劇場都市、一瞬の責め苦。青年は異を狩る。
燃える、燃える、燃える。
夕陽に染まるその村は火に覆われていた。おそらく今夜中燃え続けるだろう火は倒壊した家屋を舐め終わっている。村の周囲を覆う木々にまで手を広げているが、一体どこまで喰らい尽くすつもりなのだろうか。それは誰にも分からない。火を放った本人にすら、分からない。
その青年は棺桶を担いでいた。炭のように黒い、恐ろしさすら感じる棺桶だった。
とある秋の日。劇場都市付近に存在する名もなき村が焼失した。
死者は百七名。唯一生き残った少女はおよそ二ヶ月後に商人に保護され、三日前、煉瓦街に輸送された。
#####
話を聞き終えてトーリカは思わず息を吐いてしまった。呆れてしまって、どうしようもない息だった。
言葉を探すその瞳は煉瓦街特有の床、壁を見つめる。昔の幻想都市にあった文化をそのまま持ってきたこの街は、トーリカにとっては見慣れても見慣れない街だった。
草を編んで作った床、もとい畳、の目を指でなぞる。
「信じらんねぇな」
渦巻く感情を要約すると、そんな一言に辿り着いた。
トーリカの言葉に同意するように笑い千歳商会の当主は腕を組んだ。
「確かに、信じにくい話だ。でも、棺桶を背負った男の話は聞いた事がある」
「マジで?」
「マジだよ」
一つ頷いて当主は先程まで目の前にいた、幼い少女の事を思い出していた。
二ヶ月も経てば服も変わっている。道中で商人が買ったらしい流行りの服は少女によく似合っていた。だがしかし、その顔には酷く重い暗雲があった。
きっと、あの暗雲は死ぬまで少女に纏わり続けるのだろう。それこそ永遠に、罪なき少女に罰を与えようとするのだ。
お前だけ生き残りやがって。誰も、そんな事は思っていないとしても。
「なぁ、若。どういう話なんだ?」
その声に意識を取り戻す。トーリカは寝物語を待つ子どものように目を輝かせていた。
「僕はもう若くないんだけどねぇ……ちょっと待ってくれよ」
立ち上がって書棚に近寄る。一番上の棚を漁ると、すぐに目的のものは見つかった。
毛筆で書かれ、和綴じにされた本。それは二年前に当主自身が記したものだった。
「雲雀が話してたんだ」
「師匠が? いつ?」
「死ぬ一ヶ月前に。彼が覚えてる限りの伝承を書かされたんだ……あった、これだ」
開かれたページには癖のない共通語がビッシリ書かれていた。
指でなぞりながら当主は読み上げていく。
「棺を担いだ男とは、劇場都市に伝わるおとぎ話である。その起源は世界崩壊後の混乱期にあるとされる。崩壊前の世界には存在しなかった伝承と思われる。モデルとなったのは実在の人物、劇場都市の初代支配人、グラン・ギニョールとの事。……劇場都市の題目第百十一、『無音の響き』はこのおとぎ話を元に作られた」
「『無音の響き』?」
「戯曲だよ。確かどこかに本があった筈だから後で貸そうか?」
「頼む……それで、続きは?」
期待のこもった眼差しに答える為、当主は和綴じの本に目を戻す。
二年前に聞いた、死にかけの友人の声。文字を読み上げる度にそれが当主の耳元で囁かれていた。
「棺を担いだ男の伝承は、こうだ。冬の夜、ある夫婦の下に男がやって来た。黒い棺を背負った怪しい宿だ。男は一晩の宿を求めたが、その夫婦は怪しがり、申し出を断ってしまった。しかし、隣に住んでいた優しい夫婦は快く了承した。男は食事を摂らず、すぐに寝てしまった。
次の日の事だ。優しい夫婦の家は昼になっても静かだった。最初の夫婦が不思議に思って扉を開けてみたら、そこには血塗れになった夫婦の死体があった。村人総出で昨日の男を探したが、いつまでたっても見つからなかったとさ。……誰彼構わず優しくしてはいけない、という教訓だね」
「そんなクソな教訓があるか」
そう言いつつもトーリカは満足げに笑っていた。眼鏡の向こうで青黒い目がキィと細められ、口元には三日月が描かれている。
「だが、一つ気になるな」
笑みを消してトーリカは眼鏡の位置を直す。
「その伝承だと、殺されたのは宿を提供した優しい夫婦だけ。でも、今回の事件は村一つだ。村人全員が馬鹿の一つ覚えみたいに優しかったのか? それこそクソな教訓を教えるべきだったな」
「ああ、そうだよ。それに、伝承だと男は火をつけていない。家はそのままだった…………なぜ村は燃えたんだ? 燃える必要があったんだ?」
「……浄化?」
燃やすという行為でトーリカが連想できたのはそれくらいだった。
悪いものを燃やして浄化する。それはトーリカの仕事上、よくある話だった。
当主の目が見開かれる。が、すぐに閉じられる。
「どうだろう……ああ、もう、考えるだけ無駄じゃないかな、これ」
「そうかもしんねぇけどさ、働くのオレなんだけど。もうちょっと手伝ってくれよ」
「無理! そもそも、冷静に考えれば専門じゃないから、僕」
冷静に考えなくても分かるだろ、と言いかけたが、すんでのところでトーリカは言葉を飲み込む。
「こういうのは専門家に聞いた方が良いよ、うん。柑子とかさ。どうせ暇してるよ」
「……はぁい」
「あ、これ持っていって良いよ。写してあるからなくしたって大丈夫だしさ」
本を閉じてトーリカの手に押し付けられる。ザラザラとした和紙特有の手触りがあった。
ため息と共にトーリカは部屋を後にする。
#####
煉瓦街は円形の街だ。周囲を高い煉瓦の壁で囲われている事からその名がつけられた、と言われている。
唯一の出入り口である南の門の近くにその喫茶店、『ゆぅとぴあ』はある。宿屋を兼ねた二階建ての煉瓦造りだ。
カランコロンとベルが鳴り、カウンター席に座っていた店主が顔を上げる。収穫時の麦畑を思わせる金の髪はいつもと同じように一つに束ねられていた。
狐の尻尾みたい、といつもと同じ感想を抱いて隣に腰掛ける。
「何か飲みますか?」
「いや、良い。それより、ちょっと聞きたい事がある」
「なんですか? 刺繍しながらできる事じゃないとしたくないんですけど」
店主の手元では花束が出来上がっていた。いや、店主の発言を鑑みるに出来上がってはいないのだろう。細い針は刺繍用の布の上で忙しなく動き続けている。
「できるかは分からねぇけど……ちょっと聞きたい事があるんだ」
「では、善処しましょう。話してください」
トーリカは、少女に聞いた話、当主に聞いた話を思い出しながら語っていく。その間金髪の店主は無言だった。針を動かしながら、時折思い出したように頷く程度だ。
話し終え、店主の反応を待つ。
「…………そうですねぇ。黒い棺、ですか」
針山に刺し、糸を変え、水色を刺していく。
「その話は聞いた事があります。最も、雲雀からですので同じものですが……しかし、類似の話を聞いた事があります。とある吸血鬼の話です。こちらは楼閣都市の昔話です」
「楼閣都市の? 近いな」
「ですので、同一のものだろうと。吸血鬼なら不死でもおかしくないでしょう?」
水色の花を作りながら店主の口は言葉を吐いていく。
「__昔、昔。七月塔に客が来ました。黒い服を着た男の人です。宿を探していましたので、七月塔の主は男に部屋を貸し、その代わりに今までの旅の話を求めます。
男の話は大層面白く、気づけば夜更けになってしまいました。主が食事に誘いますが、しかし、男はそれを断って、すぐに眠ってしまいました。
不審に思った主は、その日一晩男の部屋の前に座っていました。やがて朝日が昇る頃、扉の向こうから男の声がしました。『お前が眠っていれば、食い殺していたのに』、と。主が部屋の中を見ると、男はいなくなっていました。それ以来、七月塔は旅人を泊める事を禁じられました。男がいつ戻って来て、塔の主を食べてしまうか分かりませんから」
おしまい、というように針から糸が抜かれる。
店主の顔にはいつも通りの笑みが浮いていた。きっとこの笑顔は彼にとっての無表情なのだろう。
七月塔は客を受け入れない。それは、五月塔や九月塔、十一月塔のように主が常駐している塔としては異常だった。
「満月の日の昼間にやって来る黒服の客は吸血鬼なんですって。だからこの男は吸血鬼なんです」
「聞いた事ない話……でも、同一人物だろうな」
「でしょうねぇ。それで、村が燃えた理由ですか……」
刺繍を机の上に置き、店主は腕を組んで考え込む。
眉間に深い皺ができ、口がへの字に曲がり……もう少しで元の姿に戻りそう、とトーリカが思った瞬間に店主の目が見開かれた。
「思い出した!」
椅子を蹴って立ち上がり、驚くトーリカを置いて店主は裏に引っ込んでしまう。そして、ガタガタバタバタと心配になるくらい大仰な音を立てた後、なぜか埃塗れで戻って来る。手には一本の巻物が。
裁縫道具を荒っぽく片付け、カウンター席の細長いテーブルにその巻物を広げる。どうやら絵巻物らしい、美しい彩色で何やら珍妙な生物が描かれていた。
「何これ」
「劇場都市周辺のいざこざを分かりやすく説明したせいで生まれてしまった、簡単に言えば存在しないもの、ですね。終末の日に世界を焼き尽くす、だなんて言われてますけど、嘘っぱちですよ」
トーリカには恐ろしい兵器というよりも、何となく可愛らしいキャラクターにしか見えない。図鑑で見たリュウグウノツカイを思い出す。あれを全体的に赤くしたらきっとこうなるだろう。
「劇場都市で、あそこにあった国で何があったかは知っていますか?」
「愚図な政治家にキレた民衆が革命起こそうとしたんだろ? そのせいで大勢の一般市民が死んだり、他の街に移住しないといけなくなった。だが、他の街も崩壊後で荒れていた為、逃げて来た住民は結局殆ど死んだ」
「ええ。それで、ここを見てください」
店主はリュウグウノツカイの尾の先、一人の人間を指で示した。
黒い服を着て棺桶を背負った男が、描かれていた。
#####
驚愕を露わにするトーリカに店主は言う。
「この絵巻物は逃げてきた住民、しかもその後生存できた住民の証言を元に作られました。本当はただの長い絵でしたが、持ち運び難いからと巻物にされたそうです」
「じゃ、じゃあ、この男も……?」
「はい。複数の住民から、『棺を背負った黒い男を見た』と言われたそうです。その内の数人が似顔絵を描いたところ、見事特徴が一致していました。故に、この男は実在している、と」
「その似顔絵はどこかで見られるか?」
「知識都市に写しがあったかと」
知識都市、と聞いてトーリカは舌打ちをする。どれだけ急いだって片道五日。そこから劇場都市に行こうものなら半月以上かかる。
「話を戻しますと、この男は死体を食い漁っていたそうです。監視カメラ、は分かりますか?」
「……何となく。カメラってのは映像を残す機械だろ?」
「はい。それに人を殺して死体を漁る姿が写っていたそうです」
「成る程」
トーリカは顔をしかめる。
不死は厄介だ。それに、吸血鬼も場合によっては厄介な存在だ。
吸血鬼は大きく分けて二種類存在する。一つは伝承型、これは世界崩壊前からのもので、血を吸う事、日光やニンニクに弱い事等の吸血鬼らしい特徴を持つ者。もう一つは物語型、こちらは創作等で出てくるような、弱点を全てなくしてしまった吸血鬼だ。
「人肉を喰う吸血鬼……物語型か」
「大変ですね」
「いや、それよりも。当主に聞いた話だと、この男のモデルは劇場都市の初代支配人、グラン・ギニョールだから……つまり、グラン・ギニョールは……」
憶測はそれ以上言葉にできなかった。トーリカは口をつぐみ、想像したくないと首を横に振った。
「……明日、ここを出る」
「気をつけてくださいね。油断すれば痛い目にあいますよ」
「忠告どうも。死なない程度に頑張るよ」
「死なないくせに。ま、何かあったら遠慮なく連絡してくださいね」
ヒラヒラと手を振って、店主は刺繍に戻る。
カランコロンとベルが鳴った。
#####
劇場都市に着いたのは煉瓦街を出て五日後、よく晴れた昼間だった。
都市に人はいない。そりゃあそうだ、とトーリカは自嘲気味に笑う。雪の積もる劇場都市の中、全身を白い制服に包んだトーリカは都市に残る亡霊のようだった。
「劇場都市は死んだ。革命を模した劇、第七百七十七『運命』を上映したせいで、脚本通りに動いた民衆によって支配人が血祭りにあげられ、都市としての機能をほぼ全て放棄したからだ」
そんな朗々とした声が響いた。
音の方向を見ると一人の女が立っていた。いや、女かどうかは不確かだ。髪が長くほっそりとしている為に女だと判断したが、男と言われても納得できそうだった。
「こんにちは」
声から性別は分からなかった。それ程にも、あまりにも中性的だった。
「君は……トーリカ・セイント君? 異狩りの」
「……あなたは」
「陰陽署、と言って通じるかな? まぁ、良いか。平井 雅美だよ。確か、ええと……絶食の美食家、と言われた事もあるかな」
絶食の美食家。
その二つ名に、トーリカの意識よりも早く腕が動いていた。
キン、と高い金属音。斬りかかる剣を平井が防いだ音だった。驚くトーリカの喉元には平井の武器、蝙蝠傘が当てられている。
平井は冷静に提案する。
「グラン・ギニョールに友人が捕まった。僕はそいつを助けたい……それだけ。だから、協力しないか?」
「…………」
「デメリットはない筈、だけど」
剣を腰の鞘に収めて答えとする。平井は安心したように微笑んで傘を下ろし、パンと開く。曇り空で直射日光はなかったが、それでも彼には耐え難かったらしい。
平井雅美についての記録をトーリカは思い出す。簡単に言うならば、かつて存在した陰陽署という組織に所属していた、吸血鬼だ。だがその二つ名、絶食の美食家、が示す通り、彼は血を吸わない。肉を喰らうのだ。
「君、もう少し肉をつけた方が良い」
「……食う場所がないから、か?」
「男に興味はないよ。成長期を迎える子どもへのアドバイス、それだけ、って何々? そんなに怒って何か、」
「成人済みだッ!」
一瞬、世界が止まったように思われた。
わざとらしい咳払いをして平井は道の先に目をやる。立派な形をした廃墟、元中央劇場があった。
「さ、行こうじゃないか。急がば回れとは言うが、ゆっくりしてては僕の可愛い友人が死ぬからね、うん。死んだら元も子もないからね」
早足で歩き出す平井に無視をするな、と呼びかける。だが彼は振り向かなかった。黒い傘をクルクルと楽しげに回し、何も聞こえていないように振舞っている。
ため息を吐き、トーリカはその後を追う。
#####
中央劇場は劇場都市で二番目に大きい劇場だった。ここで演じられる事は数多の戯曲作家、俳優、女優の夢であり、その事実だけで例えどんな
今や天井は砕け、壁も崩れ、当時の面影はない。埃の被ったカーペットもかつては美しかったのだろうと、少しばかりの罪悪感を抱きながらトーリカ達は進んでいく。
無言のまま、劇場の扉を開く。
その先に広がっていたのは、すり鉢状のホールだった。観客席の先には立派だったのだろう舞台がある。そこには誰もいなかったが、舞台の真向かいのある席に、黒く長い箱が見て取れた。その隣には人の影。
目を見合わせ、同時に頷く。先に動いたのはトーリカだった。
「異端及び異教徒殲滅会、トーリカ・セイントだ。大人しく投降しろ」
ホールの中では声がよく響いた。無論聞こえている筈だが、人影は微動だにしない。訝しみつつもトーリカは客席の階段を降りていく。
「今なら命は取らない」
詭弁だ。そう自覚しつつもトーリカは言うしかなかった。
いつも通りの手順だ。油断した相手を、できるだけ素早く刺し殺す。特に才能がある訳ではないトーリカにとって、卑怯ながらも立派な行動だった。
足は着実に人影に近づいている。幻術の類いがない事に安堵しつつ、懐のナイフに手を伸ばす。
「劇場都市元支配人、グラン・ギニョール。貴様に選択肢はない。大人しく、」
思わずトーリカは息を飲む。
客席にいたのは
では、グラン・ギニョールは。トーリカの思考が一つの結論に達した時、指が動いた。
ナイフが刺さったのは、宙に躍り出ていた平井だった。
「なッ!?」
「大人しく死ね」
トーリカの着ている真白の上着がその内面を露わにする。
ビッシリと、それこそ裏地の毛皮のように、ナイフがあった。数本、数十本という程度ではない。それだけで鎖帷子の代わりになりそうな程、ナイフが隙間なく収められていた。
「その剣が武器だと思ったが」
苦々しく吐き、平井の姿をしたソレは床に降り立つ。
「騙されてくれてありがと。生憎、長剣は苦手でね」
両手の指にナイフを挟み、戦闘態勢に移行する。
両者の間には五メートル程の距離があったがトーリカには関係なかった。投じられたナイフはまっすぐに飛び、ソレの心臓を狙っていく。当たり前のように相手は跳躍して回避するが、二投目のナイフがまた狙う。ソレが回避をする度に三投目、四投目が投じられる。
当たる事はソレの本能が忌避していた。少しでも掠れば死ぬと、根拠なく自覚していた。
距離は縮まず、広がらず、五メートル程を留めたままだ。
「図太いな、さっさと死ねよ」
トーリカの口から舌打ちが漏れる。それと同時に五投目のナイフ。だが、ナイフはソレの右頰スレスレを通り抜けていった。
外したのだ、とソレが笑った瞬間。視界がズレる。
六投目はなかった。
長剣を鞘に収め、トーリカは息を吐く。
「いつ、気づいた」
首だけになってもソレには意識があった。
「気づいたもクソもあるか。死にそうになったから、殺しただけだ……もしかして、グラン・ギニョールってお前か?」
「っ……ああ」
「そうか。じゃあな」
笑みも、憐れみも何もなく、無表情でトーリカは首に足を乗せる。
グシャリと音がして脳漿が散らばった。
#####
「なぜグラン・ギニョールを殺した……って、君の保護者が怒ってるんだけど」
はぁ、とため息を吐いて千歳商会当主は手紙を広げた。そこには怒りのこもった文字でトーリカへの質問が陳列されている。
「殺されかけたから」
「……それで納得すると思う?」
「いや、無理だろ」
カラカラと笑うトーリカと対照的に、当主の顔には深い絶望が刻まれていた。
しばらくして、真面目な顔でトーリカは口を開く。
「んーと、な。まず、平井 雅美は前に知り合った事がある。その度に斬りかかってるけどよ、今回の平井はいつもと違ったんだ……こう、感覚的な話だから説明できないけどさ」
「……それだけ?」
「それだけ。あ、あと、平井とあいつが離れるっておかしいなぁ、って思ったのとか……ま、説明が面倒な事だからさ」
「じゃあ、それを書いて」
いつの間にか当主の手には便箋が握られていた。今にも逃げ出しそうなトーリカの手を空いた手が掴み、血走った目が細められる。
「時間かかって面倒だから、できれば遠慮したいんですけど、あの、すいません若、」
「書いてくれるよね?」
有無を言わせぬ目を前にして、それ以外の返答はできなかった。
手渡された万年筆を、便箋の上に走らせる。
拝啓、親愛なるクソ上司へ。
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