第7話 レベルアップをしてみよう
ヘルハウンドの体を地獄の業火が包み込む。
そして、少しだけ焦げた臭いが漂ってくる。
それでもヘルハウンドに動きは無いようで、どうやら息絶えたらしい。
よし、これで復讐完了だ。
MPを確認してみると、残り13しか無かった。
意外とギリギリの勝負だったらしい。
まあ変身していた時間を省みれば、寧ろ残っている事の方がだけ意外なのかもしれないけれど。
「スライムくん、終わったよー。」
「え、本当に勝っちゃったんですか!?」
「もちのろんだよ、ヘルハウンドなんかに負けはしないのさっ。」
俺は親指を立ててスライムくんに余裕を見せつけた。
これで少しは頼りにしてくれる様になればいいんだけどね。
まあ時が経てば俺の凄さも理解し始めてくれるか。
そんな事よりも、スライムくんのレベルが上がったかどうかの方が大切か。
ヘルハウンドの魔力をスライムくんが吸収したら、いきなり進化とかもしそうだと思うけど――
「それよりもスライムくんのレベルは上がったかい?」
「さあ、分からないです。特に身体能力の向上を実感したりはしていませんし。レベルが上がった際にテレレレッテッテッテー、とか音が鳴るんですかね?」
もの凄く独特な効果音だな。
どういう思考をしたら、レベルアップした時にそんな音がすると思うんだろ?
「いや、知らないけど、何その効果音。」
「知らないなら別にいいです。あ、僕のステータスはどうなっていますか? そしたらレベルが上っているかは分かると思うんですけど。」
俺が確認するのか? 上司である俺が確認するのが普通なのかな? まあ別に面倒臭くは無いからいいんだけど。
「ステータスオープン。」
……って、あれ?
俺のステータス画面が出てきた。
つまりは自分のステータスしか見られないってことなのかな……?
「ごめん、見れないっぽい。スライムくんが自分で見てよ。ステータスオープンって言えば開けるでしょ?」
「そうなんですか!? ステータスオープン! って、本当じゃないですか!! うひゃー、やっぱり異世界なだけありますね!!」
何か知らないけど、感激して体をぷよぷよさせ始めた。
そして喜び方が少しだけ気色が悪いと思いました。
魔王軍の守護者の品格としては失格だと思います。
まあ軍を指揮したりしたら威厳も自然に出るしいいか。
「で、どうなの? レベルは上がってたの?」
「レベルは1ですね……。そんな事よりも僕のスキルの種類が少ないんですけどっ! 5つしか無いんです!」
内容は知らないけど、ダンジョン関連のスキルを抜くと、確か俺は8個だったっけ?
うーんと、俺よりは少ないけど……
でもまあ、俺とスライムくん以外の事情は知らないけれど、5個もあるなら十分なんじゃないのかな?
俺のスキル数は増えてきているから、最初は少なくてもそんなに心配する必要は無さそうだし。
よし、ここは俺が上司らしく励ましてあげよう。
「あ、でも色々スキルが増えていってるし、スライムくんも直ぐに増えていくと思うよ。」
「流石マスターですね……僕なんて通常スキルが4つで固有スキルが1つですよ。」
「それだけあれば十分でしょ。」
「そうは言いますけど、基本的には視力とか音とかそういう系統の日常生活で必須レベルのスキルしかないんですけど……。」
「日常生活で必須レベルのスキルすら持ってなかった俺がここに居るんだけどね……」
俺なんて変身していない時は相変わらず視界が無いからね。
そろそろ新しいスキルが出てきてもいい頃なんじゃないかな?
視力の獲得を出来たりはしないかな?
『スキルの獲得に失敗しました。魔力量が不足しています。』
へっ?
突然出てきた!
えっと、もう少し魔物を狩って魔力を増やせばスキルを増やしていけるって事だろうか?
つまり魔王として魔力を集めまくれば、何でも出来る万能な影になれるってことなのかもしれない。
まあ、今はそれよりもこの事をスライムくんに教えてあげよっと。
「スライムくん、魔力量次第でスキルって増やせるらしいよ。」
「突然どうしたんですか?」
「いや、スキルが欲しいなーっと思ったらそういうメッセージが出てきてさ。」
って言ってもこの前では出なかったし、条件がよく分からないけどね……
もしかして出てたけど気付かなかったのかもしれないかな? まあいいや。
「つまり僕も飛ぶスキルが欲しいと思ったら獲得出来るってことですか?」
「いや、無理じゃない?」
「……ですよねー、もう少し簡単な事から始めればいいんですかねー?」
「そんくらいは自分で考え――」
――背後から、殺気?
しかし背後を振り返ってみても、相変わらずヘルハウンドは焼け焦げているままだった。
ヘルハウンドの目が開いている訳でも無いが、それでも確かに殺気は感じる……
もしかしてヘルハウンドが瀕死で何とか意識だけは取り戻したのかもしれない。
「マスター、ヘルハウンドの死体がどうかしたんですか?」
「あ、いや、瀕死ではあるけれど、生きているみたい。止め、刺す?」
「えっと、体当たりでいいんですかね?」
「そんくらいは自分で考えてよ。ステータス見た訳でも無いんだから。」
「了解です。」
そう言うと、スライムくんはポヨポヨと倒れているヘルハウンドの所まで近付いていった。
今のヘルハウンドにはスライムくんの体当たりを耐えるだけでの体力が無かったようで、体が徐々に塵となって崩れていき、消え去った。
『守護者のレベルが成長限界へと達しました。ダンジョンコアに近付いて進化させて下さい。』
おお、今のでスライムくんのレベルがカンストしたらしい。
あっ、でも経験値が勿体無かったのでは……?
何度も進化して成長していくシステムなら、スライムがカンストする経験値なんて少なめだろうし……
ヘルハウンドを倒すのはもう少し後の方が良かったか。
勿体ない事をしてしまった。
「マスター! レベルが上がりましたよ! 進化出来るそうです!!」
そう言いながら近付いてくるスライムくんは、心做しか胸を張って偉そうに見えた。
でもまだスライムなんだけどね。
「そう、良かったね。じゃあ一度帰ろっか。」
「はい!」
帰り道、浮足立ってスライムくんはぷよぷよ跳ねていた。
少しだけ可愛いと思ってしまった。
でもよく考えてみると、スライムってマスコットキャラだもんね。
だから可愛さにめんじて放っておく事にした。
因みに帰り道、スライムくんは他の魔物に見つかって死にました。
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