第11話 永遠の炎と大洪水

 三人はある程度の準備を済ませ、真打の居る教会もとい神殿へと足を踏み入れる。

 内装は外装と同じく豪華絢爛な装飾が施されており、フレイヤの神殿を彷彿とさせるような黄金が散りばめられている。

 更に神道の横には黄金の燭台が数十個にも陳列しており、蝋燭に灯る火も絶えず燃えている。そして最奥には、松明を掲げ悦んでいる炎と簒奪の神・プロメテウスの像が聳え立っていた。

「ハッ、とんだアホ面だ。盗んたモノを掲げて笑顔でいやがる」

 …炎と簒奪の神・プロメテウス。

 炎の神として君臨した由来——まず、大前提として「炎」は便利だが、危険な存在だ。それ故、最高神ゼウスは「炎」を大切に保管していた。

 しかし、プロメテウスは簒奪欲があり、衝動的に「炎」を盗み、人界の民へ拡散した。その結果、戦争や火災が発生している…というわけだ。

「炎」による影響で天災が起こっているにも関わらず、当の本人は知らぬ存ぜぬの顔をしているときた——。

 その結果、一柱の神として賛美を貪り、怠惰に暮らしている…考えるだけでも腹立たしい存在だ。

「ま、まぁ…神様って自由的な性格の方々が大半ですからね……仕方ないと思いますよ?」

 お人好しというべきか、ミリアはさっきとは打って変わってプロメテウスを擁護する。正直気に喰わないが、事実神の大半が独裁的思想を持っている…仕方ないことなのだろうが、自分の信者の制御ぐらい自分でしてほしいものだ。

 そんな鬱憤を押し留めながら、魔剣ヴァル・ラグナを抜剣する。いざという時の為に少し後ろの方に待機するロア。恐らく、プロメテウスは炎属性の魔法スキルによる遠距離攻撃を仕掛けてくる可能性が高い。

 ミリアはロアと同じ前衛に配置させる。ミリアの職業は《召喚剣士》…一応剣士だ、前衛が二人いれば攻撃は問題ないはずだ。

 更に言えば召喚獣を囮や移動手段、最終兵器としても使用できる…故にロアはミリアを前衛に置いたのだ。

「そんじゃ……リア、”リアラスブレス”をお願いだ」

「…了解……”リアラスブレス”‼」

 リアは『アストラル・テン』を掲げ、神を呼び熾す魔法スキル”リアラスブレス”を発動する。

 刹那――紅蓮の閃光が神殿を覆い尽くし、三人の目を潰す。

 二秒後、ロアが目を開けるとそこには…嘲るような表情で人間ロアたちを見下していた。


『我は炎の神、プロメテウスッ!! 我を呼び熾したのは貴様らか? 愚民ども』


「よぉ、俺はロア・ゲノズィーバ。貴様ら神々の魂を奪うものだ」

 ロアも便乗して自己紹介をする。

 召喚された神…プロメテウスの外見は、まさしく炎のような容姿をしていた。

 紅蓮のロングヘアーと黄金と真紅のオッドアイ、身体に炎の蛇を螺旋状に纏い、服装もまた紅蓮のコートを羽織った男の姿だった。

 そして右手には松明を、左手には燭台を持っている。

『ほう? 人間如きが我の魂を奪うと? 冗談にしては穏やかではないなぁ、フハハハ!!』

「冗談を神に言う時点で無礼だは。俺らは真面目に言ってるんだ、貴様を殺して《魂魄》を手に入れる…だから、死んでもらうんだよ」

 ロアは何の説明もせず、唐突に告げる。プロメテウスは詮索するわけでも無く、再び嘲笑した。

『フハハハハハ!! 我を殺すと? 抜かせド低能。我の永遠に消えぬ魂を…焔を消せるとでも?』

 プロメテウスの煽動に、リアは何か軽蔑するような視線で呟いた。

「……なんか、小物臭い」

「ま、まぁそんなこと言わずに……」

 ミリアがリアを宥め、そしてロアは魔剣ヴァル・ラグナの剣先をプロメテウスの心臓部分に翳し、吼える。

「ま、こんな話続けてても何だ、さっさと戦おうか。炎と簒奪の神・プロメテウスよ」

『ハッ、我を簒奪の神などと唱えるな……! だが、いいだろう。貴様が地を這い、心臓を貫かれ、我が炎で灰燼と化していく様を見るのは愉しそうだ!!』

 プロメテウスは、国や街が破壊されるという可能性など棄て置いて、ロアの言葉に応諾する。

「リアッ!! 俺とミリアに”アテック”と”ディフィア”、”テルミア”を付与してくれ! あと一応解けているだろうから”アクシズアウロラ”も頼む!」

 ロアは早速後衛のリアに指示を下す。いつも通りの防御魔法スキル三連続と、先刻付与してもらった炎属性に絶大な防御力を付与する”アクシズアウロラ”を一応もう一度付与してもらう。

「ミリア、俺は右側をやる。お前は左側に攻撃を仕掛けてくれ!」

「は、はいっ! 任せてください‼」

 ミリアは細剣レイピアを両手で握り、威勢のいい返事をする。ロアは魔剣ヴァル・ラグナを掲げ、贖罪状態サクリファイスを起動する。

 茨が腕に巻き付き、刃が深紅に輝いている――そして、二柱目の神と三人の反逆者の戦いが始まる――!!


  †


「うおおおおおおッ!!」

 先手攻撃を仕掛けたのは、ロアだった。ロアは魔剣ヴァル・ラグナをプロメテウスの右手首に刃を振り翳す。深紅の刃はプロメテウスの右手首をいとも容易く切り裂いた。

 右手首が「ボドッ」という生々しい音と共に床に落下し、同時に松明も落ちてゆく……。プロメテウスは右手首を見て悶絶する。

『ぐわあああああああああッ!! わ、我の右手がぁぁ……』

 先の人間を嘲笑する発言をした神とは到底思えないほどの、不甲斐ない表情にロアは笑いそうになる。――しかし、プロメテウスは口角をニヤリと上げ。

『……フクク、我がそう簡単に倒れるはずもないだろう……? 《輪廻の燈火ウロボロス・フラム》ッ!!』

 刹那、プロメテウスの右手首が炎に包まれ、ものの二秒で完全回復していた。右手の動作確認をし、落下した松明を拾い上げる。

 その炎は、落ちたにも関わらず消えていなかった。

「……っ? お前、何をした? 最大火力を出せる贖罪状態で切ったんだぞ」

『言っただろう? の炎は不朽不滅だと』

 流石に敵に手の内を明かすほど馬鹿ではなかったらしい……プロメテウスはまだ元気なようだが、ロアは贖罪状態というリスクの高い力を使っている。故に体力消費が激しいのだ。

 ロアは跪き、息を荒げていた。

「グッ……!? はぁ、はぁ、はぁ……リア、ミリア、一時的だが…頼む」

「お兄は無茶しすぎ。…あとは私たちに任せておいて」

 リアはロアに近づき、一言そう告げる。

 確信した――このままでは相手の思うつぼだと。ここはプロメテウスの教会もとい神殿…恐らくプロメテウスの力が上昇している可能性がある。

 今度はリアが前衛に立つ。

「…”キュリオス・レイ”‼」

 リアは魔法スキルを発動する。瞬間――海の底の如く暗い藍色の雫が、一滴。

 そして――地に落ち……爆散。


  ヒュゥゥゥンッ――ドゥゥゥゥゥゥゥン!!


 重低音と共に、藍色の結晶体が無数に空間を支配する。その結晶体は壁や地面、天上…あらゆる物質に接触するごとに爆散し、水となる。

 結晶体や水滴は、プロメテウスの身体へと飛んでいき、貫かれる。

『グワッ!?!? な、何だこれ……ッ!? 水ッ?! それも炎属性を無効化する…だと?』

 そう、リアの放った水滴・結晶体は火属性に絶大な効果のある絶炎性の水…「キュリオスの雫」なのだ。

 リアの発動したスキルは、《賢者》スキル”キュリオス・レイ”――「キュリオスの雫」を結晶化、収束させ、一斉に開放する。

「…そう、貴方には効果は絶大…でしょ?」

「す、凄いですっ! リアさん……」

 ミリアは手で口を押えて驚愕していた。此処までの威力の魔法スキルを習得している人間はそういない……《全能魔導士オールティアーズ》というのは、稀代の存在なのだ。

『クッ――ふっ、フハハハハハ!! やるではないか人間ッ!! 我に痛手を負わせた人間は貴様が初めてだ! 此方も本気を出さなければなぁ……』

 プロメテウスは不敵に哄笑する。現在の状況を分かってのことなのか、自暴自棄になってしまったのか、三人には意味不明だった。

 プロメテウスは右手に把持した松明の炎を左手に把持されている燭台へと灯し、そして逆さまに燭台を持つ。

『来たれッ!! 〈虹彩の火焔セプティム〉――紫苑エリュシオンッ!!』

 燭台から、紫紺の焔が噴き出す。

 その焔は何処までも暗く、どす黒い。そんな紫紺の焔を舞わせ、プロメテウスの背後に炎の円環と炎の翼が生成される。

「あ、あれは……?」

 ミリアは呆然としていた。何しろさっきまで負傷していた神が、一瞬で傷を回復させ、不敵な嘲笑を浮かべていたのだから。

の権能…〈虹彩の火焔〉ッ! 七つの焔による超強化! これに敵うというなら、我は頭を下げてやらんでもない』

「へぇ……じゃ、折角だしさ広大な範囲で戦った方が、フェアでしょ……?」

 リアは無関心な声を洩らし、提案を持ち掛ける。

 この神殿ではプロメテウスの力が増幅する…そう考えると広範囲なフィールドで戦闘を行うしかない。街なら建物や路地も多くある…更に言えばプロメテウスの戦闘力も低下する。

 良策だとリアも自負している。

『…フッ、多少我にダメージを与えた程度で調子に乗るな。だが、愚民にも寛容に接するのが我! プロメテウスだ!』

 高慢に語るプロメテウスの態度に、多少癪に障っていた。もしかしたらこんな高慢な神の出端を挫くことが出来るかもしれない。


  †


「ミリア、乗って」

 リアは手に持った『アストラル・テン』に跨り、ミリアに一言。まるで魔女の箒に乗るような感覚だ。

「え……どうするんですか?」

「決まってる――”フィレイリア”」

 リアは詠唱する。瞬間、二人が空中に浮遊し超高速で空へと離陸する。下を見下ろすと、町の建物が霞んで見える。

 …”フィレイリア”。颶風術師の魔法スキルで、飛翔し、更に速度を爆発的に上昇させる中級スキルだ。これならプロメテウスも簡単に翻弄できるだろう。

 しかし、一つの疑問が生まれる――リアは何故、

 ロアは確かに燃費が悪い《極致魔剣士》だ、当然荷物にもなる。しかし、ロアの持つ”遍くは一刀にて潰える”や”遍くは虚無に帰す”を用いれば容易に殺せるはずだ。

 これもまた――リアの策略なのだ。

「これで翻弄しながら魔法を撃ちまくれば…絶対に勝てる……!」

 リアは勝ちを確信した。流石にさっきの”キュリオス・レイ”を撃ちまくると魔力が一気に消費される…故に”キュリオス・レイ”より魔力消費が少なく、威力のある魔法スキルを撃ちこめば、プロメテウスを討つことが出来る。

 ――そう、思っていた。

『フハハハ!! 簡単に勝てると思うな。稚拙過ぎる……《ディスペル・エリュシオン》ッ!!』

 刹那――紫紺の焔が『アストラル・テン』を覆い隠し…墜ちる。途端に”フィレイリア”が解除され、天空から墜ちる。

「「きゃああああああッ!?」」

 二人は絶叫した。もしかしたら死ぬかもしれない、恐怖で視界が真っ暗になる。そんな中、咄嗟にミリアが叫ぶ。

「”サモンズ・ダンテ”! 【天窮の飛竜サルヴェージ・ワイバーン】!!」

 落下する中、魔法陣が展開され召喚されたのは白亜の鱗を持つ巨大な竜だった。その竜は甲高い咆哮を上げて、二人を咄嗟に背中に載せる。

「大丈夫ですか? リアさん」

「ん……ありがとう、ミリア。にしても、凄い判断力だね……」

 鈍感そうなイメージが強いミリアだったが、危険な状況に曝されてもなお冷静に神獣を召喚する判断力…もしかしたら強大な戦力になるかもしれない。

 リアはもう一度”フィレイリア”を発動しようとするも、プロメテウスの紫紺の焔が邪魔をする。

「……ダメ、発動できない。多分、あのバカのせい」

『神を馬鹿などと侮辱するな! それが我の焔だ。痴れ、人間が』

 ――《ディスペル・エリュシオン》…プロメテウスの権能である〈虹彩の火焔〉の一つで、端的に言えば「魔力を封印し、魔法スキルを封じる」というものだ。

 絶対的な戦力である《全能魔導士》のリアの力を封じ込めば、勝つのも容易くなる。

「で、でもリアさんは絶対私が守りますので!」

 ミリアは頼もしい言葉をかける。今のミリアは実に頼もしく、リアもミリアに身を委ねる。ミリアは細剣を構え、追いかけてくるプロメテウスの方へと【天窮の飛竜】を旋回させる。

「”セプタークロイツ”っ!」

 そして細剣を弧を描くように振り回し、ダンスを踊る様に円を描き、剣舞する。斬撃はプロメテウスの左腕と右足の付け根、そして腹に飛ぶ。

 プロメテウスはまるで痛くもかゆくもない表情で癪な嘲笑を浮かべる。流石に剣技スキルだけでダメージを与えられる程甘くはないようだ。

 細剣スキル”セプタークロイツ”。中級クラスの剣技だが、攻撃回数が多い故ダメージの蓄積に特化した汎用性の高いスキルだ。

 更にミリアは攻撃を仕掛ける。

「”エターナルワルツ”!」

【天窮の飛竜】の高度を少し低くして、細剣を乱雑に振ってプロメテウスを翻弄し、胸元を容赦なく九回、突く。更にクルリと螺旋に回り、一気に斬撃を仕掛ける。

 いつも温厚篤実なミリアとは到底思えない豹変ぶりにリアも一瞬驚く。

「凄い……! 《召喚剣士》は伊達じゃない…ってこと?」

 そんなミリアに、プロメテウスも慄いてしまう。

『シィ、あんな小娘に我が圧されている…だと? あの飛竜が邪魔でしょうがない…我も本気を出しておかなければなぁッ‼』

 プロメテウスは燭台の焔に息を吹きかける。すると、焔の色が紫紺から黄金へと変化し、炎の息吹が宙へ舞う。

『〈虹彩の火焔〉……黄金テスタロッサッ‼』

 ミリアが細剣で心臓部を貫こうとしたその瞬間――細剣がひとりでに左側に曲がり、攻撃が当たらなかった。

「え――?」

『フッ、やはり小娘でもこの焔は敵わないか? この黄金の焔は「炎の熱が広がっている範囲内の金属を自動的に変曲させる」というモノだ。これ即ち貴様の攻撃が通じないという事だ!』

 プロメテウスは哄笑した。この焔がある限り、ミリアの攻撃は絶対に当たらない…このままでは圧倒的不利になる。

「そ、そんな……っ! ”オルフィアム”ッ!」

 ミリアは歯噛みしながら無謀な攻撃を仕掛ける。しかし、悉く斬撃が掻き消され刃が全く別方向に向いてしまう。ミリアの右手首も明後日の方向へと曲がり、思わず細剣を落としてしまう。

「うぅ……ッ! このままじゃ……」

 流石にミリアも諦観していた。一粒の涙を頬に伝わせ、そして零れる。その涙は【天窮の飛竜】の背中に零れ落ち、飛竜も「クゥン」と鳴いていた。

 すると、リアが突然ミリアの耳を引っ張り、囁いた。

「まだ諦めるには早いよ、ミリア。ミリアの職業は《召喚剣士》でしょ? まだ武器は残ってるはずだよ?」

 リアのアドバイスにミリアは心揺るがされる。そう、ミリアの職業は《召喚剣士》…召喚スキルと剣技に特化した職業だ。武器を失ってもまだ、もう一つの武器がある! 

「はいっ! 一生懸命頑張りますッ! ”サモンズ・ダンテ”――【大洪水の聖蛇ピュートーン】‼」

 刹那――魔法陣から翡翠と漆黒の色彩を持つ巨大な蛇が出現する。その蛇は、蒼く澄んだ瞳と、朽ち果てた黄金の翼、繊細かつ美しい円環を体中に嵌めた絢爛な見た目をしていた。

《フィシャアアア――――ッ‼‼》

【大洪水の聖蛇】はミリアとリアの乗っている【天窮の飛竜】以上の甲高い咆哮を上げ、円環が翡翠色に輝きだす。

 そして巨大な魔法陣が出現し、段々と展開していく。魔法陣は四重にも重なり――

「やって下さいっ! ”アルドノア・カラミティ”‼」

 ミリアが叫ぶと、【大洪水の聖蛇】の展開した魔法陣から水が滝のように流れ出し、そして流れ落ちた水は空中で留まり槍の形に変形してゆく。

『何だ? それだけの水で我を倒せるとでも?』

「いえ……これからです!」

 プロメテウスの慢心な態度に、ミリアは反論する――刹那、【大洪水の聖蛇】の魔法陣が更に輝きを放ち、蒼穹のような色彩の「何か」が収束しだす。

 そして――。


  バッ――シュウウウウウウウウウウンッ‼‼


 放たれたのは、高密度に収束された強力な水の砲撃…その水は、先の攻撃でリアが発動した魔法スキル”キュリオス・レイ”と同じ、炎属性に対する絶大な効果を齎す「キュリオスの雫」だ。

 プロメテウスは恐れ戦いた。

『ナッ――!?!? 先の小娘の攻撃より遥かに威力の高い「キュリオスの雫」!? 何だあの蛇は……』

 先のリアの”キュリオス・レイ”でも途轍もない威力だったというのに、あの【大洪水の聖蛇】が放った”アルドノア・カラミティ”はその何十倍もの威力を持っている。

 プロメテウスの脳は超高速で稼働していた。あの神獣は何者だ? あんな威力のブレスを発動できる竜はそういない…そう考えているとふと、思い出す。

 人界で起こったノアの大洪水…あれを引き起こした存在を。

 ソレは翡翠と漆黒の巨躯を持ち、円環を纏っていた――その荘厳さは神界最強の魔獣テュポーンに匹敵するほど。

 更にプロメテウスはミリアの言い放った言葉を、今頃になって思い出す。

 ――【大洪水の聖蛇】…ピュートーン、と。

 人界を終焉に導いた神獣の一体にして、「キュリオスの雫」を操り、放つ審判者…プロメテウスは己の死を悟った。

 あんな高威力かつ炎に絶大な効果を齎す炎の神からすれば最悪な攻撃……っもう絶叫するほかなかった。

『ぬわああああああッ‼ こんな場所で、人間に殺されるなんてぇぇぇッ!?!?』

 よくよく考えれば、ここまで崇高な神獣を召喚できる人間はそうそういない…普通の《召喚術師》や《召喚剣士》でも中級程度の神獣が関の山だろう。

 ミリアはやはり、稀代の天才…神に見初められた聖女なのかもしれない…リアは目の前でその光景を見て、そう思った。


 そしてプロメテウスは”アルドノア・カラミティ”によって悉く消滅し、炎の残滓も跡形も無く霧散し、二人は安堵した。

「やっと倒せましたね! リアさん、ありがとうございますっ! 貴女がアドバイスをしてなければ私、諦めてました……」

「……ん、気にしないで。こっちこそ助けてもらったんだから」

 互いに互いを尊重する……絆とはこういう事なのだろう。

 ミリアは最後にプロメテウスの冥福を祈祷し、リアと教会で待つロアの許へ帰ろうとする――。


 すると、空中で火花が散り出す。

 その火花は段々と強まり、蝋燭ほどの焔となり、その焔は身体を、四肢を形成しだし、最終的にさっき倒したはずの炎と簒奪の神・プロメテウスの姿があった。


『フハハハハハ‼ 我を倒したと思ったか? 笑止! …だが、あの【大洪水の聖蛇】のブレスは危うかった。このが無ければ消滅するところだった……』

「そ、そんな……っ!」

「これ……どうしよ」

 二人は不安と恐怖に駆られた。あの圧倒的な攻撃でも倒すことが出来なかった……成すすべなくなったリアとミリアは、息を呑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

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