011.甘くて健全な夫婦生活?の為に!
宴の準備頑張るぞ!と思っていたら、レシャンテに取り上げられてしまった…。
普通はこういった夜会の準備とかって妻がやるのに。それを取りあげられるってどういうことなの。
感謝祭も官僚達が主導でやると言うし、私、する事ない…。
「仕方ないでしょ」
そう言ってセラが私の前にほうじ茶ミルクティーを置いた。
ひと口飲むと、いつもよりちょっと甘めに出来ている。きっと私がやる事を取り上げられて凹んでるから、落ち着かせようと甘めにしたんだと思われる。
さすが出来る執事!
「仕方なくありません。私、ルシアンの妻として、アルト家の宴を切り盛りしないといけませんのに」
家を切り盛りするのは、貴族の女であれば当然求められるもので、家の規模によっては、第一夫人だけでは足りずに、その為に妻を娶る家だってあるぐらいなのだ。
アルト家の規模は大きい。それなのに妻を一人しか娶らない為、妻をフォローする為に何人もの執事を抱えるし、侍女も多くいる。
「仕方ないのよ。だってルシアン様の命令なんだもの」
ほわっつ?
「ミチルちゃん、こういうイベント事があると、それにかかりきりになるでしょう?
ルシアン様が、それを嫌がるのよ。ミチルちゃんと過ごす時間が減るのが許せないって」
ルシアンめー!
バレンタインの事を根に持ってるな?!
「ですが、妻としてこういった事を切り盛りするのも、貴族としては当然の務めですよ?」
「ミチルちゃんが普通の貴族の淑女ならね?」
伯爵位を持っていたり、転生者だったり、夫がアレだったりと、私はイレギュラーに分類されるらしく。
「それに、こういうのそんなに得意じゃないでしょ?」
確かに得意じゃないけど!
得意じゃないからやらないなんて、駄目人間じゃないですかー!
「それよりも、ルシアン様に贈るタイタックピンのデザインは出来たの?」
「いえ、まだです」
そうでした。
作りたいと思ってました。
はぁ…宴に関して言えば、絶対にルシアンは意見を曲げないだろうし、それを無理強いしようとしたら、今度こそ本当に、肉食女子になるしかなさそうだ。ハードルが上がりまくってるから、そろそろ本気でやばい気がしてる。
だからここは大人しくした方が良さそう。
「明日のお休みはルシアン様と皇都観光をするといいわ。念の為私とフィオニア、イーギスとアメリアも同行するけどね」
ようやく叶う皇都観光!
これは楽しみ!
「皇都の観光地は何処かセラは知っていて?」
「あぁ、それなら調べてあるわよ。フィオニアが」
「お待ちになって。それ、ちょっと信用なりませんわ」
セラは苦笑する。
「ネグリジェの事、よっぽど怒ってるのね、ミチルちゃん」
「怒りますわ!だって、3枚とも、とても破廉恥で!
着るたびに私、ルシアンに大変な思いをさせられておりますのにっ」
しかもルシアンの口振りからして、まだあるみたいだし!
制覇って言ってたよ?何枚あるの?!
「フィンは、ルシアン様を最大限に喜ばせる為に、ミチルちゃんがもっとも恥ずかしがるだろうものを用意してくるからね、当然そうなるわよね」
鬼なの?!
主に私に対して鬼だって事だよね?
「何故そうなるのですか?!私、いつも大変ですっ」
「一番の解決法は、ミチルちゃんがルシアン様を食べる事なんじゃないの?」
ねぇ、それ、何処まで知られてるの?
セラまでだよね?そうだと言ってホシイ。
…はっ!まさか、それを知ってフィオニアは?!
「そっ、そんな事、無理です!大概の淑女は無理だと思いますわよ!セラの妻になるオリヴィエ様だって…」
セラと目が合う。
「セラ、頑張って」
「はしたない!」
おでこをぺちっと叩かれた。
なんでよー、応援しただけなのにー、ぶーぶー。
君達もっとはしたない事言うじゃないかー。
貴族だから当然お付きはいるとしても、明日はルシアンとデートです!
婚約時代は乗馬デートとかよくしたなぁ。
…うん?それぐらいしか、した事ないんじゃないの?!
だから私、駄目なんじゃないの?
恋愛の階段を色々すっとばし過ぎな所為でこう、上手く愛情表現が出来ないんじゃないかな?!
ほら、最初は隣を歩いて、手を繋いで、好きって言ったり、そういう初歩的な奴…はやってるな。
シチュエーションに色々と問題があった感は否めないけど、行動そのものとしてはクリアしている。
じゃ、じゃあ次のステップだよね。
抱きしめられたり、抱きしめたり、キスしたり。つまり、軽めのスキンシップ系ですね!
えぇと…ここから既に達成出来てませんね?!
抱きしめるとか、イレギュラーな時しかした事ないし。
よし、今日早速ルシアンが帰って来たらやってみよう!
まずは、ここからですよ。
最近はルシアンをガン見出来るようになりましたからね。
己の成長を感じるー!
そもそもが、前世では年齢イコール恋人いない歴の私が、いきなり色々すっとばしすぎだから、こう、アンバランスなのは分かっていた事だ!
だからこうやって、少しずつステップアップしていって、愛情表現が出来るようになって、ルシアンが満たされて?いき!あのアブノーマルな破廉恥プレイからの脱却を目指すのだ!!
ふふふ、待っているがいいですよ、ルシアン!
セラのお茶をお代わりしつつ、ルシアンに贈るネクタイピンのデザインをする。
タイタックピンって言うんだって、クラヴァットを止めるのに使うあのピン。知らなかった。
アルト家の家紋を模したピンと、チェーンの付いた奴とか良さそうだよね。
「ねぇ、セラ。
タイタックピンに鎖が付いているものってあるかしら?」
「鎖?鎖は何処に付くの?」
紙に描いた絵を見せる。
セラは首を横に振った。
「見た事ないわ。でも、いいわね。素敵」
無いのなら、作るしかないなぁ。
緑色の宝石を手に入れるとして、それでタイタックピンを作っても、今ルシアンが使ってるのと同じようなデザインになっちゃうからなぁ。
あ、そうだ。
私が婚約時代にもらったアレキサンドライトは雫型なんだから、ルシアンの今度のタイタックピンも雫型にしてみよう。それで片方だけに鎖を付けたら、なんかカッコ良さそうではないかー。
「ミチルちゃん、作る時はルシアン様の側でやってくれないかしら?」
あぁ、うん。
「分かっておりますわ」
ルシアンはサプライズより、目の前で見て幸せ噛み締めるタイプだもんね。
ルシアンが帰宅するという知らせを受けた。
なんかいつもより帰宅が早い気がする。何かあったかな?
そろそろかな、と思って窓の外を見たら、ちょうどルシアンの馬車が門をくぐったのが見えた。
セラと一緒に部屋を出て、玄関ホールに向かう。
「今日は随分お早いお帰りですわね?」
「ミチルちゃんに会いたくて、いつも以上に早く仕事を終わらせて帰って来たんじゃない?」
「まさかそんな…?」
…ルシアンならありえる…!
階段を下りていると、ドアが開き、宮廷服を着たルシアンが入って来た。朝も見送ったけど、本当にカッコいいな!
いや、毎日見てるけどカッコいいな!
レシャンテ達が一斉に頭を下げて出迎える。
「おかえりなさいませ、ルシアン」
わー、イケメンが帰って来たー。
私を見て、ほわっと微笑んだルシアンに、きゅんとする。
あぁ、イケメン…!
…よし、昼に心に決めた事を実行するぞ!
「ルシアン、お疲れでしょうから、お部屋でお茶でもいかがですか?」
「是非」
ルシアンの手を引いて、2階の自室に向かう。
「今日は随分とご機嫌ですね。何かありましたか?」
「そうですか?」
ルシアンが早く帰って来たからかな?何だろう?
自室に入ったはいいものの、いざ、抱きつくぞ!と思うと身体が動かない。
背後からルシアンの声。
「ミチル?」
が、頑張れ、ミチル!
破廉恥生活から脱却し、清く正しい夫婦生活の為に!!
勢いよく振り返り、ルシアンに抱きつく。
「おかえりなさいませっ」
すかさず抱きしめられて、こめかみにキスされる。
さすがです、私のような迷いは一切ありませんね。
「ただいま帰りました、ミチル」
おぉ、なんか新婚っぽい!
新婚さんと言えばあれですよ、お帰りなさいのキスとかしちゃうんですよっ!
私から抱きついたのが嬉しかったらしく、ルシアンはそのままぎゅーっと私を抱きしめ、髪に頰をすりすりしてる。子犬みたいで可愛い。
「ミチルから抱きついて下さるなんて、珍しい。やはり何か良い事があったのでは?」
「何もありませんわ」
「本当に?」
うぅ、疑われてしまう程、私という人間の愛情表現が乏しいって事だよね。
とは言え、破廉恥被害を減らす為です!とは言えませんからね。
「あちらでの、新婚夫婦がする事を思い出したので、私も取り入れてみたのです」
本当か嘘か分かるまい…!
実際問題、私から抱きつくのは、ルシアンにとっても嬉しい事のようだし!
「それが、この抱擁なのですか?」
「そうですそうです」
うんうん、我ながら上手く誘導出来ているではないですかー。
「抱き付くだけ?」
ルシアン、たまに思うけど、君、前世の記憶とかあるんじゃないの?
抱き付いていたのを止めて、ルシアンの頰にキスをする。
とろけるような目で私を見ると、「もう一度、今度はここに」と言って唇を指差す。
くそぅ!ほっぺちゅーではごまかされなかったか!
無念っ!
観念してキスをする。
唇が離れた瞬間に、ルシアンに顔を両手で押さえられて、何度もキスされた。
きゃーっ!ルシアンのキス魔ーっ!
「今日一日、ミチルが執務室にいなくて辛かったのですが…帰宅してミチルに抱きしめられ、キスしていただけるなら、いいですね」
ルシアンは私をひょいと抱き上げてカウチに腰かけた。
「お着替えする前にこちらに案内してしまいましたわ…申し訳ありません、ルシアン」
「いいえ。最高の出迎えですから、気にしないで下さい」
せめてクラヴァットだけでも取った方が苦しくないのでは?
目の前のタイタックピンを外し、クラヴァットを緩める。
ルシアンがじっと私を見てる。目から色気が出まくりですけど、どうして?さっきキスしたから?
「?どうかなさったの?」
「ミチルが遂に私を食べて下さる気になったのかと」
えっ?!クラヴァット外したから?!
「ち、違いますっ!首元がお苦しいのではとっ!」
「ありがとう、ミチル」
くすくす笑いながら、ルシアンは私の頰にキスをした。
「おかえりなさいませ、ルシアン。寂しかったですわ」
何だかとても素直に言えて、我ながらやれば出来るじゃないか、なんて思っていたら、ルシアンがじっと見つめてきた後、私のおでこに手をあてた。
「熱が…?」
「ありませんっ!もう!せっかく素直に言えましたのに!
ルシアンの所為で台無しですっ」
どうせ、私は素直になれませんよーだ!
「そうだったんですね。
私はてっきり、熱があるか、昨日のようなお仕置きを回避する為に何か企てたのかと思ってました」
ぎくり。
「ミチル?」
ルシアンの手が私の顎を掴む。
「私の目を見て?」
あわわわわわわわ。
このイケメンは、一体どれだけ見抜いてるの?!
「だっ、だって…あのようなのは、恥ずかしくて嫌です!
もっと普通の夫婦らしい、健全な夫婦生活を送りたいですっ」
見透かされてたので、諦めて素直な気持ちを伝える。
「健全な甘い夫婦生活を望んだ結果、おかえりなさいのキスと抱擁なんですね?」
そ、そうさ!
何か文句あるかねっ!
っていうか、甘いとか勝手に付け足してるし!
嬉しそうにふふふ、とルシアンは笑った。
「貴女が、私との夫婦生活をより良いものにしてくれようとしている事が、堪らなく嬉しい」
恥ずかしい台詞をストレートにかましてきますね?!
「それは当然ですわ。私との結婚生活でルシアンに幸せになっていただきたいですし」
ルシアンは口元を手で覆った。
アレ?変な事言った?
「ミチルはどうしてそう、無意識に私を煽るんですか?」
「無意識なんで分かりません?」
っていうか、ルシアンに幸せになって欲しいって言っただけなのに!
「そんな悪い子には、お仕置きが必須ですよ?」
「えぇっ?!そんなの嫌ですっ!」
カウチに押し倒される。
ルシアンのキスが顔のあちこちに落ちてくる。
やだーーっ!
「お仕置きされるなら、もうおかえりなさいのキスも抱擁もしませんっ」
ピタッ、とルシアンの動きが止まった。
「それとこれは、話が違うのでは?」
そう言ってまたルシアンのキス攻撃が始まった。それを必死に抵抗していたら、あっさりと両手首を掴まれる。
「違わなくないですっ!破廉恥過ぎるのは嫌なのですっ!
ルシアンのお仕置きはいつも破廉恥ですもの!それを回避したいのにーっ!」
必死に訴えているのに、ルシアンは困ったように微笑む。
「ミチル、可愛いすぎます。じゃあ、お仕置きではなく、夫からの愛という事で」
ルシアンが口元に笑みを浮かべて言った。
「健全で、甘い夫婦生活でしょう?ミチルのお望みの」
きゃーーーーっ!!
どっちにしろそうなるなんて詐欺だっ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます