第12話 契約者の話を聞きました

 俺の目の前には、底が見えない程の大穴が広がっていた。

 ルシエラさんが俺達を連れてくる時に開けた大穴だ。


 そこへ俺は契約者の娘を抱えたまま、飛び込んで真っ逆さまに落下していった。

 そして何もしなければ重力によってペシャンコになる事が目に見えていたので、減速する為に腕を壁へと突き立てる。

 これくらいしか安全な策が思い付かなかったとは言え、その代償として右腕に激痛が走る。

 それでも俺は右手が千切れる度に二重の影ドッペルゲンガーを使用して、右腕を何十本も犠牲にし続け、そして地面に衝突する直前になってようやく気がついた。

 このままだとスピードを殺しきれずに落下死する事に。


 あ、これ、駄目な奴だ。

 これが安全策とか、俺はどうかしてたわ。


 ……こうなったら仕方が無い、残ってる魔力を使おうかな。エクレアくんが沢山狩ってくれただけあって、まだ多少は残っているだろうし。

 俺に翼を生やせる様なスキル下さい。

『スキル【影の翼】を獲得しました。称号【影使い】を獲得しました。』


 称号はどうでもいいけど、魔力は余っていたみたいで良かったー。

 少しだけヒヤヒヤしたよ。


「影の翼」

 って、あれ、何も起こらな――ああ、これはパッシブスキルなのか。

 気が付くとドッペルゲンガーの身体からは黒い翼が生えていた。

 何これ、凄く格好いいじゃん!! これなら俺も魔王としてやっていけそうだ。


 あ、でも今までの人生で翼なんて使ったことが無い部位だけど、ちゃんと動かせるのかな……?

 えいっ!


 肩辺りの筋肉を動かすつもりで力を入れてみると、バサッという音が聞こえて、少しだけ落下する速度が和らいだのを感じた。

 上手く動かせないという俺の心配は杞憂だったようだ。

 そのまま何度も翼を羽ばたかせて徐々にに減速していき、いつもの様に寝ているルシエラさんの背中へと着地した。


 最初の予定とは異なる経過を辿ってしまったけど、無事に戻ってこれて良かった。


「あ、お師匠様……ここは一体……? って、あれ!? 私の足が再生してる!?」


 そして丁度いい感じに契約者の娘も目を覚ましたようだった。

 そしてどういう訳か、彼女は俺の事を師匠扱いしていた……

 そこまで俺の登場の仕方って格好良かったかな。

 そんな風に呼ばれると少しこそばゆい気持ちがするけど、まあいいか。


「おはよう。ここは俺のダンジョンの目の前だよ。ええっと、エリスちゃんだっけ? 足は俺が治療しておいんだよー。」


「流石です、お師匠様! それはさておき、この竜はお師匠様の下僕か何か?」


「んぬー……お、帰ってきておったのか。その娘は……お主の契約者か。存在感を増やせるとは言ったが、そんなに適当に決めるとは……」


 あれ、手当たり次第に契約していくのって駄目だったのかな?

 もしかして契約者が死んだら俺も死ぬとか、そんなデメリットが存在しているのかもしれない……


「いや、死ぬ程のデメリットがある訳ではないのじゃが、契約者は原則一人までなのじゃ。そんな手当たり次第に契約するなんて事は出来ぬぞ。それに契約者が弱いとなると、当然共有する魔力も少なるなのじゃ。」


 契約者は一人までだったんだ……それなら先に言っておいて欲しかったな。

 そういう重要な所こそ俺の思考を読み取っておいて欲しかった……


 うーんと、でも弱い契約者と契約しても共有出来る魔力が少ないだけならあんまり問題では無い気がするな。

 俺としては存在感さえ増えてくれればそれでいい様な気もするし。

 それでも魔王を目指すならやっぱり強い契約者の方が良かったのかな……


「あ、でも、俺がこの娘を育てれば強い契約者と同じになりますよね?」


「まあそうじゃな。少し手間になるとは思うが……まあお主がそれを望むならそうするが良い。それよりもお主、得た魔力の殆どをスキルに変換しておらぬか? そんな事をしていると、一生進化出来ぬぞ?」


 あれ? 俺も進化出来るの? スライムとかは魔物だから進化するって言うのは想像出来るけど、俺って影だから一生進化しないと思ってた……

 まあ今俺が欲しいのはスキルよりも存在感だし、節約しようと思えば勝手に溜まっていくかな。


「あの、あんまり話を飲め込めていないのですが、つまりは私に稽古をしてくれるって事ですよね!!」

「まあそういう事かな?」


 エクレアくんはまだリスポーンしていないけど、そろそろもう次の進化も近いって言っていたし別に待たなくてもいいか。

 それよりも今はひ弱そうなこの娘の育成をしてしまおう。

 それにドッペルゲンガーを使用する対象として、身体能力が高い方が俺も色々と都合が良いしね。


「……その娘と共にここら一帯の魔物を狩り尽くしたらもう一度我に会いに来るがよい。そろそろ我の役目も果たし終える頃じゃろうし、ダンジョンを地上に移してやるのじゃ。それと、これからは自分の手でダンジョン防衛をするのじゃぞ。」


 え、まじで!? ダンジョン防衛とかあったの!?

 一方的に魔物を作って外界を侵略していく事を想像していたんだけど……?


 確かに今まではルシエラさんがダンジョンの前でスタンバっててくれたから、魔物が入り込む心配は無かったけど。

 本来は自分で防衛しないといけなかったのか。


「あ、因みに言っておくが、ダンジョンコアを破壊された場合は守護者やポータル、ダンジョン施設と言った物の全てが破壊されるから、気を付けるのじゃぞ。」


 ……まあ、何とかなるでしょ。

 取り敢えずは俺の契約者であるエリスちゃんを育てて上げよっと。

 ついでにこの体も試したかったしね。

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