闖入者<オメテオトル視点>

闖入者の報告を影から受けた。

入国した燕国の船に、いつも交易を担当している者とは別に、初見の男が二人、加わっていたと言う。これだけなら特段気にかけないが、その二人はエテメンアンキに滞在したいと申し出たと言う。しかも、大量の魔石を見せつけて……。

先日マグダレナに送り込んだ者達は今回の定期船で誰一人戻っていない。


「身なりは?」


「身なりはこれまでの者と似通っておりますが……内、一人の動きは武術を嗜む者と見受けられます」


「もう一人は?」


「それが……」


歯切れが悪い。視線を向けて表情の動きを見る。戸惑っているように見える。


「影かと思う程に隙が無く、かと言ってあの振る舞いは影とも思えず……」


振る舞い?

続きを促すと、意を決したように言った。


「燕国公方の息子と、仕える多岐家の者ではないかと思われます」


「何故そのような者達が?」


分かりません、との答えにため息が出てしまう。


公方は燕国国主。その息子がわざわざここに来た理由は何故かしら?

それも、身分を明かさずに。

長男と次男はこちらと接点を持とうとして動いていた。次期公方の座を狙って、長男と次男がその力を誇示する為にイリダと接触を図っているのだと思っていた。

公方には三人の息子がいると言う。であるならば、三男が次期公方の座を狙い、動いたと言う事……?

兄にお株を奪われた為、乗り込んだ……?


「……質問を変えましょう。燕国の王族であると判断したのは何故ですか?」


私の質問に、影が答える。


「双方とも入国した時からこちらの動きを察知しておりました。燕国の影かとも思いましたが、それにしては振る舞いが異なりますし、影の動きを予測しているあたり、日頃影に守られているのではないかと……」


「振る舞い以外にそう思ったのは何故かしら?」


「燕国の言葉で話しておりましたので、内容は分かりかねるのですが、五条と九条、という単語が聞き取れました。燕国公方の息子二人の事かと……。

ただ交易に来ただけであれば、九条の名は出ても五条は出ないのではないかと思われますし、二条と呼ばれておりましたので……」


なるほど……。

決め手は欠けるものの、可能性という点ではなくはないと言った所かしら。


燕国の正室の子である三男が動いたと言う事は、長男と次男が公方に相応しいと言う声が国内で上がりでもしたのかしら……。

そう考えると大量の魔石を持参して、次男よりも自分たちの方が魔石を融通出来ると思わせる、という事も可能だけれど……。その為に滞在するかしら……?

王族と接点を持つ為に来たとか……?


「報告ありがとう。引き続き監視してちょうだい」


「かしこまりました」




「オメテオトル?」


ショロトルが私の名を呼んだ。

私は直にショロトルの側に行き、髪を撫でた。


「何かあったの?」


「いいえ……ううん……何か、と言う程の事は起きていないのだけれど……珍しいお客様がいらしたのよ」


首を傾げ、珍しいお客様? と聞き返すショロトルの、長い髪を耳にかけてあげる。


「燕国から来たお客様がいるのだけれど……何を目的としてここに来たのか分からないのよ」


「僕が聞いてこようか? ちょっと捻れば直に吐くよ」と、ケツァが言った。


ケツァは直に力で解決しようとする。

私は首を横に振った。


「必要になればお願いするわ。今は様子見なのよ」


止められた事がつまらなかったのか、ケツァはちぇっ、と舌打ちをする。

それを私とショロトルは笑って眺めていた。




燕国から来た二人の名は、ゲンノジョウと、トキマサだった。

公方の三男の名であり、公方に仕える多岐家の四男の名だった。隠す気はないみたい。隠す必要がないと思ったのかしら……。


二人は四層と五層に出入りする事が多いようだ。この二つの階層はイリダの下級国民やオーリーの下位貴族が利用する店舗が多く存在する。


名前を偽らないと言う事は、次男のお株を奪おうとしているのか、それとも本物は本国にいて、その名を騙っているのか。

わざわざここまで来た理由は? 直接面識を持つ事で好感度を上げようとした?

正室の子がそこまでする必要が……?


ドレイク達は上手くやっているのかしら?

次の定期船で帰って来るといいのだけれど。

私が命じた、マグダレナの有力者に協力を得る話が上手く行っている事を祈るのみだわ。

それが上手く行かなくても良い。

女神に愛される一族の末裔である娘を、私の元に連れて来てくれさえすれば。

私の望みが叶うかは分からない。

けれど、それしか今は縋れるものが無い。

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