第2話 2年4組 恵比寿広大の場合

次に坊主頭と会ったのは放課後だった。


会いたくて会ったわけじゃない。校門で待ち伏せされていた。


「一緒に帰らん?」

坊主頭は校門の少し前で足を止めてしまった私に近づいてきてそう言った。


回りの人がざわざわしだす。

隣にいたはずの友人はいつの間にか居なくなっており、坊主の野郎は返事を待たずにすたすたと歩き始めた。


…え?結局1人で帰るの?未だに立ち止まって混乱している私を置いてさっさと歩きだす後ろ姿がきゅ、っと立ち止まり振り向く。


「え、帰らないの?」

なんでそんなに不思議そうな顔なんだ。


「え、なんで一緒に帰らなきゃいけないの?名前も知らんのに」

反射的に返事をしていた。坊主頭は眉間にシワを寄せてこっちに近づいてきた。


「恵比寿広大。2年4組。野球部。これでいい?」

帰ろう、そう言うと今度は私が隣に来るまで動かない。


…逃げられん。諦めて私は隣に並んだ。

ふん。坊ず…もとい恵比寿君は偉そうに鼻を鳴らすと歩きだした。

ちょっとした言動が腹の立つ奴だ。


しばらくはお互いなにも喋らずに歩いていた。


帰り道、一緒なんだなぁ、知らんかった。呑気にそんな事考えていたら、いつの間にか数歩先を歩いていた恵比寿君が振り向いた。

「…それでミサンガ、欲しいんだけど。」


「なんで?」

「…言わなきゃいけん?」

「うん」

頷くとしぶしぶ、といった感じで話始める。


「俺、野球部なんだけど、次の大会のレギュラー入りたくて」

「…練習しろよ」


心の声が漏れていたらしい。ぎらっと睨まれる。


「野球部で俺が一番うまいんだよ、どのポジションでも!」


声を荒げたと思ったら急にしゅん、となる。

「なのに、先生から、お前には足りんところがあるって。それに自分で気づけるまで試合には出さんって」


「ほぅ、心当たりは?」


「…あったら直してる。そしたら、お前のミサンガは願いが叶うって聞いて」


「お前じゃないし、高畑美沙子だし。しかも私のミサンガで願いが叶うって、なにそれ」


初めて聞いたわ。そう言うと恵比寿君は不思議そうな顔になった。


「でも俺のクラスの田中さんがそう言ってた。高畑のミサンガで彼氏出来たって。」


「あー…あーね。」

確かに頼まれてミサンガを作った記憶がある。相談にものった。


「私のミサンガは、別に願いが叶う訳じゃないけど。」

「それでもいい。」

恵比寿君は私の目を見てきっぱりと言い切る。

「少しでも、レギュラーになる可能性が上がるならなんでもいい。」


真剣な目だ。私はなんだか感動した。

こんなに1つのことに真面目になれるやつがいるのか、と。


感動したら、なんだかいい気分になった。

偉そうなやつだけどミサンガを作ってやろう。


「ミサンガ頼みって男らしくないね」


「男らしいってなんだ。俺は姉ちゃんの少女マンガを読むのが好きだ」


なんかすごいどや顔で男らしく無いことを言われて笑ってしまう。


「そもそも、男らしいってなんだ。女子は少年ジャンプを買ってもなにも言われないのに、なんで俺が少女マンガを読んじゃいけないんだ」


哲学だな。なんとなくそう思う。

私は笑いを収めて、さっきの感動が全くないことに気づいたけど気分が良かったから笑って頷いた。


「分かった。ミサンガ作るよ。」






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