第19話 商人に目を付けられていました

 火事によって焼かれた焼け野原の外へ行くと、俺達の事を商隊が待ち構えていた。

 正確に述べると、商隊の一部ではあるけれど。


 時は俺とエリスが悪魔によって襲われていた村を助けに行った日にまで遡る。

 俺は森の中にいた全ての悪魔を殺して後に、再び魔力感知を使用するともう1つの集団がこの村へと向かってきている事に気が付いた。

 村に存在している魔力量的に、エリスが負ける事は無いだろう。

 そう思った俺は、もう1つの集団へと向かう事にした。

 もしかしたら山火事や悪魔を召喚した元凶なのでは無いかと考えたからだ。


 まあそう考えたせいで、助けられた命まで死なせてしまった訳ではあるけれど、別に俺は全知全能でも何でもない、ただの影だからね。


 そして偵察に行った結果が、この商隊であった。

 山火事が起きた事に気が付いてから、村民の救助しようとしていたらしく、馬車だけ置いて態勢を整えていたのだが、結局は火の勢いが強すぎて諦めたらしい。

 重要な商品を持ってきているのだから、そのまま帰る訳にもいかなかったのだろうが。


 そんな理由で、森を出た所で出会ったこの商隊の人達とは一応は顔見知り? の関係ではあった。

 まあ、俺は空から様子を見ていて、そこを目撃されただけなんだけどね。


 そんな商隊の一部がどうして俺の事を待っていたのか、直ぐにはピンと来なかったが、よくよく考えてみると、空を飛べる人間なんてあまり多くはないか。

 というより殆どいないからこそ、目立ってしまってを目付けられたといった所だろうか。


「やあ、私はローレンス商会のマーカスと申します。人の足では旅が難しいでしょうから、待っていたんですよ。」


 俺達を待っていた如何にも商人と言った格好をしたマーカスさんは、満面の笑みを浮かべながら俺達を出迎えた。

 しかし、彼が言った言葉は嘘だろう。彼は俺が飛んでいる所を目撃していたのだから。

 恐らくは、俺がエリスと共に歩いていたから、方針を変えて金をせしめようといった所かな。

 でも確かに、歩きだとそろそろ退屈だし、馬車に乗せてくれるんだったら乗せて貰おうかな。

 本来なら俺はエリスを抱えながら街へと向かっている筈だったのだが、飛ぶ事はエリスに全力で拒否されてしまったからな……。

 空から落として恐怖を克服させよう、っていう荒療治は寧ろ逆効果になってしまったのだろう。

 これから何かを克服させる時ははゆっくりと時間を掛けようと心に誓いました。


 ついでに言わせて貰うと、俺はお金を持っていないんです、エリスちゃん、お金ありますか?。


「料金はお幾らですか?」


 そう言う意味を込めて、エリスに視線を送ると、どうやらそれを察してくれたらしい。

 うん、契約者なだけあって阿吽の呼吸が出来ているね。

 でも契約者って人生のパートナー的な位置づけだよね……俺って女に金を出させる男なのか……

 まあいつかは金銭面では贅沢をさせてあげればいっか。


「無料でいいですよ。困っている時はお互い様ですからね。」


 おお! 無料で良いのか。

 商人って守銭奴ってイメージがあったけど、めっちゃ良い奴じゃん!

 これなら男としても恥ずかしく無いしね、ありがたく乗せて貰うとしよっと。


「お師匠様……何をそんなに喜んでいるのですか? こういうのは恩を売っておいて後で返させようって魂胆ですよ。」


 あー、そういう話、聞いた事あるけど、恩を売られたからって俺は何か頼み事を聞こうなんて思わないし……

 恩なんていう抽象的な物を気にする必要なんて無いと思うんだけどなー。


「気にし過ぎじゃない?」

「そうですよー、下心なんて少ししかありませんよ。」


 いや、下心あるのかよ!

 よくそんな満面の笑みを保ちながら下心があるとか平然と言えるな!


 ……まあ、確かに? 何の下心も無しに人助けをする人間の方が気持ち悪いけれども。

 俺だってあの村を助けたのは存在感欲しさと街の場所を聞きたかったからだしね。


「ですが……」


「この世界の常識を知らない俺が言っていい事じゃない気もするけど、まあ大丈夫でしょ。強くなるにしたって、冒険者をやるにしたって、もう少し気楽に生きていこうよ。」


「……そうですね。」


 俺がそう言うと、渋々ながらエリスは馬車に乗り込んだ。

 内装は、うん、普通。

 ありきたりの内装って感じかな?

 でも歩いて見る景色よりもこっちの方がダラーッとしながら眺められて、やっぱり馬車っていい物だなー。


「乗り心地は如何ですか?」


「こういうのに乗ってみたいと思っていましたけど、舗装されていない道の割には全然揺れないんですねー。」


 こういうのって舗装された道じゃないとガタガタになると思っていたけど、驚く程に揺れていなかった。

 それはもう、水で満杯のコップを置いてといても溢れないだろうと確信を持てる程に。


「魔道具を使用していますからねー。」


 俺の感想に商人はしれっとそう答えたが、何そのとんでもアイテム!!

 この世界にはそんな物があるの!?

 エリスも驚いているのではないかと思って、エリスの顔を覗き込むと、エリスはその事がさぞ当たり前のような表情を浮かべていた。

 よし、決めた、街に行ってお金をある程度稼いだら魔道具を買いに行こっと!

 お金は冒険者にでもなればある程度は稼げるだろうしね。


「そういえば、エリスの調査クエストって失敗扱いな感じ?」

「多分そうなりますね。まあ私以外は全滅してしまいましたし、ダンジョン自体は見つけられませんでしたからね。まあこのクエストの難易度を見誤ったギルドの責任もありますから、賠償金は取られないと思いますけど、次は追加でベテランの冒険者が調査クエストに向かう事になると思います。」


 ふーん、まあ俺のダンジョンはもう移動したから関係無いんだけどね。

 ……関係無いよね? それとも移動先にまで冒険者が差し向けられるのかな?

 そうだったとしても、まあ何とかなるしいっか。



 馬車の中でそんな事を話している間に、時刻は夜となり、街の関所へと到着した。

 関所では衛兵が通行税の徴収や、怪しい人物が入ってこない様に検問を行っている様だった。

 時刻が遅い事もあって、待ち時間は何もなかったのだが――


「身分証を提示してください。」


 俺って身分証、持ってないよな……どうしよう。

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