010.甘くて危険なお仕置き
またやってしまった…。
アルト家以外の人がいる場所では、学園にいた時のように無表情を務めるようにと言われていたのに、感謝祭のプレゼン資料でオッケーをもらった嬉しさで笑顔になってしまい、ルシアンに校舎裏という名の自室に呼び出しをくらった訳です。
「あれほど、駄目だと言ったでしょう?」
カウチに座るルシアンのお膝の上、頰にキス、甘い声…とても叱られている気分にはならない。
いや、でもルシアンの事だからこの後、お仕置きが待ってるのかも知れない…あわわわわわ。
「申し訳ありません…私、不器用なので、使い分けが上手に出来ないのです…」
常に微笑まない、ならなんとかやれても、アルト家や身内の前では平気だけど、そうじゃない状況では駄目、っていうのがどうも出来ない。
己の頰を押さえる。顔筋のコントロール難しい…。
「ルシアン、それほど私の笑顔は駄目なのでしょうか?」
「いえ、とてもとても、可愛い笑顔ですよ?」
そう言ってルシアンはキスをする。
?!
とても2回言われた?!
しれっとキスまで?!
「え?では、何故皆さまの前で無表情でいなくてはいけないのですか?」
「とても可愛いからです」
「……………」
可愛いから無表情でいろ?
え?
「もしかして、ルシアン」
ふふ、とルシアンは微笑む。
「ミチルに懸想し、私に消される人間が出たら、ミチルも嫌でしょう?」
消す?!
今凄い自然に消すって言ったけど、その消すって、この世からの抹消の消すですよね?!
「そんな奇特な方はルシアンぐらいです」
ルシアンに頰をむにっと引っ張られた。
「いひゃいれふ」
「つい先日、アドルガッサーの王太子がミチルに一目惚れした事を忘れたのですか?」
それっぽかっただけで、本当に一目惚れしたかどうかなんて分からないのに?!
「懸想でなくとも、劣情を抱く事もあります。むしろこっちの方が厄介だと言う話をセラともしたでしょう?
彼らには一時の刺激でも、ミチルは嫌でしょう?」
「絶対に嫌です」
恐ろしい…!
犯罪ですよ、犯罪!
極刑に処したい!
「そうでしょう?ですから、絶対に笑ってはいけない、としておくぐらいで丁度良いと考えています」
確かに…。
私、不器用だからそれぐらいのトーンでやって、丁度良さそう…。
正直、このつるんぺたんな身体に欲情する物好きなんていな…奇特なルシアンぐらいだと思われますが、そうそういないとは思うものの、世の中にはロリコンなんていう人種もいるし、ロリータ服が似合うらしい私は、もしかしたらそのテのど変態のターゲットになる可能性もなきにしもあらず…。
夜会なんかではお酒も飲む訳だし、素面の時なら何とも思わなくても、酔った効果かなんかでそういう目で見られるとかもあるかもだし。前世でも、セクハラの大半は酒の席だもんね。
笑顔向けて、コイツ、オレに気がある?とか思われても困る!って言うか絶対嫌!
願望を実現させようとするロリコンと、性犯罪者はまるっと滅ぶべし!
はぁ…貴族社会怖い…。
能面被って生活したいよ…。
もしくは引きこもりたい。
ルシアンの手が私の頰を撫でる。
「大丈夫ですよ。ミチルにそんな事をする輩は全て抹殺しますから」
不穏!
…とは思うものの、守ると言ってもらえるのはとても嬉しくて、ホッとする。
ルシアンの肩に頭をのせると、ルシアンがおでこにキスをした。
「お仕置きをしないといけませんね」
…え?
「何もなければミチルの気持ちが緩むでしょう?」
いや、だからって、お仕置きだなんて、そんなご無体な!
ルシアン様、お許しを…!
「あの後、ミチルにどんなお仕置きをするのか考えながら作業していたのですが、なかなか順調に進みました。
たまには良いかも知れないと思った程です」
「?!」
ドS?!
逃げたい…でも逃げられる場所もないし、そもそもルシアン様から逃げられる筈もなく。でも逃げたい!!
「まだ試していないネグリジェがありますから、まずそちらを制覇してみますか?」
制覇?!
制覇する程種類があるの?!
「今回はこれにしましょう」
そう言ってルシアンが目の前に広げたネグリジェはまたしてもベビードールタイプ。
って言うか今、何処から出した?!
ポケット?!イケメンの癖にこの破廉恥ネグリジェをポケットに忍ばせていたのか?!
目の前のベビードールは、完全に透けてます。むしろ着る必要あるのか、っていうぐらいにスッケスケなのです。
完全に向う側が見えてる。
ルシアンがよく見えるよ!ネグリジェ越しなのに!
「正直に、どんな顔をしてフィオニアはこういった物を買って来るのだろうとは思いますが、ミチルに似合いそうだから、まぁいいかなと思うことにしました」
「良くありませんっ!」
やだーっ!!
フィオニアを折檻したい!!
江戸時代のあの、石の座布団みたいな奴で!
「ミチルが約束を守れなかったので、仕方なくお仕置きをするんですよ?」
「嫌です!こんなの破廉恥です!」
私の両手首はあっさりとルシアンに掴まれて、逃げられない!
仕方ないですね、と言って私にキスするルシアン。
1ミリも仕方ないとか思ってない癖にーっ!!
「このネグリジェを着て私と過ごす、私にこのネグリジェを着させられる、私を食べて下さる、どれがいいですか?」
究極すぎませんかね?!特に最後が!
そして毎回食べられたがるのは何でなの!
「…ルシアンはいつも選択肢に入れますけれど、そんなに私に食べられたいのですか?」
ルシアンは天使のようなキラッキラした笑顔をした。
うわっ?!初めて見たよ、この笑顔?!
「勿論」
うわああああっ!
天使の微笑みを浮かべた超絶イケメンが、私に食べられたいんだって!
きゅんきゅんしちゃうよね!!
もうこれはあれですね、清水の舞台から飛び降りる気持ちで、襲うしかないよね!
って、そんな事出来るかっ!!
そのまま飛び降りたいわーーーっ!!
「そんなに嫌がらなくても。いつもと同じ事をするだけですよ?ミチルが主導なだけで」
いやいやいやいや!
その主導が私になるから色々無理だっていう話なのに!
「夫婦ですよ?」
夫婦でも!
「無理です!」
ルシアンが色気を滲ませた目で私を見て言った。
「じゃあ、こうしましょう」
嫌な予感!
「私が何をすればいいのか教えるので、ミチルはその言葉通りに動くとか」
いっそ己でやった方が平和な提案ありがとうございます!
「ルシアンを食べるのはナシです!他の2つで!」
悲しそうな顔でルシアンがため息を吐く。悪いことしてるような気持ちにさせるの止めてっ。
「このネグリジェを着て私と過ごすか、私に着させられるか、ですね」
「……その、ルシアンと過ごす、っていうのは、何ですか?」
どうせネグリジェを着たらいつも決まってるのに!!
ふふ、とルシアンが微笑む。
やばい!今度も嫌な予感!
「…知りたいですか?」
「?!」
こ、怖くて聞けぬ!
でも、このネグリジェを着せてもらうのも恐ろしい!
ルシアンと過ごす、っていうのも、聞いてみたらそんなでもないかも知れないし(願望)、ね、念の為聞いてみよう…。
「お、教えて下さいませ…」
良いですよ、とにっこり微笑むと、私の耳元で囁くように過ごし方を淡々と説明していくルシアン。
「全身余す所なく撫で、キスをして、ネグリジェを堪能してから、翌朝までミチルを愛し尽くします。その後は一緒に入浴しましょうね。ミチルの身体は私が清めますから、安心して下さい。
あまりに色んな事を一度に経験してしまうと、次の楽しみがなくなりますから、このぐらいで我慢します」
十分すぎるんじゃないの?!
こっ、混浴?!ルシアンと?!
更に洗われるだと?!
何処が我慢?!全然してない気がするけど?!
「…ルシアンは、アブノーマルなのですね…」
「いえ?」
いや、だって、物凄いキラキラした顔で言うよね?!
「私自身はミチルがこの透けるネグリジェを着ていようがいまいが関係ありませんよ?お仕置きなので、ミチルに恥ずかしい思いをしていただこうと思っているだけです。
恥ずかしがるミチルは可愛いですけどね?」
ど鬼畜!
「本当ですか?」
「本当です」
ふふ、とルシアンは笑った。
「顔が赤い。私の言葉にこんなに動揺して」
可愛い、と言うとキスをする。
「私に見られると思うから恥ずかしいのでしょう?その姿がとても、愛しい」
その通りだけど、誰に見られるのだって嫌だよ、ベビードールは…。
むしろこんな姿、夫とか恋人以外には見せられないよ!
頰にルシアンがキスをする。
「それで、どちらにするか決めましたか?」
…逃げられないのか…どうやっても…。
いつもいつも、ルシアンの罠にはめられているような気がしてならない…。
「き…着せて…下さいませ…」
さすがにまだ!まだ?!混浴は!しかもその上洗ってもらうとか、無理です…!
確かに前世ではカップルで混浴とかもあったけどね?!
うっとりした顔で、ルシアンは私に、何度も角度を変えてキスをする。
「着せた後は、愛して差し上げますね」
「?!話がちが」
喋り終わる前にキスされて言葉を遮られる。
「ミチルがネグリジェを着たら、たっぷり愛すると心に決めているので」
きゃーーーーーーっ!!
「夜会のお誘い?」
皇室の封蝋の押された封筒を持ち、セラが言った。
「そうよ。皇室は3ヶ月に1度は夜会を開くの」
皇女殿下のお相手探しとかの意味合いもあったりするんだろうか?
でも皇太子のお相手をフィーリングだけで決める訳にはいかないから、そういうのではないんだろうな。
「それで、ルシアン様がミチルちゃんに新しいドレスを作るとおっしゃってるから、今日は登城しないわ」
お義母様やロシェル様デザインのドレスがあるのにな?
「お二人のデザインのドレスではなく?」
「ルシアン様も、たまにはご自身が贈りたいのだと思うわよ?いつもその役を大奥様に譲ってらっしゃるけど」
なるほど。
皇都にいる時ぐらい、みたいな感じだろうか?
「分かりましたわ」
あ、そうだ。
「セラ、私もルシアンに贈り物がしたいのです。
ルシアンがお使いのクラヴァットのネクタイピンは、婚約時に私が贈った物ですけれど、それ以外をお使いの所を見た事がありませんから。いくつかご用意したいの」
決して貧乏ではないにも関わらず、私があげたネクタイピンしか付けないのだ。
一つは自分で作ってみたいんだけど、最近変成術のしすぎでちょっと疲れているから、デザインだけでも考えて、時間かけて作りたい。
「喜ぶわよ、ルシアン様」
普段使いはシンプルにして、夜会時用のはちょっと意匠の凝ったものにしたいなぁ。
皇都でも有名なデザイナーがわざわざ屋敷に来てくれて、採寸をしていく。
デザイン待ちの令嬢がわんさかいるらしいのに、来てくれるなんて、アルト家が凄いの?
デザイナーのコールダー夫人は、自身がデザインしたドレスを着ており、なんかキャリアウーマン風な雰囲気の人だった。
「皇都でも著名なアルト伯爵夫人のドレスをデザインさせていただけるなんて、光栄ですわ。以前よりサーシス様にお願いさせていただいた甲斐があります」
一体、ルシアンはどれだけ有名なんだ…。
そしてサーシス…セラではなさそうだから、フィオニアと面識がある人なんだね。
「白皙の肌、美しいアッシュブロンド、ホーリーグリーンの瞳。さすが妖精姫ですわね。デザインのし甲斐がありますわ!」
?!
何故この人までそのあだ名を?!
え?誰?この不本意なあだ名を広めた犯人を見つけ出さないと!
皇都だから絶対にモニカでない事は確かだし、ルシアンはそんな事しないし、セラもしないでしょ。
キース先生、お義父様、フィオニア、ゼファス様…全員やりそう!全員まるっと疑わしい!!
でも付き合いから考えてフィオニアが一番怪しい!!
コールダー夫人が去った後は、宝石商が来た。どんなドレスにも合いそうな、今持っているのとは雰囲気の異なる首飾りとイヤリングを選んだ。
…お値段は考えない。考えると血を吐く気がする。
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