009.ヒロイン登場!
ぐだぐだと考えている内に中学校を卒業した。
今思うと、本当に、無駄にぐちゃぐちゃ考えていた。
なんだろう?思春期?
今はなんだかすっきり、とまではいかないまでも、諦めというかなんというか。
もう、なるようになるだろうっていう思い。っていうか、なるようにしかならないというか…ハハ…。
自分の選択肢があまりにもないことも、あの迷いの原因だったとは思うけど、それにしてはぐだぐだした。
ルシアンのことを好きになれればよし。ルシアンと結婚するならばそれで良し。
王子たちのことは、考えないことにしている。ルシアンがうんぬんじゃなくて、ヒロインのことを思い出してしまうからだ。
無意識に線引きしてるんだと思う。まぁ、悪役令嬢認定されてしまったら破滅しか待ってないんだから、当たり前だ。
その点、ルシアンは攻略対象じゃない…筈。
え…?ないよね…?
良くも悪くも、ゲーム内のストーリーは高校から始まるのだ。
遂に、始まってしまうと言っていい。
事前知識もないのも相まって、私はほぼほぼノー準備で決戦に向かう訳ですよ、ハイ。
エマに見送られ、これまでとは違う、高校の校舎に向かう。
高校と言っても、ほとんど面子は変わらないから、目新しさはない。
ヒロインが現れることを知っている、私以外は。
クラス替えは毎年なので、自分がどのクラスになったのかを見に行く。
「ミチル様。」
声のする方を見ると、エミリアだった。
中学まではツインテールにしていたけれど、今日はポニーテールにしている。高校生になったからだろうか。ツインテールに比べると大人びて見える。
「ごきげんよう、エミリア様。エミリア様は何組でした?」
「私はA組でした。ミチル様とは違うみたいですわ。残念です。」
「本当、残念ですわ。」
知ってる人がいるといいんだけど…そう思ってB組のリストを見ると、あ、あった。
知ってる人はいるかなー…あ、モニカがいた。良かったー!
王子とジェラルドは相変わらず同じクラスで、C組みたい。
さすがご学友!
ヒロインが入ってくるのが分かっているから、別のクラスになれてちょっとほっとしている自分がいる。
モニカは不満だろうけど。
少し離れた場所がざわついている。なんだろう?
見ると、女子たちが頬を赤らめて一点を見ている。
「?」
誰かいるんだろうか?王子たち?
そちらの方に目を向けた瞬間、どきり、とした。
見たこともない顔の人がいたからだ。
黒髪で、長身の、イケメン!!!
え、あんなイケメン、同学年にいたっけ?あ、上の学年?え?でもそうしたら中学の時に見かけている筈だよね?
記憶の中にあるのではと必死に思い出そうとしていたら、そのイケメンと目があったような、気がした。
ちょっと自意識過剰か。
イケメンはこちらの方に向かって歩いて来る。
皆、彼を見ている。皆、自然と道を譲って、彼はまっすぐにこっちに来る。
そして、私の前で立ち止まり、笑顔になった。
ええっ?!何で?!
っていうか笑った顔もステキすぎる。金色の目なんだ、この人。不思議だ。なんか、見透かされそう。
「ミチル様。」
低く、よく通る声。こんな声で耳元で囁かれたら3回ぐらい昇天しそ…って今、私の名前呼んだ?!
「?!」
くすくすと楽しそうに笑う彼を見て、周囲の女子がきゃーっと黄色い声をあげる。
え、え、何で私の名前知ってるの?!私の知ってる人?!
「僕です、ルシアンです。」
「!?」
「本当に驚きましたわ…。」
と、言うのはモニカ。えぇ、同感です。
「まさかルシアン様があんな風に成長なさるとは…と申しますか、眼鏡を外した顔を初めて見ましたわ。」
えぇ、同感です。
あんなイケメンだったなんて…!!聞いてない!聞いてないよ!!
ルシアンは王子と同じクラスだ。
もし同じクラスにいたら、気持ちが落ち着かなくてたまらないから、いてくれなくて良かった。
「婚約者がお戻りになられた割に、あまり嬉しそうではありませんわね?」
「…流石に別人過ぎて、受け入れるのに時間を要します…。」
うんうん、とモニカは頷いた。
「本来は高校も皇都でということだったようですが、飛び級をしてこちらにお戻りになったそうですわよ?本当に優秀な方ですわ。」
えぇ…。
イケメンで頭も良くて家柄も良くて…ちょっと私に不釣り合い過ぎない?
あ、でも運動とか…。
「乗馬もお得意で、剣術大会でも優勝なされたと言うことですから、向かうところ敵なしですわね。」
う、運動までパーフェクトだなんて…私の知る可愛いルシアンはいないのね…。
もしかしなくても、私は敵だらけなんじゃないの?!
大丈夫なの?!私!!
ヒロインだけでも不安しかないのに、新たな不安要素が!!
「今は、ルシアン様の婚約者がミチル様だということがもの凄い早さで広まっておりますわ。」
ひいぃぃ!
高校入学初日にして、命の危機!
「ところで、平民の方がご入学されたようで、その指導役にルシアン様が任命されたようですわ。」
「え!」
ヒロインがこんな形で出て来るなんて!
しかも、指導役がルシアン?!
そ、そんな!ルシアン、ヒロインのこと好きになるんじゃ?!
血の気が引いていく。
王子とジェラルドに近付かないようにしてたのに、どうしてヒロインがルシアンに近付くのよー!
あああ、これでルシアンがヒロインに惚れて私を捨てる為にその完璧な頭脳を使って私を陥れるんですね、分かります。
私の人生、オワタ…。
午前の授業が、知らぬ間に終わっていたようだ。
「ミチル様。」
名前を呼ばれて顔を上げると、ルシアンと、ピンクブロンドの美少女が立っている。
ヒロイン!!
超可愛い!なんだこれ!同じ生き物と思えないよ?!
顔ちっさ!色しっろ!華奢!足首ほそ!
勝てない!これは勝てません!
だって私、ランニングと乗馬でそれなりに筋肉質!
女子にあるまじきデブからソフトマッチョですよ!
そして、ルシアン、カッコいい。
困ったような顔もカッコいいよ!
ヒロインもそう思ってるんだろうな、チラチラとルシアンを見てる。頰もちょっと赤いし…。
「本当はランチにお誘いしたかったのですが、今日は彼女を案内するので、明日からご一緒させていただけませんか?」
ヒロインは、いいこと思いついたとばかりに、手を叩いた。
さすがヒロイン!可愛い仕草が板についてます!
「明日から、3人でランチすればいいのでは?」
?!
えっ、まさかのヒロインとランチ?!
関わりたくないのに?!
「ご遠慮下さい。」
一気に周囲の空気が氷点下に下がるような冷たい眼差しで、ルシアンはヒロインを見て言った。
ヒロインはびくっと身体を強張らせた。
「既にお聞き及びかも知れませんが、ミチル様と私は婚約者です。その間に割って入るおつもりですか?」
肩をすくませると、申し訳ありません、とヒロインは素直に謝罪した。
「私は先生からの依頼で指導担当を請け負いますが、お昼休みはプライベートな時間です。その時間までは私に干渉しないで下さい。」
美形が怒ると怖いね。
自分が言われてないのに肝が冷えます。
ルシアンは私の方を向いた。表情は柔らかい。
やばい、この温度差、きゅんとしてしまう。
「ではまた、ミチル様。」
「あ、はい…。」
私が殆ど話す間もなく、話すだけ話して二人は教室から消えた。
「ルシアン様ったら、結構厳しい方なんですのね。」
と、言いながら何やら嬉しそうにしながらモニカが近付いてきた。
何で嬉しそう?
「今の方が平民から入学された方ですわ。キャロル様だったかしら。」
知ってるけど、知らない振りをして、なるほど、と頷いてみる。
「あの方、既に噂になっておりますわ。」
え?噂?
あぁ、超可愛いもんね!
「私たち貴族と平民とでは、距離感が違うのでしょうね。皆さまのお言葉を借りると、節操なく男性に色目を使う、と言われてますわ。」
うわぁ…。いきなりえげつないな、その評判。
でも、さっきの一瞬でもそれはちょっと分かった。
「先程も、ミチル様とルシアン様のランチに混ざろうとなさってましたし、平民の方とは、マナーというものが違うのでしょうね、きっと。」
それもあるとは思うけど、彼女はあの美貌に、ヒロインという唯一無二の肩書きを持つ。
これまでの人生で、思うようにならなかったことが、なかったんじゃないかな。
あの、名案!とばかりの表情を見て、そう思った。
うっかりとかそう言うのじゃなくて、配慮を学んだことがない感じだ。
頭も良く運動神経も抜群、とキャラ説明に書いてあったし、挫折とか知らなさそう。
「ところでミチル様、今日はお一人のようですし、ランチご一緒しませんこと?」
「本当ですか?ありがとうございます、モニカ様。」
私とモニカは連れ立って食堂に向かった。
食堂でランチプレートを食べていたところ、王子とジェラルドが何故か私たちのテーブルに座った。
「大丈夫か?ミチル嬢。」
ジェラルドが心配そうに聞いてきた。
へ?
「色々と噂になってますからね。」
王子が困ったような笑顔で言う。
あぁ、私とルシアンの婚約とか、そういうことだろうか?
「まぁ、ルシアンの方は何とも思ってないのが丸わかりだが、さすがにあぁも露骨だと、品がないな。」
そう言ってジェラルドが見た先に私も視線を向けると、ルシアンとキャロルが二人でランチをしていた。
可愛い笑顔で一生懸命話しかけるキャロルに、視線を合わせることもなく、黙々と食べているルシアン。
「あのキャロルとかいう娘、男子側でもあまり評判が良くないぞ、初日で既に。」
女性からは嫌われそうだが、男子からも評判が良くないとは、驚いた。予想外だ。
あの美貌に誑かされないのか?
「え、そうなのですか?」
呆れたような顔でジェラルドが、そりゃ、男子にしか話しかけないんだから、色目を使ってると言われても仕方がないだろ、と教えてくれた。
「節操がないですわね…。」
ため息を吐きながらモニカが答える。
そういえば乙女ゲームの主人公って、大体、女友達いないよね。
攻略していかないといけないから、友情より愛情なのかも知れないけど。
っていうかそんな選択肢ないし。
うん、側から見ると、純然たる男好きですね。人によってはビッチと表現するかも知れぬ。
ほほぅ、これは中の人ならではの視点だなー。
中々に興味深い。
「それにしても、ルシアンがあんな奴だとは思わなかった。」
「本当に…。」
参った、と言わんばかりの王子たちの様子に、私とモニカは首を傾げた。
「何かあったのですか?」
「いや…ちょっとな…。」
それ以上は何も教えてくれそうにないので、諦めることにした。
二人とも、心なしか顔が引きつっていたし…。
ランチを食べ終わったので、図書室にやって来た。
3人はそれぞれ用事があるらしく、別行動だ。
高校の図書室はどんな蔵書なんだろうな。
魔力の本とか、読んだことないのがあるといいな。
えーと、魔力、魔力っと…。
あ、これなんてどうかな…。
本を取ろうとしたら、身長が足りなくて手が届かない。
うーん…こういう時、大概、梯子のようなものがある筈。
周囲を見渡してみるものの、それらしいものが見当たらない。
仕方ない。頑張って手を伸ばして取ってみよう。
背伸びをしながら本に手を伸ばしていたところ、誰かの手が本を手に取った。
「!」
振り向くと、ルシアンが本を手に微笑んでいた。
「はい、どうぞ。」
「あっ、ありがとうございます…。」
手を伸ばしてた間抜けな所、見られてたってことか!
これで駄目ならジャンプしようと思ってたけど、しなくて良かった!
ルシアンから本を受け取ったはいいが、次の言葉が見当たらない。
背、凄い伸びたんだなぁ、ルシアン。
前は私とそんなに変わらなかったのに。
「わぁーっ!凄い本の量ですね!」
ルシアンの背後から、天真爛漫な声が上がった。
あぁ、キャロル…。
ルシアンは目を細め、ため息を吐くと振り返ってキャロルに言った。
「ここは図書室ですから、静かにして下さい。それから、私にくっついてる必要はありません。お好きな所に行って結構ですよ。」
ばつの悪そうな顔をしているキャロルを見て、なんか分かった。
多分、キャロルもそれは分かってて、思わず声が出てしまった感を、あえて出したのだと思う。
この子、結構あざといな。
「あ、あの、私も本を見てもいいですか?」
どうぞ、とだけルシアンは答えると、私を促して先ほどの本の貸し出しを受け、図書室を出た。
キャロルが後ろから、ま、待って!と声を上げたが、ルシアンにより、本を見たいのでしょう?ごゆっくり、と、ばっさり切り捨てられていた。
うわぁ。
ルシアンの手厳しさもさることながら、キャロルも大概だな。
なんか、ルシアンとは相性悪そうだ。
っていうか、ルシアンは既に嫌ってそうに見える。
「申し訳ありません、ミチル様、連れ出してしまって。」
困ったような顔のルシアンが、私の顔を覗き込む。
ちょ、近い近い。
「い、いいえ、大丈夫ですわ。」
思わず俯く。
やばいやばい、か、顔が熱くなるのが分かる。
うあー!
こんな超イケメンとの至近距離なんて、経験したことないよー!
前世での経験不足がこんな形で!!
「ミチル様?顔が赤いですが、熱でも?」
失礼します、と言ってルシアンが私のおでこに触れる。
「!!」
うひゃあああああああ!!!
い、イケメンにおでこ触られてしまったああああ!!!
駄目だ、死ぬ。
心臓が破裂する。
衛生兵!衛生兵を呼んでくれ!!
「大丈夫ですか?」
更に顔を近づけて目を覗き込んでくる。
く…っ、殺せ!
っていうか鼻血出そう。死んでしまう!
いやむしろ死んで楽になりたい!
ルシアンの目が笑ってる。
!こ、こやつ…!私の反応で遊んでるな?!
「…っ、ルシアン様、私のこと、からかってますね?」
ふふっ、とルシアンは笑う。
やべー!カッコ可愛いー!
血圧がーっ!
「だって、ミチル様、前のように話して下さらないから、ちょっとした意趣返しです。」
あああ、メガネ!あの厚底メガネは、ルシアンを守ってたと言うより、私を守っていたのか!
「あまりにルシアン様が別人になってしまって、戸惑ってます!」
戸惑う?と聞き返しながら、ルシアンは私の髪を一房手に取ると、髪に口付けた。
ひぃっ!
「そ、そういうことも、以前はなさ、なさらなかったですし…!」
ああもう、顔が熱い!なんか涙出てきた!
これ、きっと、知恵熱出る!
「以前は婚約者でも何でもありませんでしたから。」
そ、そうか。確かにな。
でも、そうしたかったですよ?といい笑顔で言われてしまって、私の心臓は更に大きく早鐘をうつ。
そうしたかっただなんて、そんな、それって、私のこと好きって、好きってこと?!
「ルシアン様が、こんな方だったなんて…。」
「嫌いになりました?」
「いや、そんなことは…っ。」
ルシアンは甘えるような声で、「じゃあ、好き?」
「!!!」
も、もう、無理…!
次の瞬間、全身の力が抜け、意識を失ってしまった。
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