第3話 2年4組 恵比寿 広大の場合

次の日。朝練がある、と渋る恵比寿君を引き留めて私たちは一緒に登校することになった。


もちろんちゃんと理由はある。むしろあんなふてぶてしい奴と登校するのには理由が必要だ。


昨日別れた道の角で偉そうに待っている恵比寿君を見て私はそう思った。


「おはよう」


「…おぅ」

恵比寿君が朝練は休みたくない、と言ったため私たちは今日、6時に待ち合わせた。


いつもなら7時すぎに起きるのにだ。誰か褒めてほしいものだ。

あくびを噛み殺しながら二人で歩く。


学校につくまでに色々、やらなきゃいけない。

「恵比寿君のミサンガを作ると私は約束した」

背中に背負ったリュックを、左肩でからい、チャックを開けて中からノートを取り出す。

こいつのために作ってきたのだ。


「そうだな」

私の手にあるノートをぼんやりと眺めてながら恵比寿君は頷いた。

「そこで、今日から朝と放課後、少し話がしたい」


「は?え、練習があるから無理だ」

「だから少しだけって。5分とか。急いで着替えれば間に合うでしょ」


「…それなら、まぁ。」

「よし」


その反応に満足して私はノートを開く。

1ページ目は沢山の種類と色の、糸だ。短く切ってセロハンテープで貼り付けてある。


「…すげえな。なにそれ?」


「恵比寿君のミサンガの色を決めようと思って。持ってる刺繍糸全部貼り付けてきた」


1ページ目だけじゃない。糸を貼り付けてあるページは10ページまである。

等間隔に貼り付けようとしたら結構なスペースが必要だったのだ。


「そのノート、貸すから。放課後会う時にどの色にするか決めてきて。 」


「別に、色とか。なんでもいいんだけど」


「でも好きな色で、好きな柄の方が、愛着が沸くでしょ。ミサンガはアクセサリーなんだよ、願いが叶うのはおまけ。」


「ふーん。分かった、決めとく。」


「よし。色が決まったら柄を決めてきて」


恵比寿君の手にあるノートを取り上げて私はページを開いた。

そこには色んな柄のミサンガの写真を貼ってある。


「…すげぇな、こんなに種類あるんだ」


「そう!柄によって糸の本数とか、必要な色の数も違ってくる」


「へー、んなら、先に柄決めた方がいいの?」

確かに。考えてなかった。

「あ、ほんとだね。じゃあ柄から決めて」


「おう」

ノートを渡すと、ページを捲って柄を決め始めた。真剣な表情だ。


さっきまで乗り気じゃなかった癖に。

地面の小石を蹴る。カツン、と小さな音と共に道路を転がっていく。


何度も小石を蹴っていたら、いつの間にか学校についていた。


「じゃあね、朝練頑張って」


「おう」


恵比寿君は慌てたようにグラウンドの方へ走っていった。


朝練は6時半からって言ってたな。

校舎の壁についている時計を見上げると6時28分だ。


間に合うだろう、たぶん。

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