012.皇都観光という名のデートその1
今日は皇都観光です!
動きやすいようにワンピースを着ております。
いつもドレスなので、ワンピースは久々で、コルセットも緩めだし、快適。
今日のワンピースはロシェル様が作って下さったデザインのもので、ベースは白(汚せない!)で、デザインも大変シンプルなんだけど、袖に膨らみを持たせつつ、それを肘のあたりで絞っており、その絞ったリボンは敢えて垂らしているので、風が吹いたり、私が動くと揺れるようになっている。これは緑色のリボン。
ワンピースの長さは前後で違ってて、前側は膝上ぐらいまでなんだけど、そこにフリル(全部緑!)が何層にも重ねられているから、実際は膝下まで隠れる感じ。後ろ側は膝裏側まで長さがある分、フリルはそこまで多くない。タイツにロングブーツを履くと、足は当然見えないので安心。
これもまた、風が吹くとスカートの後ろがたなびくというのか、動きのあるデザインというのか。
襟はスクエアカットになっているので、ルシアンにプレゼントされた錠前のチョーカーを付けました。これはリュドミラの趣味ですね、はい。
うっかり一人になった時、首にこういうのを付けてる淑女は既に誰かの物である、とぱっと見で分かりやすくしておいた方がいいですから、といい笑顔で言ってた。さすが元伯爵令嬢。そのへん抜かりないです。
髪は細かい三つ編みが沢山編まれて、それを後ろで一つにまとめて、一つの輪のようにして、結い上げる。彼女の手は魔法の手ですね、間違いない。
それからリボンやフリルと同じ色のカクテルハットをかぶり、ネットレースで顔の上半分を隠す。
いやー…みんな本当に、凄いよね。このおしゃれに賭ける情熱が。
この格好になった私を見て、意外な事にイーギスが歓喜していた。どうやら彼女は可愛い格好が好きらしい。でも自分は騎士だし、自分が着るより人が着てるのを見る方が好きなタイプらしい。
それ分かるわー。私も可愛い女の子を見てる方が、自分が着飾るより好きなタイプだったし。でも今回はその逆で、着せられる人生です。
馬車の中、ルシアンのお膝の上に座っています。隣にはセラ。正面にはフィオニア、その隣にイーギス。馬車の外、御者の隣にアメリア。
つまり、1台の馬車で行く為に、人員の関係で私はルシアンのお膝の上っていう。いや、それらしい事言ってるけど、ルシアンの希望でしょ、コレ。どう考えても。
「今日のデザインはロシェル様の物ですね。母のとはまた違って、とてもミチルによく似合ってます」
ルシアンは私の手の甲にキスをした。
そう言うルシアンはグルジアのチョハのような服装です。貴族らしい服装はあんまりしないルシアンです。
宮廷服とかも超カッコいいんだけど、チョハも捨てがたい程カッコいいです。
今日のチョハは襟の無い白いシャツに、胸元がざっくり空いて、膝上ぐらいまでの長さのあるベスト。同じように襟のないコートを着てる。ベストとコートは緑。黒のズボンに、編み上げブーツは黒。
カッコいいな、おい!
皇都のメインストリートまでは馬車で来て、そこから先は徒歩。
私とルシアンの前にはイーギスとアメリアが歩く。後ろはセラとフィオニア。
ばっちり挟まれて、警備?は十分です!
イーギスとアメリアはアルト家からの護衛用のお仕着せを着ているのだけど、これがまたカッコいいのだ。
男性の場合はチャコールグレイを基調としていて、コートは長めだけど、動きやすいようにスリットが入っている。しかもそのスリットの間から別の色の布地が見えて、挿し色というのか、白の布地が見える。
女性の場合は基調の色が白で、スリットの挿し色がチャコールグレイになってる。
クラヴァットとシャツは白で、襟にアルト家の紋章が入っているので、アルト家の護衛だな、と見る人が見れば分かる。
お仕着せなのに随分デザインがいいなと思っていたら、お義母様渾身のデザインらしい。なんだあの人、ロリータ以外もやれるんだ…と思ったのはここだけの秘密だ。
ルシアンが腕を組もうとしてきたのを、そっと拒否する。
ん?という顔をするルシアンの手を握る。指を絡めるように。要するに!恋人つなぎって奴ですよ!
ふふ、とルシアンは微笑むと、私の頬にキスをする。
「昨日の続きですか?」
「これは、恋人がする手のつなぎ方なのです。普通のつなぎ方より、熱愛なつなぎ方なのです」
なるほど、と言ってルシアンはつないだ私の手にキスをした。
「そうそう、ここでは別の名で呼びましょう」
あ、もしかしてルシアン、皇都でも有名なのね?
色んな人からあのアルト伯爵の妻うんぬんって言われたもんね。
「じゃあ、私の事はレイ、と呼んで下さいませ。私はルーシーとお呼びしますわね」
一般的には、リュリュとか、ルルとか、シアンなんだけどね。何となく頭に浮かんだのがルーシーだったので。女名とか気にしないぜー。
「レイ」
「はい、ルーシー」
「なんだかちょっと新鮮ですね」
ルシアンが微笑む。
「そうですわね。私も、お祖父様とお祖母様以外に、レイと呼ばれた事がありませんでしたから」
ミチル・レイ・アレクサンドリア・アルトの”レイ”は、祖父母が付けた名で、祖父母はいつも私をレイと呼んだ。
実はまだご存命の筈なのだが、今頃お元気だろうか。
「ミチルの祖父母というのは、先々代のアルト伯爵ですか?」
「そうです。私が幼い頃にお祖母様と旅に出てしまわれたので、それから会ってないのです。
何と申し上げればいいのかしら。お二人とも殺しても死ななさそうな方達なので、突然ひょっこり帰って来そうな気はします」
「殺しても死なない、って随分な表現ですね」
うん、祖父母を表現するのに大分不適切である事は認めるけど、本当にそういう人達なんだよね。
「いつかルシアンにも会っていただきたいですわ。私の夫です、って。
お会いすれば私の表現が誇張で無い事がお分かりいただけると思いますわ」
まじまじとルシアンは私の顔を見ると、頬を撫でる。
ん?どうかした?
「ミチルは、祖父母の事は不快には思ってないのですね?」
あぁ、そういう事か。
両親や兄姉の事は毛嫌いしてるもんね、私。
「祖父は騎士団に所属していただけあって、脳筋…いえ、色々と直球な方でしたけれど、悪い人ではありませんでしたから。祖母はふわふわした方ですわ。何故あの二人から父のような愚物が…いえ。
あのお二人は私の事をとても可愛がって下さったので、良い思い出です」
なるほど、とルシアンは頷いた。
「覚えておきます」
「ありがとうございます?」
覚える?祖父母の事を?
「さ、行きましょう」
歩いていると、結構見られる。
さて、ここで問題です。
何故こんなに見られるんでしょう?
1.ルシアンがカッコよすぎるから
2.私のワンピースが変わっているから
3.恋人つなぎがこっちでは珍しいから
「4に、ミチルが可愛いからを追加しておいて下さい」
しれっとルシアンが言ってくる。
「心を読まないで下さい!」
「ほら、ミチル、あそこに美味しい果実水のお店がありますよ」
フルーツジュース?珍しいね?
ルシアンに手を引かれ、お店の前に行く。
「いらっしゃい!新鮮な果実で作るから美味しいよ!」
どれが良いですか?とルシアンが聞いてくる。聞きついでにこめかみにキスするの止めたまえ。
メニューを見る。手書きだ。
そりゃそうか。その日によって果物も変わるもんね。
えーと、グレープフルーツに、オレンジに、キウイフルーツとスターフルーツか。スターフルーツとか珍しいなぁ。前世ではあんまり日常的になかったよ。
単体だと飽きそうだよねー。味に。
「複数の果物を混ぜていただく事は可能ですか?」
「あ、あぁ、出来るけど」
「では、オレンジとグレープフルーツとスターフルーツで作っていただけますか?」
店員さんはちら、とルシアンを見る。
「それで」とルシアンが頷くと、観念した?のか、肩を竦ませた後、店員さんは作り始めてくれた。
「組み合わせた果実水と言うのは、初めてです」
そうだよねー。朝食もオレンジ単体のジュースだもんね。
「はいよ」
私の前にミックスジュースの入ったカップが差し出される。
さすがプロ。不慣れなミックスジュースでもあっさりと作りますね。素晴らしい。
支払いを済ませ、ひと口飲む。背後で店員さんが見守っているのが分かる。
味が気になるようだ。
うむ。オレンジの甘さがグレープフルーツとスターフルーツの酸味で緩和される。オレンジにも酸味はあるけど、こっちのオレンジって甘さの方が強いんだよね。
「美味しいです。ルーシーもどうですか?」
ルシアンに差し出すと、ひと口飲んで「…飲みやすい」と呟いた。
甘いものがあまり好きではないルシアンは、果物もあまり食べない。フルーツジュースなんて以ての外という感じなので、朝食には私の分のフルーツジュースしか出ない。
「ふふ、でしょう?」
ルシアンは一瞬考えた後、店員さんに同じものをもう1つ頼み、完成したものをセラに渡した。
「あらぁ、なにこれ、飲みやすくて美味しい☆」
どれどれ?と言ってセラの手からカップを奪うフィオニア。
うん、どう見てもカップルですよ、二人とも!
「そんなに美味いんなら、メニューに加えるかなぁ」
店員さんが言った。
「いいと思いますよ。これは甘いのが苦手な方にも受け入れられると思います」とフィオニアが答える。
「お、そりゃあいいや!」
去り際にありがとよ!って声をかけられた。良い事したっぽい。
「レイは、自然と新しい物を生み出しますね」
「そうですか?」
っていうか何故、組み合わせようという発想が湧かないんだ?先入観か?
「あちらでは様々な果物や野菜を組み合わせた飲み物が普通にあるのです」
味の為だったり栄養の為だったり。
気に入ったのか、ルシアンはミックスジュースを何度か私の手から取って飲んでいた。
街並みを見学しながら歩いていると、布を扱っているお店が見えた。
「ルーシー、あのお店に入ってみたいです」
「布の店ですか?」
「はい。珍しい布があったら、お義母様とロシェル様に贈りたいのです」
いつもいつもドレスをいただいてばかりで申し訳ないと思っていたんだよね。どう見てもカーライルでは手に入らない素材とかもあって、そういう生地は仕入れ値も高くなるだろうから。
お店の中に入り、色んな布地を見ていく。
コットン、リネン、ウール、フェルト、シルクの素材で織られた生地。
「あ、これ」
「どれ?」
私が手に取ったのは、シルクオーガンジー。
ウェディングドレスなんかによく使われる生地で、二人が好きな生地だ。でも高価なんだよね。
値段を店員さんに尋ねると、やっぱりカーライル王国で買うより格段に安かったので、定番の色を何色か選んで購入した。
「お二人が喜んで下さると嬉しいのですが」
「レイからの贈り物ですから、それだけで喜びますよ」
発言がイケメン過ぎるよ!
そう言えば、こんな嵩張るものを、デート早々に買ってしまったけど、どうしよう?
「レイちゃん、それ貸して」
セラに布を渡す。セラが持っていてくれるのだろうか?
…と思ったら、そのままフィオニアに持たせていた。
「配送屋に頼むのよ」
どうするんだろうと訝っていた私に、セラが言った。
へー、宅急便?皇都内でなら直ぐに届くだろうし、便利な仕組みだね。
少し進んだ所で、聞き覚えのある声がした。
「おや?」
見るとゼファス様だった。
「ミチ」
「レイです」
ゼファス様はルシアンを見る。
「ルシ」
「ルーシーです」
大きく頷いて、わざとらしく、「レイとルーシーじゃないか。皇都観光でもしてるの?」
「そうです。ゼファ」
「フラウ」
にっこり笑顔で言われた。
お忍びっぽいなとは、見た時から思ってた。
伊達眼鏡して、シャツにリボンタイなんかしちゃって、何処ぞの商人の徒弟みたいな格好してるし。
こういう格好するとより年齢不詳だな、この人。
「フラウ様はお買い物ですか?」
「そんな所。この先にワッフルの美味しい店があるよ」
ワッフル!食べたい!
「ルーシー、私、ワッフル食べたいです」
にっこり微笑むと、行きましょうか、とルシアンは頷いた。
「私も付いて行こうっと」
暇なの?
っていうかデートなのに!
「そう睨むなルーシー。ワッフルを購入したら私も帰る」
「そうして下さい、フラウ様」
3人並んでワッフル屋さんに向かう。
人気のお店らしいけどそんなに並んでなくて良かった。
ワッフルを1つ購入して食べる。
…甘さが物足りない。
ワッフル屋さんでは他にもハニートーストなんかが売っていたので、店員さんにお金を払うのでハニーをちょっと下さいとお願いしてもらい、ワッフルにかけた。
「それ、美味しそうね!ワタシもそれやってみるわ☆」
セラが同じようにワッフルを頼み、ハニーをかけてもらってた。
うむ。良い感じに甘い。
「美味し☆」
「甘そうだが、美味しそうだな。私も同じものを」と言ってゼファス様も頼んだ。
ひと口食べたゼファス様は、「うん、甘い。甘いものを食べるのなら、しっかり甘くないと食べた気がしないから、これぐらいでもいい」と満足げに頷いた。
甘い物が苦手ではあるものの、私が食べているのもあって、ルシアンはひと口だけ食べた。
そして、甘い、とだけ呟いて顔を顰めた。
可愛いすぎる!
「ルーシー、あちらにコーヒースタンドがありますわ」
笑いそうになるのを必死に堪えて、ルシアンの手を引く。
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