039.迫る戦いの気配
あれから考えているんですよ。
私は本当に女神を呼べるのか? 助けてドラえ●ん的に。
セラは私の身に何かあったら女神が怒るかも知れないって言ってたけど、それはどうかと思う訳です。
だって私、キャロルに襲われたり、インチキエロ教皇に手篭めにされそうになったり、媚薬もられたり、色々あったもの。ギリギリ助かってるとは言えですよ?
普通あり得ない目に遭いまくってますよ?
……と言う訳で、ナイナイ。あり得ないです、私に何かあったら女神サマがお怒りとか。
女神サマの怒りと言うより魔王親子の怒りに触れてるとは思うけど……。
オメテオトルは何を女神サマにお願いしたいんだろう。
神サマしか何とか出来ない事……そう言えば、何でオメテオトルが生まれたんだろう?
ショロトルってば、女子になりたいとか……?
ってそれは安直過ぎるかー。前世で読んだ解離性同一障害の本で、男の人の中にも普通に女子の人格出来てたし、その逆もあったし。だから、そう言う事じゃないんだろうなぁ。
「願いごと……」
「何か叶えて欲しい願いがあるんですか?」
oh……ルシアン。いつの間に。
もうね、驚かないよね。うっかりな私とアサシンなルシアン。
カウチに腰掛けて、さも当然ですと言わんばかりに私を膝の上にのせるルシアン。この流れるような一連の動作。無駄がないです。戸惑いも勿論ないです。好きです。
「いえ、特にはありませんわ」
私の事じゃないんだよー。
「オメテオトルの事を考えていた?」
頷く。
「女神に願いたい程の事とは何なのかと。自分だったらどんな時に願うのだろうかと考えていたのです」
あまりに辛い現実に耐えかねて、別人格を作ってまでショロトルは逃げたかったんだよね。普通ではどうしようもない事が起きて、オメテオトルやケツァが生まれた。
そうして生まれたオメテオトルが、主人格を救う為に行動する──。
「ルシアンは願いごとを叶えてあげると言われたら、何を願いますか?」
無言で私を見るルシアン。
……アレ? なして無反応?
そうかと思っていたら、私の頰をゆっくりと撫でた。
「私の願いは貴女の側にいる事です、ミチル。その為に己が出来る事は全て実行に移します。もしそれが叶わないなら、貴女を殺して私も死にます」
ソウダッタ、ソウデシタ!
このお方は何処に出しても恥ずかしくないヤンデレでしたよ……!
「ですから願いは特にありません。強いて願うなら、ミチルが永遠に私のものである事でしょうか」
柔らかい微笑みで言われるヤンデレ発言。
スゴイネ、ミリもブレないんだネ……。
ルシアンの目は真剣だった。そう、軽い気持ちじゃないんだよね、この人は、いつだって。
何度生まれ変わっても、こんなに自分を想ってくれる人はいないだろうなって思う。
例え好きあえる人が出来たとして、魂ごと欲しいとまで言われるとは思えない。まぁちょっと、重……凄過ぎるかなーと思わなくもないけど。
あれだけラブラブなモニカとジーク殿下でも、魂までは結びつける勇気が出ないとモニカは言っていた。
私の場合は普通に無断だったケドネ?
私もルシアンが好きで好きで仕方ないし、出来るなら来世でも出会いたい。あわよくば好きになっていただきたいと言う欲求まである。図々しい事にめっちゃある。
同じだけの気持ちを返せているかは分からない。いや、全然返せてないと思う。でも、気持ちはあるのだ。
ちゃんと、ここに。
そんな私の気持ちを、ルシアンに伝えたいなと思った。
上手く伝えられないかも知れないけど、少しでも伝えたいなと。
あぁ、私も結構ヤンデレの素質あるのカモ。
立ち上がると、ルシアンが私をじっと見つめた。
「ちょっとだけ、お待ち下さいませ」
刺繍用の赤い糸を適当な長さに切ってルシアンの元に戻ると、隣に腰掛けた。ルシアンの左手を取り、小指に糸を結ぶ。
「これは?」
「あちらでは運命の赤い糸という言い伝えがあったのです」
「運命の赤い糸……」
「運命の赤い糸で結ばれた二人は、生まれ変わっても出会い、結ばれるんです」
自分の左手の小指に糸を結ぼうとするも、これがなかなか上手くいかず。見かねたルシアンが結んでくれた。
結ばれた指を見て微笑んだ。
「私の望む運命は、ルシアンです」
願いをと聞かれたら、ルシアンと一緒にいたいと答えると思う。我ながら贅沢な願いだと思う。一見控えめに聞こえるかも知れないけど、一人の人間と心を違(たが)う事なく、ずっと想い合いたい。想われたい。
「ミチル」
自分ではない誰かを、自分だけのものにしたいだなんて、貪欲だ。
それでも、私はルシアンが欲しい。
額に額をくっつけて、頰を寄せ合って、頰にキスをして、キスをされて、唇にキスをする。
何度も。何度もキスをする。
「愛してます、ミチル」
私も、と言う声はキスに飲み込まれる。
「もう、ルシアン」
ふふ、とルシアンが笑う。
そっと手を伸ばしてルシアンの髪に触れ、頰に触れる。
好き、大好き。
誰よりも好き。
ルシアンは自分の左手の小指に口付けた。それから私の左手を取り、小指に口付ける。
「私の唯一」
その言葉に胸がぎゅっと締め付けられる。
「私にとっても、ルシアンは唯一ですわ」
誰よりも、何よりも大切な人──。
*****
「冬になる前にイリダは攻めてきます」
ルシアンの言葉に胃がぎゅっと縮む思いがした。
「季節的な問題もあるでしょうが、その方が確実にイリダを滅ぼせますから」
オメテオトルがそのように誘導すると言う事だろうか?
「時間を置けば置く程に、あちらの準備が整います。そうなればこちらの勝率が格段に下がってしまう」
その言葉は、皆が滅びの祈りを使わずにイリダに勝とうとしている事に他ならなくて。泣きそうになる。
「ミチル?」
首を横に振って、何でもないと答える。
「イリダの戦艦を陸上から迎撃するのでしょうか?」
ルシアンはいえ、と短く答えた。
「女神の加護を受ける圏内にイリダの戦艦が侵入した辺りから、燕国、ト国、マグダレナによる海上戦を展開します。念の為相手に真意を問いますが、一笑に付されるでしょうね」
デスヨネー。
でも、国家間の争いだから、どちらに非があるのかを明確にする為に、マグダレナ側はやるんだろうな。
「あちらの王侯貴族の数、参戦する数は正確には不明ですが、それなりの数になる筈です。
王位継承権を争う王族達が、自分を支持する者達を引き連れるとするなら、それぞれが別の戦艦に乗るだろうと予想します。同じ船に乗った場合、他の継承権保持者から命を狙われる危険もありますから。
そうなれば最低でも七隻の戦艦がこちらに向かう事になります。それが全て大陸に迫り、分散して攻められたらひとたまりもありません。全ての海岸線に防衛の為に要塞を用意する事は不可能です。
大概、戦艦にはそれなりの射程距離を持つ艦砲が積まれてますから、その砲台が陸上に向けられる事は避けなくてはならない」
前世のニュースで見た艦隊──あそこまでハイテクノロジーじゃないにしても──が何隻も来て、それがマグダレナに向けて一斉掃射されるのを考えたらぞっとした。
「その為にも捨て石となる戦艦をこちらも配して、海上戦を展開して誘導します」
捨て石──。
ルシアンは私の手を撫でた。
「本来ならこのような話は貴女に聞かせたくはありません。ですが、その後の儀式にも絡む事です。ミチルにも知っておいていただく必要があると判断しました」
私は頷いた。
「分かっております。私が守られた場所にいる事も、失われる人達の事も。分かっていても、戦争は怖いです……。
命と命の奪い合いなど、とんでもない事です。滅びの祈りもしたくないのです」
頷いて、ルシアンは私の頰を撫でた。
でも、ゼロか100かの問いではなく、ゼロか50か。少しでも救える命があるから、せめてそれだけでも救いたい、皆はそう思っている。
命の選別が正しい事だなんて思わない。でも間違っているとも言い切れない。
私達はひたすら選択肢を増やせるようにと努力してきた。失われる命が一つでも減らせるように。
正解なんてあるの? 戦争における正解って、何?
セラから聞いた戦艦を迎撃する為の要塞は、はっきり言ってこの世界には不似合いな程に堅牢だと思う。
私は、前世で見た戦争映画やニュースなどからなけなしの記憶を掻き集めて、お義父様とルシアンに伝えた。
何が役に立つかは分からない。でも、知らないよりは知っている方がイメージしやすいと言うのもある。
まだ海が移動の主流である事も良かった。航空機が出て来たらひとたまりもない。空からの攻撃は被害を受ける場所が尋常では無い程に広がって、民間人のエリアを侵食する。
戦艦の砲台から発射された砲弾は、大概激しい衝撃を与えて周囲に甚大な被害を及ぼす。
被害を拡散させない為に、マグダレナ側が作り上げた要塞の表面は硬い装甲になっているが、それは厚みの半分程。残り半分には衝撃を吸収する素材を使用している。
それから、火災により要塞が陥落する事も想定される。燃えにくい素材である事も重要だ。
迎撃用の大砲は、砲身が長く、要塞の上に固定される。
どうも鉄砲は銃身と呼ばれる部分が長い方が飛距離が伸びるようだ。かの著名な暗殺者ゴ●ゴもスナイパーライフルを使用していたし、きっとそう! それが砲台でも適用されるかは不明だけど。
ここはちゃんと検証してもらいましたのでご安心下さい。
私の知識がこの世界でも使えるようにと検証するお義父様とルシアンは、さすがだと思うのよ。何でも鵜呑みにされたら、怖くて何も言えない。そんなの責任取れない。
「可能な限りイリダの戦艦に攻撃を加えて戦力を削ぎ、要塞のある海岸線に誘導する事が海上戦の目的です」
私は頷いた。
相手の戦力を本戦前に出来るだけ減らして、被害を受けるエリアを限定する。
滅びの祈りを使ってではなく、相手を殲滅する。
思わず身体が震えた。
モニターの先にしかなかった、戦争が、目の前に迫って来ようとしてる。
ルシアンが私を抱きしめた。
いつもなら、絶対に自分が守ると、安心させる言葉を口にするのに、言わない。
「開戦したら、私は前線に出ます」
「!」
顔を見上げる。
静かに私を見つめるその瞳は、いつも通りだった。動揺とか、そう言うのはない。
「要塞に入ります。ミチルの側にいられません」
その状況をルシアンが望む筈はないから、お義父様の指示なんだろう。
「でも、貴女のいる場所に何かあれば、駆け付けます」
その言葉に、胸がぎゅっとして、嬉しくて、でも怖くて。
ルシアンの胸に顔をすり寄せた。
「お待ちしています」
大丈夫。
何があっても、ルシアンは約束を守ってくれる。
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