第18話 街へと出発しました
正直被害が大きすぎて、俺はどうやって村の人達に声を掛けていいのか分からなかった。
流石にこんな惨事を放っておいて街へ向かうという鬼みたいな事をするつもりは無かったけれど……
それでも、部外者の俺が何をしたらいいのかと考えてしまうと、上手く言葉が出なかった。
こういう村社会では全員が顔見知りの関係だろうから、俺が想像しているよりもその心的ストレスが大きかった事は想像に難くない。
それでも、生き残った村人はこれからも生活を続けなければならないのだから、俺は早急に立ち去るのがこの村にとっては最善なのだろうか?
そんな風に考えていると、俺とエリスは村長の家へと呼ばれた。大方、この騒動を解決した報酬金の話でもするのだろうと思って、入っていくと相手は村長の娘だった。
この村の村長は悪魔と戦って戦死らしく、緊急の措置として村長の娘さんが代わりに代理をやっているらしい。
部外者の俺が心配する事じゃないのは分かっているが、これからこの村を存続させていく事は可能なのだろうか?
突然悪魔に襲来されて、滅ぼされたなんて話は胸糞が悪すぎるよ?
「この村をお救い頂きありがとうございました。あの、報酬金はどれ程をご希望ですか……?」
そして第一声にその話題を出したその娘の声は震えていた。
それがこれからの未来に対しての物なのか、それとも報酬金を払えそうにもないという事からなのか、俺が知る由も無いが、その事が一層哀れに感じさせた。
こんな状況の中でも礼を欠かさないのが、常識なのだろうか?
俺個人の意見ではあるが、こういう時くらいは情に訴えても良かったんじゃないか……?
助けられる力を持っている者が助けるという事が当たり前だとは言わないが、それでもこんな状況に陥った村から報酬を貰う気にはなれなかった。
寧ろ、援助をしてやりたいくらいなのだが……
だが、これを断るというのはこの村に残された最後の尊厳すらも踏み躙る行為にも思えた。
そんな相反する思考を巡らせた俺の結論は――
「この村で実験をさせてくれませんか? その、魔物と人間が共生出来る社会を作れないかと考えてまして。」
「え? えっと……え?」
あ、駄目だ。
っていうか、どうしてこうなった……もう少し何かあっただろ!
とは言っても、魔王になったとして、別に人間に敵対したいと思っている訳では無いし、俺としては人間と魔物の共生社会を作りたいのだ。
戦争なんて争い合う事は出来る限りしたくないからね。
だが、やはり流石に唐突過ぎたかもしれない。
それでも一度口に出してしまったのだから、途中で止める訳にはいくまい。
「その、なんだ、言い方はキツくなるけど、このままでは大事な働き手も失ったこの村はいずれ滅びるんじゃないかなって思ったんだ。だから働き手として魔物と一緒に暮らしてみるというのはどうかなって思うんだけど。それにこの件についての十分な報酬は払えるそうかな?」
「……無理そうだと思います。」
「つまりはこの村に残された選択肢は二つ。この村を捨てるか、この村を救った恩人の怪しい言葉に耳を傾けるか。どっちがいいかな?」
うん、自分でも分かるけど、色々と良心の呵責とか絵面とかがやばい。
今の俺、明らかに悪役感が凄い……
それでもこの事にエリスは異論が無いようで、無言のまま悩んでいる少女を見つめていたのだが。
「あの、お姉ちゃんは、どうした方がいいと思いますか?」
「きっと貴方一人で決めるには荷が重すぎる事だと思います。村の人の意思を確認してからでも良いんじゃないですか?」
そう言ったエリスの提案によって、村長の娘さんは生き残った村民の意思を確認する為 村の広場で裁決を執り行いに出ていった。
俺は怪しいって雰囲気なのに、エリスは頼れるお姉ちゃんオーラが滲み出ているのかな……
裁決の内容は、この村に残るか、俺達が貸し出すスライム達との共生を選ぶか。
まあ共生とは言っても、スライムは知性を持たないから、只々命令を聞くだけの魔物の奴隷を使うかどうかなんだけれども。
その結果は全員が一致してこの村に残るという事だった。
つまりは、スライム奴隷を使ってくれるという事だ。
人間と魔物との間にどれくらい対立があるのかは詳しくは知らないが、完全に益になるなら共生する事はやはり可能なのだろうか?
今後の経過も見ながらモデルケースとして見守らせてせて貰おう。
ちなみに、村にいた大人の男性の殆どが死んでしまって中で、それでも果敢に村を纏めようとする村長の娘のエマがそのまま代理から正式な村長になる事もついでに確定していた。
エリスよりも更に若そうなんだが、大丈夫なのか?
余裕があったらそういう意味でも見守ろうかな。
後は死体の埋葬やら墓作りやら、俺の【
俺が出発する前に、村の人達に魔物の存在を秘匿する様に頼むと、それをすんなりと了承してくれた。
まあ、俺がどうして魔物を従えられるのかという事にすら質問をしてこなかったしね。
俺とエリスがこの村を救った恩人だからという事もあってかなり信頼してくれているのだろう。
勿論、忙し過ぎてそこまで頭が回らなかったという節もあるとは思うけれども。
そのまま村の人に道を聞いて、街へと出発した。
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