がほしがるのは、人間なんです」
「つまるところ
「一人では食べきれぬ
「一人では
「ほんらい、
「その大もとのエネルギー
とつぜん、だれかを
「あなた、おてんとさんから、
「ないですよね。すごくないですか? なんたってあなた、ただ、なんですから(笑)」
オーディエンスから、少し
気をよくして、つぎの
「人は
「水を止め、森をはがし、
「モノはまだマシです。モノはずっと、ためてはおけませんから。場所をとり、いつかは
「だが、そうでないモノがあるんです。それは、コトバやお金です」
「とうしょ、それらはモノのかわりでした。
「そしてとうとう、われわれは、
「
「われわれの生み出した、この高度に
「
「すでに老いて
ここでいったん立ちどまり、
「明日を思い、みずからじらし、
「イメージは
「他者をつなぎとめ、より
「おなじことをしても、あそびと
ぐっと、力づよくこぶしを上げました。
「私たちは、このいつわりの
「パチパチパチパチパチパチ……」
「さもなくば、
「パチパチパチパチパチパチ……」
「
ダイは声をはっていましたが、だんだんヘタレてきました。心のなかで「あーもうマジうぜぇ、かえりてぇー」とボヤき出しました。彼はすぐに
「みなさん」
「おわかりでしょうか、みなさん」
「私はコトバの上のコトバでしかない、
キリッとなり。
「心の
「あいまいであるコトバを、あいまであるイメージを、あやつり、あやつられる
「人のもつ
「もはや、われわれの
「
「
さいごの方はヤケになって、声がしゃがれていました。
「パチパチパチパチパ……」
一人の
「ちゅうとはんぱな
「それにねばり強く
とちゅうから、グダグダしりすぼみになってしまいました。
「パチパチパチパチパチパチ……」
ダイはチラチラ、
彼はさっきからずっと、目のまわりがむムズがゆくって、たまりませんでした。がまんしていたけど、もうかまわずゴシゴシやりました。
「ヤッベー、もういいや、けっこうしゃべったし。もうこのへんでいいんじゃね?」と思ったやさき、目がチクッとします。あらたな文字が空中にうかびました。
「ちぇっ」
彼は声にだしていいました。ナミダが
ハイハイ、わかりましたよ。わかりましたよ。彼は
「プふぅー」
口をぬぐいつつ、空になったビンを高々とかかげます。
彼は
「みなさん、これがなんだかわかりますか?」
「これは水です」
「ただのお水です」
「われわれが
いわなくてもわかっているだろうと、なんども
「水は水ですが、ただの水ではありません。
「ではありません」
口から下で
「もちろん、わるい水でもありませんよ」
また、おなじように
「これは、完全なる水です」
「水はどこにでもあります」
「空にも
「水は空からふってきて、空中をただよい、しっけでわれわれをうるおします」
「すいてきが
「いくすじもの
「そして、水はいたるところで
「水は、ありとあらゆるところを流れてきました」
「もしかしたら、わたしの中をながれる水は、かつてあなたの体の一部だったかもしれません。あなたの体の中をながれる水は、あなたの好きな人、きらいな人の一部だったかもしれませんね」
「水は私たちと同じように、
「水はすべてをしっています」
「水は
「
「やがて水は、だれからも
「どうですか、あなた?」
ふいをつくように、一人をゆびさしました。
「ここに今、こうして今、この水はあります」
「私の前に、あなたの目の前に」
カッと、目をあけ。
「あなたの目の前に!」
ぐっとビンを持ち上げ、さらに彼女をにらみつけます。
「こうして、たどりついたのです」
テンションをさげながら、いいました。
「みなさん。ここに、これがあるということは、はたして
「あなたは今、たった今、私と出会いました」
「この出会いの
「私がここにいるのは
ブルンブルン、
「だんじて、ちがいます」
さらに大きな声を出します。
「だんじて、ちがいます」
「われわれの中を流れる水が、あなたと私を引きよせたのです」
ずっと目を見開いたまま、彼はつづけます。
「水とは、なんですか?」
「それは、
「すべてをしり、すべてをふくみ、すべてをこえた、
「そう、水とは出会いなんです!」
「今日、わたしがあなたに会いに来たのでは、ありません」
「あなたが、私に
「あなたという水が、私という水に、
「パチパチパチパチパチパチパチパチ……」
彼はおおような手ぶりで、人々にそれをふるまうよう、うながします。おのおのに
彼は
「たしかな
「
「すべては、あなたしだいです」
「あくまで、
「もうこれ以上は、なにもいいません」
「すべては、あなたしだいです」
「あきらめては、いけません」
「あなたは、かわれます」
「かわれるのです」
「あなたの
「あなたの
「あなたの
「すべては、あなたしだいです」
「もう一度いいます」
「すべては、あなたしだいです」
「あなたがきめるのです!」
いいおわった彼は、じゃっかん年をとったように見えました。
「パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ……」
「パチパチパチパチパチパチパチパチ……」
「パチパ……」
ソルはとおく、けんそうの
やって来た道よりさらに明るい
ソルは、じっと手のひらを見つめます。今日一日中いろんなものをさわりまくって、
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