蜘蛛の巣<言綏視点>
若君からホルヘ殿とアドリアナ殿が本格的に戦艦整備に参入した事を知らされた。
整備を担当している研究者の全てが革命支持者では無い為、無力化は難しいとの事。さもありなん。
他の王族を出し抜きたい者達が、ホルヘ殿が開発した新型艦砲を己の乗る戦艦に搭載してもらおうと秘密裏に接触を図ってくるらしい。浅ましき事、甚だし。
まだ試作品だから載せられぬと、のらりくらりとかわしつつ、新型艦砲を試作用戦艦に配備し、威力だけは見せて期待感だけ高まらせているとの事。
直前に搭載可能と嘯いて戦艦に搭載されている既存艦砲を無力化する考えだと教えられた。
我こそマグダレナに大打撃を与えんと期待に胸を膨らませて大陸に近付き、自分達がまともに攻撃出来ない事に絶望しながら海の藻屑となる──愚か者に相応しい最期と言える。是非にそうなって頂きたいもの。
さて、オーリーとイリダを結び付けるに当たって、接点を持つ事が望ましい。
交流そのものが自然な事となれば、木を森に隠すのも容易い。
体の良い事に新型兵器の話が出ている。莫大な費用がかかるとホルヘ殿から上奏してもらい、消費エネルギーも甚大であると伝えてもらうのが肝要。某から横流しした魔石をアスラン王から研究者に渡せば、必要な事と深く考えぬであろう。皆一様に己の事のみを考えようし。
チャルチウィトリクエなる王族の女人が王と深い仲になっていると聞く。直轄の研究所への関心を一時的にでも逸らす事が重要になる。
王に焦りを与える事──ショロトルが王位を継承するのが最も焦ろうな。ショロトル自身が王とどのようなやりとりをしているのかは確かめようもない。
……そう、形骸化した権威などが一番都合が良い。神イリダを崇拝する為の組織があろう。そこを突き、現在のイリダが抱える問題は、王位継承が捻れた状態にある事に他ならぬとでも言わせれば上手くいこう。
これまで水と油のように分かたれていた国を支える土台が汚泥のように混じり合い、もはや敵は国民の大半である状況に持ち込み、転覆せしむる──。
恒例となった、アスラン王との会合。
「なるほどな」
某の案を聞き終えたアスラン王は呟き、眉間に手を当てた。
「そなたの言うように、神イリダを崇拝する組織は存在する。奴らはいかにして王に取り入るかを虎視眈々と狙っているような輩だ。だがこれまではその為の有効な手段が存在しなかった。余からは直接働きかけられぬが、他の者にやらせよう。
トラロックを揺すぶらせる為にな。
燕国との定期船が来週にも来る。先日送った間者達から魔石を大量に受け取った事にし、研究所と繋ぎを付ければ良いのだな?」
「左様に御座ります」
ですが、と一度言葉を区切ると、王はこちらを見た。
「要請を受けてからで宜しいかと。王は要請を受け、研究所に行くのです」
自発的に行動を起こせば不審に思う者も出よう。まだ、発覚する訳にはいかぬ。
あちこちに火種を用意し、気が付いた時には消せぬ程の火をあちらこちらに起こさねば革命など成功せぬもの。
「要請されると思うか?」
頷く。
「形骸化されているとは言え、神の代理を名乗る組織から面と向かって相応しからずと糾弾されれば、流石の王も不安を感じましょう。
ショロトル殿の母后は今も健在なのです。母后の耳に入り、己が立場が危うくなるかも知れぬとトラロック王は恐れを抱く可能性は高ぅ御座ります」
王は何度も頷いた。
「ショロトルの母后は息子に何としても王位を継がせたいと考えている。それをショロトルがはぐらかしている状況だ。イリダ教が動けば必ず便乗するだろう」
「慌てた王はマグダレナ侵攻を急かす。その為に必要な費用を捻出する為に増税を安易に決定するだろう。研究所で開発そのものにエネルギーが不十分とでも言ってもらえれば、魔石を渡す口実で研究所に出入りが可能になるだろう」
「
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