第13話 人間の体を試してみました

 この洞窟に居る魔物は基本的に全て、大型と言えるが、取り敢えず最初に狩ろうと思っているのは血染めの熊クリムゾンベアーだ。


 血染めの熊クリムゾンベアーは3m程もある巨体でありながら、二足歩行で獲物を探し、洞窟の中を徘徊している。

 全身は返り血によって赤く変色しており、その血と硬い毛皮の二つが合わさる事で、鋼鉄にも遜色無い程の硬度を誇ると言う。

 全身の体重を支えるその筋肉は、成長を繰り返した、異様なまでに発達をしていた。

 内在させているその魔力量も狩る対象としては申し分無い。


 少なくとも下位の魔物を数時間掛けて狩り続けたエクレアくんでは遠く及ばない筈だ。

 ただ、あのセクハラヘルハウンドよりかは劣っていたけれど。

 まあそれはこの血染めの熊クリムゾンベアーさんが弱いというよりは、あのヘルハウンドこの洞窟での生態系のトップに位置しているからだろう。

 勿論、あのルシエラさんの存在を考慮しなければの話だけれども。


「という事で、まずは血染めの熊クリムゾンベアーから狩っていこうと思います。エリスちゃん、準備は良いですか?」


「あの、お師匠様……? 本気ですか? 血染めの熊クリムゾンベアーって確かAランクに位置する魔物ですよ!? 一匹出現しただけでお触れが出されて避難が必要なんですよ!? 普通にベテラン冒険者を招集して、王国騎士団からも討伐隊が組まれるくらいの強さですよ!?」


 うーんと、要するにかなりの危険さって事かな。

 でもヘルハウンドよりは弱そうだし、別に大丈夫でしょ。

 俺の見立てではヘルハウンドがAランク上位、他はAランク下位って感じだと思う。


「でもそれって人間からしたらの話でしょ。これから魔王を目指す俺の契約者なんだから、それくらいは倒してよ。あ、ついでにSランクとかもあるんだったら教えてくれない?」


「いいですよ。Sランクの魔物は単騎で国家を滅ぼす程で、対応を間違うとそのまま国家が滅びます。というか、実際2つの国が滅びています。基本的には勇者を召喚しなければ撃退する事は不可能と言われています。その強さから国崩しなんて呼ばれる時もあります。有名所だと五竜とか真祖とか七大罪とかですかね。でも割とそこら辺で暮らしているのもいるらしいですよ。無害なら放置しようって事ですね。」


 あれ? 魔王っていないのかな?


「魔王の国って幾つくらい存在するの?」

「えっと、魔王の国ですか……? そんな物は存在してないです。魔王が作るのはダンジョンですから。普通に魔物とか亜人が国を作る事はありますけど。」


 それだと魔物の国の王は何て呼んでいるんだろう……?

 まあいいか。


「それじゃあ、あそこで徘徊している血染めの熊クリムゾンベアーを狩るよー! ほら、剣術を教えて欲しいんでしょ?」

「え、あの、私、死にますよ?」


 あ、そっか。この娘って普通の人間は普通に死ぬんだ……

 俺もエクレアくんも死んでも大丈夫って考えだったから格上と戦ってもいいやって思っていたけど、死んだらそれでお終いじゃん……

 取り敢えず、魔力の共有はされるらしいし、俺がここにいる魔物を狩ってある程度の身体能力を獲得してもらおう。それからじゃないと禄に戦えないよね。


「な、何を言っているんだい!? 勿論俺が戦う所を見て学びなさいって意味だよ!! 初心者の間は剣なんて振るう物じゃないよっ!」


 ふう、これで何とか誤魔化せた。危ない危ない。

 まあね、俺が魔物を狩っても、契約者のエリスちゃんが狩っても、どうせ魔力が共有されるなら同じだしね!!


「あ、本当にちゃんと見ててね。」

「勿論です! お師匠様!」


 よし、行こう。

 剣はエリスちゃんから予備を借りてある。

 切れ味はあんまり良くは無さそうだったけど、正直木の棒くらいでも十分な気がした。


 俺が血染めの熊クリムゾンベアーから30mくらいの所まで歩いていくと、俺の匂いに気が付いた様で、俺の方へと振り返り、雄叫びを上げる。

 そしてそれと同時に、血染めの熊クリムゾンベアーの全身から赤い蒸気の様な物が上がり始める。


 大方強化バフスキルなんだろうけど、そんな事をしたって意味無いんだよなー。

 俺はそんな安い威嚇で怯えたりはしないからね。


 そんな事を意に介さず、6m程まで距離を詰めていくと、血染めの熊クリムゾンベアーは動き始めた。

 熊にありきたりな、四足歩行へと体勢を切り替えての突進をだ。

 確かにAランクの魔物と言われるだけあって、馬力に関してだけは素晴らしい。

 直撃したら全身が粉々に砕ける程の勢いだった。

 今の俺には翼もあるんだし飛んで避けてもいいけれど、正面から切り刻んでやる!


 懐に挿しておいた鉄製の剣を抜いて、構える。

 血染めの熊クリムゾンベアーの突進を僅かな所で躱しながら、全身に剣閃を走らせる。


 これだけで絶命しただろう。

 そう思って俺は振り向くと、血染めの熊クリムゾンベアーは血だらけの身体を顧みず、180度方向転換をしながら再び俺に突進をし始めていた。

 えええ……あれで生きてるの……結構深くまで斬ったんだけど……?

 よく見てみると、今こちらへと突進している最中にも出血部分は蒸気を上げながらその傷口を塞いでいっていた。

 なるほどね、一発で首を刎ね飛ばせって事ね。


 馬鹿の一つ覚えみたいに突進して来ているけれど、それでもあれだけの速さと巨体だ。

 この身体だと踏ん張りも効かない空中では一刀両断するのは無理そうに思われた。

 つまりは突進しているあの血染めの熊クリムゾンベアーに立ったまま渾身の一撃を叩き込めば勝てる。

 

 血染めの熊クリムゾンベアーが通り過ぎる直前に、俺は影に戻って真横へと移動する。

 そしてそのまま無防備な首元へと渾身の一撃を叩き込む。

 そしてそのまま、血染めの熊クリムゾンベアーは息絶えた。


『スキル【影移動】を獲得しました。』

 ああああ!!!! 貴重な魔力があああ!!! そんなスキル要らねえんだよ!!!


「お疲れさまでした! 凄かったです! 剣術もそうですが、瞬間移動して斬るっていうのも格好良いです!」

「あ、うん、ありがとう。」


 血染めの熊クリムゾンベアーの死体からは白い湯気の様な物が俺の体へと入り込んできた。

 そしてそれと同時に、身体能力が大きく向上した。

 あ、今ならすれ違い様に殺せる気がする!


 えっと、他の血染めの熊クリムゾンベアーは――まだ30匹程いる。

 全部狩り尽くしちゃおうっと。


 その後は流れ作業の様に簡単だった。

 突進してくる血染めの熊クリムゾンベアーへと剣を走らせ、殺しては次の標的へと向かっていった。

 途中で遭遇した大きなだけの巨大蜘蛛ビッグスパイダーも、飛んでいて少しだけ面倒だったワイバーンも含めて俺は全てを狩り尽くし、そこで気が付いた。


 まともにエリスちゃんの育成してないや……って言ってもここにはもう魔物は居ないし……人間の世界にでも行ってみようかなー。


 ルシエラさんも帰ってこいって言っていたし、エクレアくんを拾って地上に行こうかな。







ステータス

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 クラス:影

 MP :3230/3497

 存在感:7/7

 通常スキル:

【魔力探知】【振動探知】

 固有スキル:

【影移動】【二重の影ドッペルゲンガー】【真なる影トゥルーシャドウ

【影の目】【影の翼】【影真似】

偉大なるエンハンスド治療ヒール】【魔力増幅】

【魔力継続回復】【帰還】

【ダンジョンマスター】

 耐性スキル:

【物理耐性】【魔法耐性】【状態異常耐性】

 称号:

【剣聖】【影使い】

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