第3章 思い描く理想の未来
第58話 議員の一人娘
ユイルは息子に朝食を食べさせると、彼を連れてホテルへと向かった。借りた一室はここ一週程度間滞在していた場所で、自分の荷物も置いてある。彼はそれを取りに行き、チェックアウトをした。
ユイルは息子をナミの部屋の前に置いてきた後、ホテルにずっと滞在していた。それは彼の妻である「リアナ」が雇った追手を撒くためである。
(困った人だ……)
ユイルはホテルを出ると大きなため息をついた。
持てる知識を総動員して、何とかナミに会える状況は作り出せたがリアナとの追いかけっこが終わったわけではないのだ。
(彼女を選んでしまった僕が一番悪いわけだけど)
とはいえ、「リアナ」を選んだことに後悔はない。荒れ狂った自分を受け入れるには、あれくらい馬鹿な
「行こうか」
ユイルは、自分の子供の時とそっくりな息子を見て言った。
「どこに?」
聞き返す息子に、彼は微笑んだ。
「素敵なところ」
「それってどこ?」
「まだ秘密」
「ひみつ?」
「行ってみてのお楽しみだからね。それからね、ユイカ」
「なあに?」
「夕飯は、僕らで作らない? ナミを驚かせるの」
父の提案に、ユイカはぱっと表情を明るくさせる。
「面白そう!」
「でしょう。何がいいか考えておいて」
するとユイカは手を挙げてすぐに答えた。
「オムライスがいい!」
「え、もう決めたの?」
息子は満面の笑みを浮かべて頷く。
「うん! ぼく、お父さんが作るオムライスが一番好きだもん!」
「そっか……。じゃあ、オムライスを作ろう」
「うん!」
そしてユイルは息子の手を引いてゆっくりと道を歩いた。
小さな温かな手は、父に対する信頼に満ちていて、ユイルはそれが嬉しくて仕方なかった。
(ユイカをリアナから離さなくては。彼女の子であってはいけない……)
彼はそう思っていた。
ユイルの妻の名は、リアナ・イルクラナスという。
彼より一つ年上の、ルピアの住人である。彼女の血縁者は父親だけで、彼はルピアで議員をしている。
リアナの父は妻を早くに亡くし、男手一人でリアナを育てた立派な人だ。しかし大切な愛娘だったせいが、だいぶ甘やかして育てたようである。リアナは、普段お淑やかで静かな人だが、その内に秘められているものは我がままで、自分に甘く、独占欲が強い、という恐ろしいものだった。
そしてリアナの父親は、彼女の我がままを咎めようとはしない。愛する一人娘のに頼まれれば、いくらでもその我がままにも付き合ってしまうのだ。
今回もリアナの前からユイルたちが消えたとなったとき、彼女は真っ先に父親に相談したようだった。そして彼はお金を使い、探偵を雇ってユイルを探し続けていたのである。
そもそも、何故彼が妻から逃げなければならなかったのかと言えば、リアナがユイルを監禁し続けていたからだ。もちろん、彼にはその理由が分からない。ただ、ユイルが自分の目の前からいなくなることを危惧しているようではあった。
彼は監禁されながら、とにかく外に出たいと願っていた。外に出て自由を得たかった。
そして不自由な生活が続けば続くほど、大切な人に会いたいという気持ちが次第に大きくなっていったのである。
彼はいつ解かれるか分からない監禁状態から脱出するため、数か月前より綿密な計画を練りそれを実行したのである。
そしてユイルが妻の目を盗み家出をして最初に行った先は、ルピアに住むナミの叔父・クレリックの元だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます