第3話 スキルを獲得してみよう
今の俺は、影から戻ってしまったせいで、暫くは会話出来そうにもなかった。
スライムくんに狼狩りの事は伝えたけど、意思疎通が出来ないとなると危ないかもしれない。
影の動きだけで意志疎通を行うにはどうすればいいんだろう。
待てよ……スライムくんですら喋れるのなら、影の俺でも喋れたりはしないだろうか?
「あー、あー。」
『スキル【影の声】を獲得しました。』
お、おお!?
やっぱりやっぱり会話出来るんだ。
でもこれって、スキルを獲得したって出てきたけど、元から喋れたって感じがするんだけど。
喋ってからスキルを獲得したみたいだったし、喋れるって自覚する事でスキルを獲得したという感じだったような……?
じゃあ、スキルって一体何なんだろう?
もしかしたら出来る事一覧みたいな物なのかもしれない。
まあそんな事はどうでもいいか。
急に出来る事が増えてきていて嬉しいし、今は喋れる事を喜んでいよう。
「スライムくん、準備は出来たかい?」
「いや、準備って言われても……僕が出来る事なんて覚悟くらいですよ?」
「じゃあ覚悟の準備は出来たかい?」
「そんな、裁判所にぶちこまれる楽しみにしてください、みたいに言わないでください。」
ん、裁判所……?
ちょっとスライムくんが何を言っているのか分からなかった。
それはさておき、俺って影だけど喋る時に口って動いているのかな?
少しだけ気になる。
「ねえ、スライムくん、俺の口って動いてる?」
「喋る時は動いていますよ。」
へー、動いているんだ、影なのに。
影の口が動いた所で、どうやって音を発生させているのか、謎が深まっていく。
あれだね、ファンタジーの世界で物理法則とか深く考えちゃ駄目なのかな。
そんな事よりも、出来そうって思ったことがスキルとして発現して、実際に出来るようになった事に大きな意味がある気がする。
……もしスキルのメカニズムを解明したら、少しは物に触れられる事も出来るようになりそうだ。
スキルで実体化した際はずっと肉体を維持しようとするから燃費が悪そうだったけど、必要な時だけちょこっと出すならそれなりの時間出来そうなんではあるけれど。
俺が実体化した時とか、スライムのドッペルゲンガーに変身した時は体を踏ん張っている感じだった。
つまり、体の一部だけを踏ん張れば一部だけを実体化させる事が可能なのでは?
例えば、右手だけに力を入れてみれば、右手だけを顕現させられたりはしないだろうか。
もしかして出来ると思えば本当に出来るようになったりは――
まあ、折角だし試してみようかな。
んんんんんっ!!
『スキル【部分実体化】を獲得しました。通常スキル【部分実体化】、【実体化】が進化して固有スキル【
おおっ! 本当に、影から右手だけが飛び出した。
もしかしたら出来る? 程度の認識だった俺としては、正直予想外な出来事だった。
そんな簡単にスキルって獲得出来る物だったのか、しかも固有スキルに進化したようだし。
それよりもステータスのMPの減りは……ステータス欄を開いてみると、MPの減少は大幅に抑えられていた。
やっぱり! 体のいち部分だけならそれなりに長い時間、出していらるんだ!
よし、これからはずっと右手を出して生活していこう。
あ、でも手だけで動くのって大丈夫なのかな?
絵面的に不味い気がする……けどいっか。
他に俺がやりたい事と言えば、やっぱり視力だよね!
えっと、顔あたりに力を入れれば視界が得られたりもしないかな!?
んんんんんっっっ!!!
目を瞑るような感じに力を入れてみたんだけど、出来ませんでした。
そう都合良くはいかないってことか。
まあ別に構わない、俺には【魔力探知】があるんだから。
それにいつかは視界だっけ獲得出来る筈。
今だってドッペルゲンガーの状態でも、全身を実体化させている時でも見えるのだから。
「あの、マスター、さっきから何をしているんですか? ダンジョンの外に魔物狩りに行くって話では?」
「ごめんごめん、これでスライムくんを手助け出来るから安心して。ほら、これを見てよ、手が出てるだろっ。」
「はあ、手が出せるってそんなに戦闘に役に立つものなんですかね……? まあ胴体しか無い僕が言うのも変な話ですけど。」
……確かにあんまり役には立たないかもしれない。
しかし、何も出来ないのを歯噛みするのと、何かが出来るっていうのには天と地ほどの差がある気がする。
「スライムくんは生まれた時から体があって良いよね。どうせ俺の気持ちなんて理解出来ないよ。」
「寧ろ体を持ってない状態で生まれてくる方が稀だと思うんですけど……」
「むっ、配下の癖にああ言えばこう言いいやがって。給料減らしちゃおっかな?」
「マスター、パワハラが酷いと思います。」
魔王を目指すなら多少のパワハラくらい許されるでしょ。
もっと理不尽な事をするのが魔王なんだからね。うむ。
「よし、スライムくん、今度こそ出発するぞ!!」
「マスター、本当に手伝ってくださいよー?」
「任せてくれ。」
俺達は二人で、ダンジョンの外へ向かっていった。
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