008.鳥料理はお好きですか?

ベッドで体育座りして凹んでいた。

ダイニングキッチンだとセラ来ちゃうし、ここでしか存分に凹めない…。


ラトリア様の婚約者のロシェル様といい、セラの婚約者になったオリヴィエ様といい、どういう事なんだ…。

何故そんなに私の見た目に…。


なんなんだろう…何でこんなに同性の逆ハー?いや、ノーマル?なハーレムが展開されているんだろうか?


「何を凹んでるんですか?」


ルシアンの声がドアの方からした。

私が寝室に閉じこもって出て来ないから、呼ばれたのだろうか…。


放っておいていただきたいっス。

ちょっと一人反省会?中なのだ。

何を反省すればいいのかさっぱり分からないけど…。

一人凹み会?

みんなが勝手に私の見た目を気に入って、私の側にいる為に結婚していくのだ。

これって、ラトリア様やセラにとって幸せになるの?


何でみんな、私の見た目を気に入るんだろう。さっぱり分からないよ…。


ルシアンは私の後ろに座ると、背中側から私を抱き締める。

…この体勢、好きだな…。

おなかに腕が回されるのは若干嫌だけど…。若干?いや、結構?

そしておねだりも出来ませんけどね。


「セラの婚約がショックでした?」


「いえ、セラにはいずれどなたかと結婚していただきたいと思っておりました」


あれだけの美貌を子孫に繋げないのは、いかんとは思っていたからね。

でも、セラ本人は誰とも結婚するつもりがなかった。

と、いう事は、今回の事は喜ばしい事なんだろうか…。


セラに恋人とか婚約者が出来たらヤキモチ妬きそうと思ったけど、もはや誰にヤキモチ妬けばいいのか分からん。


「ミチルの側にいる為に二人が婚約した事が嫌だった?」


頷く。


貴族の結婚だから、家同士の繋がりで結婚する事が殆ど。

その中で、妙な動機ではあるものの、自分の意思で婚約を決められた事は良い事だったのかなぁ…。


私もルシアンと結婚出来なかったら、何処ぞの後添えとかになっていたかも知れないし!最悪修道院さ。

そう考えたら、愛がなくても、自分の決めた相手と結婚するのは、ありなのかも。


「何故、皆さん、私の見た目にこれ程執着なさるのでしょうね」


ロシェル様は私に己のデザインした服を着せたいと言い、オリヴィエ様は私を物語の姫に見立てて、守りたいと言うし。


「彼女達にとって理想的な容姿なんでしょうね」


理想的な容姿…エマとリュドミラにより整えられている容姿ですけどね?


「お二人の理想から外れたらどうなるのでしょう」


ルシアンは笑った。


「気にしないでしょう。

ミチル、あの二人は、己の夢を貴女を通して実現しようとしているだけです。

本来、果たされなかった夢を」


オリヴィエ様の夢は完全には叶わない。だって、私は見た目こそ物語の姫とそっくり?でも、姫ではないし。


ロシェル様の夢は己がデザインした服を着せる、だけど、彼女の作る服が似合う人間は少ないようだ。

まぁ、ロリータ系ならばそうであろうと思う。

でも私、成人してるし、既婚だから、ロシェル様が最も着せたいデザインはもう着れないかも知れぬ。


「二人はミチルの気持ちなど気にせず己の為に行動してるのですから、気にしなくていいんですよ?

ロシェル様のデザインしたドレスを着る代わりに、社交を助けていただいて、姫と女騎士の状況をオリヴィエ様は楽しむ代わりに、ミチルを守る。

お互いにとって利があります。何も問題ないでしょう?」


そう言われると、うん、そうだな、という気になってきましたよ。


「ルシアンは凄いですね。私、混乱してしまって、どうしていいのか分からず、一人で凹んでるだけでしたのに」


「ミチルは自分の事に関しては、思考が停滞しがちですからね」


「…お恥ずかしいですわ」


ロシェル様とオリヴィエ様の希望は分かった。次なる問題はセラとラトリア様だ。

私の考えをお見通しのイケメンは、ラトリア様の話を始めた。


「兄上はいずれにしろ誰かと結婚しなくてはならない立場です。ですが2度とも、婚約した相手は兄上のご気性には合わない令嬢でしたから、あのまま結婚しても、兄上は幸せにはならなかったと思います」


そう考えると、ロシェル様はラトリア様の性格に合ってるとは思う。

あの優しいラトリア様には、普通の令嬢は駄目だよねぇ。


「セラはあの外見ですから、色々と苦労をしたと聞いています。侯爵家の嫡子でもありましたし。

姿形ばかりで己を判断され続けていたセラに求婚したのが、セラの外見に最も関心がない女騎士というのが、良かったのかも知れませんね」


王族もそうだけど、持って生まれているとされる人達でも、見えない所に問題を抱えてるものなんだなぁ。


「私は、みんなに幸せになって欲しいです」


私がそう言うと、ふっとルシアンが笑った。


「ミチルは優しいですね」


「優しくありませんわ。だって私、みんなが幸せになって欲しい理由は、自分の為ですもの」


「自分の為?」


「自分だけ幸せだと、妬まれたり、嫌がらせを受けますもの。でも、そのお相手も幸せだったなら、そんな嫌がらせなんてなさらないでしょう?

ですから、私は私の為にみんなに幸せになっていただきたいのです。私の幸せを壊されない為に」


だってホラ、善行を積まねば!!来世に向けて!!


私の言葉は予想外だったらしく、ルシアンが珍しく驚いた顔をする。


「…笑っても、いいですわ」


あまりに何も言われないのでちょっと恥ずかしくて、俯いた所、後ろから強く抱きしめられた。


「…貴女は、本当に…」


「ルシアン?」


頰にキスをされる。くすぐったいよ。

私の頰に、ルシアンは頰をくっつけてきた。


「貴女には永遠に敵わない気がします」




*****




「そろそろお祭りの事を考えない?」


突然ルシアンの執務室に来たゼファス様に連れ出され、皇族専用のサロンにいる。


セラとフィオニア、私とゼファス様の4人でいる。


「感謝祭だっけ?」


そうそう。


「何をするお祭りにしようか?」


春だし、宗教違うけど春はお釈迦様の誕生日があったりもするので、花祭りということでいかがでしょう。


季節の美しい花を教会のマグダレナ女神に捧げると、司教が香油を眉間にぽちっと付けて、一年の無病息災を祈る。

祈り終わった人たちは広場に集まって楽器を弾き、歌を歌って踊る。これは春を喜ぶ歌が良いよね。


子供達にはちょっと贅沢なお菓子を。

大人達はお酒を。持ち寄った料理をみんなで食べて、話して笑って。

そんなお祭りどうでしょう?


基本的に全てのお祭りで飲み食いをする訳です。

お祭りの目的は楽しむ事。みんなと距離を近付ける事。

一体感を味わう事。美味しいものを食べる事。

年に4回しかお祭りはないんだから、めいっぱい楽しんで、ストレスを発散していただきたい!


「楽しそうねぇ」


「みんなで集まって協力すれば、きっと楽しいと思いますわ」


週に一度の集まりで、ハーブティやらハーブクッキーを食べるようになって、重度の中毒者以外は緩和して来ているという。

まだまだ気が抜けない部分もあるだろうけど。

少しずつ、ウィルニア教団の爪痕が消えていくといいな。


「ゼファス様も、皇都を歩かれて、花を振りまかれてはいかがですか?」


パレード用の馬車なんかでも良いかも。


「え?私もやるのか?」


「ゼファス様が、花を振りまく。天上の世界の再現のようですわ」


ゼファス様は、見た目はすこぶる良いからね!

ルシアンと並ぶと天使と魔王みたいな感じで!

どっちも腹黒いけど。


「それはいいかも知れないわね。印象に残るわ」


「嫌だよ、私は、めん」

「働きましょう、ゼファス様!」


面倒くさいと言われる前にかぶせる。

ゼファス様は呆れたように私を見る。


「あのねぇ、ミチル。私は皇族だ。皇族は基本働かないんだよ?」


「え?国民から血税を毟り取っておきながら、働かないのですか?」


なにそれ、サイテー!


「ミチル、顔に出し過ぎている…少し遠慮しなよ。重ね重ね言うけど、私は皇族だからね?普通に不敬だよ?

そもそも、何故私が花をまく必要がある?枢機卿や司教でも良いだろうに」


この人、本当に働きたくないんだな…。


「ゼファス様は天使のようにお美しいですもの。そんな方が花を振りまかれるのです。それだけで幸せな気持ちになれますわ」


「幸せ?」


外見を褒められ慣れてはいるけど、さすがに幸せとは言われた事はなかったようで、若干引いてるゼファス様。


「美しいものを目にすると人は大抵幸せな気持ちになりますわ」


「美しさで言うなら、セラフィナも向いてるだろう」


えぇ?何言ってんですか、聖下。


「だから、顔に出すぎ」


「聖下が変な事ばかりおっしゃるからです。それに、はっきり申し上げないとゼファス様はなし崩しになさろうとしますもの。これぐらいで丁度良いと思っております。

それから、セラをとの事ですが、嫌です。セラは見せ物ではありませんし、嫁入り前なのに変な虫が付いたら大変です」


ぶはっ、とフィオニアが紅茶を吹いた。

セラ、紅茶、溢れてるよ。


婿入りの方が良かった?

あれ?婿には行かないな。えーと、嫁取りか?


「何故私が見せ物になるのは良いんだ。酷くないか?!」


「聖下は、マグダレナ教会の教皇ですから、見せ物になる時も必要ですわ。

セラは駄目ですわ、私の大切な執事ですもの」


「愛されてますね、兄上」


揶揄うように言ったフィオニアに、セラは勝ち誇った顔で当然よ、と答えた。


「理不尽だ」


「何処がですか?とても理に適っていると思います。

ウィルニア教団解体後に、力を付けたマグダレナ教会が、民の為に何もしないとあれば、民から不満が生まれます。

そうならない為にも、皇都で民に寄り添う教会である印象を持たせなければ、ゼファス様の皇族というお立場も相まって、ただの権力集めと認識されるだけですわ」


頭で理解はするものの、なんとなく釈然としないのだろうな、きっと。

皇族なのに人に言われて働かされるのが嫌なのかな?

まったく、諦めの悪い。


「その日は屋敷でお祝いの宴でもしようと思うのですが、ゼファス様、勿論いらっしゃいますよね?」


「は?私?」


「そうですわ。これだけのお祭りを作るのですから、私達も楽しまねば」


少し考え込んだ後、ゼファス様が言った。


「じゃあ、チキン南蛮が食べたい」


待たれよ。

何故そこでチキン南蛮なの?


「前にカーライルのアルト家で食べたチキン南蛮は美味しかった。リオンはレシピ教えてくれないし」


ルシアンの照り焼きといい、似てるな、あの親子。


「勿論、ゼファス様がお召し上がりたいのであれば、用意致しますわ。他にはお召し上がりたいものはございまして?」


セラとフィオニアにも、食べたいもののリクエストを聞く。


「ワタシもチキン南蛮が食べたいわ」


「私は初めて食べます。楽しみです。ルシアン様の好物だと伺っておりますし」


フィオニアも嬉しそうに微笑んだ。

そう言えば滅多にうちに来ないよね。


そうか!感謝祭なんだし!鳥料理の日にしよう!

ターキー!鳥の丸焼き!北京ダック?


「鳥料理の日にしましょう!秋には豚などを食べるので、春は鳥を!」


「一番ミチルが楽しそうに見える」


そうかな?

単純に食べ物の事しか考えてなかったんだけどね、今は。


「出店なども出させてはいかがですか?」


「出店は何かと問題になりやすいから、キースが許可を出さないんじゃないかな」


問題?ショバ代払え的な?


「出店者によって、店の大きさが違っていたり、まぁ、色々とあるんだよ。この前の立太子式典の時も大変だったみたいだよ?

出店を管理する部署がないし、そもそもそんな余裕、忙しすぎてないだろう?」


なるほどなるほど。

では、こんなのはどうかな。


皇都にもこの春からギルドが設立された。各国にもギルドが設置されていると聞く。

商人ギルドが皇室から許可を取り、皇都のストリートの区画整理をし、出店は申請ベースでのみ受け付ける。ちなみに出店料を払う必要あり。

ただし、払ってもらったら、ギルドがきっちり見回りをして、問題解決に尽力する。

ギルドが黒字になりすぎないように、出店の店舗設備はギルドが負担する。

全ての祭りでギルドが管理すれば、皇室は煩わされる事もないし、ギルドも存在意義を発揮出来るし、いいのでは?


「面白い事を考えるね」


ゼファス様は楽しそうに言うと、私が持ってきたエクレアを口にする。


「あちらでも、出店は何かと問題を抱えておりましたから。その対策方法をお伝えしただけですわ」


問題は、キース先生がオッケーを出してくれるかどうか。

まずはルシアンに相談だ!

宴の事もそうだし!

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