第17話 襲われている村を救ってみました3

 子供達の手を引きながら、私は村へと向かっていきます。

 幸い火の手は村には回っていてなかったようで、この村の建物は一つも焼けてはいませんでした。

 そしてフードを被った一人の男が悪魔達に指示を送りながら、村の中央にある広場に村人を3つの集団に分けて集めている最中でした。

 その上で村人達の様子を見張る様に、悪魔たちが飛び回っています。

 しかし既に何人もの男性が血を流しながら惨たらしく殺さていました。


 ある男は内蔵を引き摺り出され、ある男は四肢をもぎ取られ、ある男は苦痛で顔を歪めながら……

 そして血塗られた悪魔の両手からは、そこにいる人間達を殺したことが容易に察せました。

 仲間を守る為に必死に戦って、その結果殺されてしまったのでしょうか?

 それとも見せしめに殺されたのでしょうか?

 どちらにせよ、誇りを失わずに戦った筈のその姿は、私の目には酷く惨め映りました。

 どれだけの志を抱いていようと、結局負けてしまえば敗者に変わりはないのでしょうか……?


 今の私には分かりません。

 まず強くなければ、そんな事を考える資格すら与えられないのですから。

 それでも私の身体にしがみつきながら恐怖に打ち震えるこの子達を助けなければならない事は分かります。だから行きましょう。

 贅沢を言うなら、お師匠様を待ってから行きたい所でしたが、それよりも今は魔法陣の上で儀式のような事を始めたあの男を斬らなければならないと私の勘が囁いているのです。


「あなた達はここで隠れててください。私が必ずお母さん達は助けてくるから。」


 私はそれだけを子供達に伝えると、繋いでいた手を放して村の中央の広場へと向かっていきました。

 フードの男が悪魔へと指示を出しているのなら、あの男を斬りさえすればこの騒動は終わるように思います。

 ですが、その前に取り巻きの悪魔達を殺すべきでしょう。

 一匹では取るに足らない存在だとしても、単純に数の多さは強さですからね。


 まだ誰にも気付かれていない今が好機な筈です。

 悪魔の数は10匹程、隙だらけな今なら一度に殲滅する事も可能だと思います。


 ふぅ……一度深呼吸してから、先ずは一人の悪魔へと向かって、剣を構えながら跳躍します。

 存在にすら気付かなかった悪魔の首を刎ね飛ばして、その体を起点に再び別の悪魔へと向かって跳躍を繰り返します。

 1体、2体、3体、4体……その後も次々に首を刎ね飛ばしていきました。

 この短い時間に何体の悪魔を狩ったのかは数えていませんが、途中から仲間の首が瞬時に斬り飛ばされるという恐怖に陥った悪魔は、何故か背中を向けて逃げ出しました。

 わざわざ背中を見せてくれるなんて自殺願望者なのでしょうか?

 あ、失礼、そう言えば悪魔さんは私の事を視認する事すら出来ないんでしたね。

 それならそのまま狩り尽くさせて頂きます。

 流れる様に残党狩りへと移行して、数秒の間に全ての悪魔を狩り尽くせました。


 悪魔という魔物は本当に弱いのですね。

 どうしてこんな魔物を召喚したのか不思議でなりませんが、次はこの悪魔に指示を出していた男の番ですね。


 何事も無く全ての悪魔を殺してから、私はフードの男の前へと降り立ちました。

 残すのはこの如何にも悪党と言った雰囲気のこの男だけです。覚悟してください。


「……お前は何者だ? どこから嗅ぎ付けてきやがった?」

「街へ向かっていたのですが、道に迷ったので村に立ち寄っただけです。」

「答える気は無いか。自分の実力に自信を持っている様だが、もう手遅れだぜ。復活の儀式は完了したんだからな。お前も喜べよ。主の復活だ。」


 ここに居ては不味い気がします!!

 異様な雰囲気を感じ取った私は、急いで魔法陣の上から飛び退いて、距離を取ります。

 しかし、フードの男が両手を上げてそう言った瞬間、地面に描かれていた魔法陣が起動してしまった様で、魔法陣に乗っていたフードの男もろとも、村に居た人の大部分が飲み込まれていきました。


 これが……復活の儀式ですか?

 自分の命を賭してまで、一体何を復活させたいのでしょうか?

 少なくともこれ程までに多くの命を奪う物がそれ程の価値を持つとは到底思えないです。

 こんなにも罪の無い人の命を奪うなんて、許せません!!


 それは魔法陣の中から体をゆっくりと出し始めていました。

 まだ一部分だけして見えていませんが、パッと見大きいだけのタコみたいな肉体で、主とか呼ばれていた割に弱そうですね。

 律儀に全身を出すまで攻撃をしない理由もありませんし、今の間に倒してしまいましょう。

 見える範囲全てに剣閃を走らせて、足を切り落とします。

 特に頑丈な体という訳でも無く呆気なく切断できました。


 これで終わりですね。

 そう思って生き残っている村人の様子を確認しようとすると、彼らの表情は明らかに異常になっていました。

 白目を向いてたり、泡を吹き出していたり、全身を搔き毟っていたり……えっと、これは?


「どうした小さき剣士よ、私に何かしたつもりかね?」


 後ろから声がしました。

 嫌な予感がしましたが、振り返って見ると予想通り、そこには先程体を出そうとしていた巨大なタコが出現していました。

 タコと言っても目玉が無数にあるし、触手の本数の良く分からないけど。

 でもやはり図体が大きくなっただけでタコに変わりはありませんね。


「いえ、これから殺す所ですよ。」

「……そうか、まだこの体には慣れていないんだ。肩慣らしに付き合ってくれたまえ。」


 そう言いながら、巨大な触手で薙ぎ払いを放ってきました。

 随分偉そうな口調ではあった割には、悪魔と大して変わらないくらいの速さですね。

 こんなにゆっくりな攻撃では、ただの足場にしかなりませんよ?


 まあいいですけど、僅かに私へと向かってきている触手の上に乗ってから、このタコさんに付いている全ての目に斬撃を入れます。


 するとこのタコさんは悲鳴を上げながら闇雲にその触手を振り回しました。

 そんなんじゃあ斬ってくださいって言ってる様な物なのですけど……まあいいです。

 そのまま全ての触手を切断させてもらいました。

 ……どうしてこんなにも試し斬りにすらならない相手ばかりなのでしょうか?


「……お主は、何者だ!? まさか、勇者か!?」

「いえ、普通の銅級冒険者ですけど……?」


 そんどうでも良い事より、タコさんはまた触手を再生したんですね。

 そんな事をしたって無駄なのに……


「そんな訳あ――」

「うるさいですね。そんな事よりも、早くこの村の人達を元に戻してくださいよ!」


 私はタコさんと喋る趣味なんて無いんです。

 そんな事よりも今は村人の命の方が心配なんです!


「人間の癖に、私を舐めるな!!!」

 そんな私に対して激昂したタコさんは、再び触手を叩きつけようとしてきます。

 タコなだけあって学習能力が皆無なんですね……残念です。

 先程と同じように、巨大なタコさんの全身を斬り刻みました。

 これでもう終わりにしてくれれば良いのですけど……耐久力だけは高いんですかね?


「動くな! 動いたらここに居る人間は全て殺す。」


 後ろを見ると、切り離された触手の一部が一つの生命の様に、動いて村の人達の後ろへと回り込まれていました。

 ……どうしましょう?

 私があの触手を斬るのが先か、それとも先に村人達を叩き潰すのが先か……あれだけ近いといくら遅い触手だからとは言え、流石に間に合うかどうか……

 そんな風に考えている間に、再生した本体までもが村人達の頭上へと触手を構えてしまいました……これでは不可能ですね……


「小娘、動かずそこで自害しろ。そうしたらここにいる人間の命は保証してやろう。」


 ……私が自害した所で、村人の命が助かる保証はありません。

 しかし、私が動けば人質を皆殺しにされてしまうでしょう。

 一体私はどうすれば……

 こういう時、お師匠様ならどうしたでしょうか?

 村人を犠牲にしてでもこの魔物を斬るべきでしょうか?

 それとも、自害するべきなのでしょうか?


「何やってるのー? こんなタコ、動く前に斬っちゃえばいいのに。」


 どこからか聞こえてきたお師匠様の声を聞こえてきました。

 そして私は確信をしていました。もうこの事態は解決したのだと。

 私が気が付いた時には、さっきのタコは粉微塵にまで切り刻まれていて、動きも無いことから息絶えたという事が推察出来ました。


 ……村人を救いながらこの魔物を斬るべきだったんですね。

 今の私にその実力はありませんが、いつの日か――

 それよりも、


「お師匠様……遅いですよ!」

「それに関してはごめん、村の外にいた悪魔を狩ってたらもう1個の集団も向かってきていてさ、ちょっと様子を見に行ってたんだ。ここはエリス一人でも大丈夫そうだと思ってて……」


「いえ、お師匠様がサボっていたなんて思っていませんよ。……ですが、多くの人が死んでしまいました。」


「そうかな? 死ぬ筈だった命を助けられた、とも言えるんじゃない? ほら。」


「お姉ちゃん、ありがとうー!!」


 確かにお師匠様の言う通りかもしれません。

 その声が聞こえただけで私の行いは報われた気がしました。

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