第8話 守護者を進化させてみよう
スライムくんが復活するのはまだだろうか?
影の俺一人じゃ出来る事なんてあんまりないし、ボーッとしているしかなかった。
それでも、俺が目覚めてから一週間、一睡もしていないというのに体には全くの不調が現れてなかった。
転生した時は便利だなー、なんて思ってもいたけれど、今となっては寝られるって幸せな事だったんだなーって気付き始めました。
そして一日が経ち、二日が経ち、永遠とまで錯覚する程の時間が流れ――
たかの様に思えたけど、実際はどうだったかは分からない。
まあ暇な時って時間の感覚狂うからね、仕方が無いね。
――ある時突然、ダンジョン中央に位置しているダンジョンコアが発光し始めて、スライムくんが産み落とされた。
ぷよぷよぷよぷよ、そんな音を立てながら、壁にまで転がっていった。
あ、壁にぶつかって平らになった。
「ううう、痛いです……」
「スライムくん、お帰りなさい。」
「あ、マスター!! どうして助けてくれなかったんですかー!?」
「いやー、ヘルハウンド戦が終わった後にMPを確認したら空っぽになってたからね。別に死んでも生き返るんだしいいじゃん。」
「そんな人権を無視した様なやり方を続けると、部下が逃げますよ!?」
部下が逃げるか……魔王を目指すなら、少しだけ問題かもしれない。
機会があったら学園にでも通って、帝王学とか学ぶというのも良いのかもしれない。
少なくともこの体だと学校なんて通えないだろうから、当分先にはなりそうだけど。
「って、その前に進化してみようよ。」
「そうでした、こっちの方がよっぽど大切ですね。で、どうすればいいんです?」
えっと、確かダンジョンコアに近づいてください、だっけ?
近付いたら勝手に出てくるって認識で合ってるのかな?
「スライムくん、こっちに来て。」
「いいですけど?」
そう言ってからスライムくんは近寄ってくる。
そして少しだけ速くなっていた。
なるほど、確かにレベルが上がっているようだ。
でも、俺の方は何にも変わっていないような気がする……
もしかして既に俺は高レベルなのかなー?
「あの、来ましたけど?」
「あ、ごめんごめん。」
スライムくんの足元へと移動して影を重なり合わせてみるが、何も出てこなかった。
あれか、実体化してから触らないと駄目なのかな?
―――――――――――――――――――――――
【ダークスライム】
スライムが長い時間を掛けて多大な魔力を溜め込み、進化した個体。
再生能力と分裂能力を備えている。
闇属性のスキルを操り、その力は中位の魔物にも匹敵する。
その姿からスライムと油断して戦力を見誤ったパーティは壊滅する。
―――――――――――――――――――――――
中位の魔物がどれくらい凄いのかは分からないけど、悪くは無さそうだ。
でも決め手には欠ける気がする。
―――――――――――――――――――――――
【ブラックウーズ】
スライムが長い時間を掛けて多大な魔力を溜め込み、進化した個体。
再生能力と分裂能力を備えている。
強酸性によって構成された体は様々な金属を容易に溶かし、無効化する。
多くの冒険者は装備が溶かされるという金銭的な理由から非常に恐れられており、多くはその姿を見るや逃げ出していく。
―――――――――――――――――――――――
戦闘能力って言うよりは嫌がらせに特化した感じなのだろう。
だが、こっちもあんまり変わらないかな。
でも冒険者が逃げ出していくって言うのは少しだけいいと思った。
うーんと、闇属性のスライムか、酸性のウーズかって感じだね。
魔王軍の幹部になったらどっちの方が格好が良いかな?
魔王軍の幹部がスライム。
高いところから民を見下ろすスライム……
あっ、駄目だ。
普通に格好がつかない気がする。
強かったとしても対して怖くないし。
いや、別に怖い必要があるのかはまた別の問題だけど。
じゃあ魔王軍の幹部がウーズ……
ウーズってスライムと違うのかな?
個人的には少しだけ濁った大きめ、動きがゆっくりなだけのスライムってイメージなんだけど。
うん、よく分からない。
こういう時はスライムくんに聞こうか、本人の人生だ。
それに、さっき部下への扱いが雑って文句言われたばかりだしね。
「スライムくん、ダークスライムって言うのと、ブラックウーズって言うのがあるんだけどどっちになりたい?」
「両方共完全に悪約寄りですね……僕は悪いスライムじゃないよ、が通じなくなりそうなんですけど……」
「うん? ちょっと何を言っているか分からない。」
「まあいいです、それぞれの特徴を教えて下さい。」
「えっと、両方とも再生能力と分裂能力を備えていて、ダークスライムは闇魔法、ブラックウーズは装備を無効化出来る、みたいな感じだって。」
俺がそれを伝えると、スライムくんは考え込み始めた。
……まだかな?
確かに一生を決める大事な事柄なのかもしれないけど、俺としては次の進化に向けて魔物狩りに行きたいなんだけれど。
「あの、そろそろいいかな?」
「あ、はい、大丈夫です……。決めました、ブラックウーズにします。」
「理由とかは聞いてもいい?」
「それは勿論決まってるじゃないですか、酸性の魔物ですよ? 確実に冒険者に狙われにくいじゃないですか。スライムだといくら強くなっても守護者最弱として狙われそうですしねー。」
何だか理由がしょぼいが、それでいいのか?
どうせ復活するのに……どんだけ死にたくないんだ。
「それと、闇属性のスキルってダークスライムじゃなくても使えそうですし、ブラックウーズになってから習得すればいいと思いました。」
あ、それは俺も思ってた。
絶対ダークスライムである必要無いよね。
寧ろ最強の闇属性スキルとかは使えないだろうし半端で終わりそうだしね。
「じゃあ、ブラックウーズにするね。」
「はい、お願いします。」
俺がブラックウーズに決定した瞬間、スライムくんの姿が光に包まれだす。
そして少しだけ体が大きくなっていった。
「どうですか?」
……答えにくいなー。
黒光りしているその体は、自重に耐え兼ねて下の部分は円状に広がりだしていて、どちらかというと嫌悪感を覚える姿だった。
まあそれでも柔らかそうだし枕にしてみたいとは思うけど。
「その、いいと思うよ。」
「そ、そうですか! 良かったです。」
「じゃあスライムく――名前、欲しくない? 何か希望ってある?」
今更だけれど、スライムくんは種族名であって個体名じゃないじゃん。
俺にとって守護者は特別な存在だろうし、もっと早くに考えてあげるべきだったな。
「あー、そうですねー、あった方が便利ですからね。……マスターの名前を一部貰ってもいいですか?」
「いいよー。俺の名前は……あれ? 何だっけ?」
転生してから忙しめだったし考えてなかったけど……
うーんと、何か考えた方がいいよね。
影だからシャドーミストとかでいいかな?
でもそれだけだと寂しいけど、適当に後で考えようっと。
「じゃあ俺の名前は取り敢えずシャドーミストって事で。」
「ではエクレア・シャドウミスト・テンセイシャでお願いします。」
ネーミングセンス悪いなっ!
そして無駄に長いなっ!
まあスライムくん、じゃなかった、エクレアくんが希望するならそれで良いんだけどさ。
「……了解。それじゃあ、エクレアくん、君も強くなった事だし早速狩りにでも行こうか?」
「そうですね、マスター。でも経験値が勿体ないので今度は弱めの魔物から狩りに行きませんか?」
まあエクレアくんが望むならそうしてあげよっかな。確かに、一匹で成長限界にまで達してしまう様な敵を倒すのは勿体ないし。
「じゃあ早速だけど出発するよー。」
俺とエクレアくんは二人で弱い魔物が居る所へと向かっていった。
……所で、弱い魔物ってどこにいるんだろう?
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