第3話
「遠い国で戦争が始まったよ」
と、ある日、風が木の葉に告げました。
「たくさんの人が殺されてね。その中を駈けてきたんだ。おかげで僕も、すっかり血なまぐさくなってしまった」
「そんなことはないですよ」
木の葉はそう言いましたが、確かにそれからの風はかつてのさわやかさを失って、どんどん濁っていくようでした。
風が通り過ぎるたびに、森の動物たちは顔をそむけるようになりました。何かを恐れるように、巣の中に閉じこもって出てこなくなりました。一族が連れ立って森を出ていったものもいます。
木の葉もまた、不安でした。風は相変わらず優しいのに、どこか変わってしまったような気がするのでした。
「風が吹くよ。風が吹くよ。毒の風が吹くよ」
虫たちがささやきかわす声が聞こえるようになりました。
「風のせいじゃないのに・・・」
森の動物たちは風を恐れ、逃げ、隠れ、いつか、森の中には一匹の動物もいなくなりました。でも、最後まで、自分だけは風の味方だと、木の葉は思いました。
「僕は逃げたりしないからね」
呟いて、それは嘘だと木の葉は自分で知っていました。怖くて、本当は逃げ出したいのに・・・木の葉には逃げることなどできなかったのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます