第10話 煉獄の魔弾

「――魔剣ヴァル・ラグナ、〈天命の樹〉…智慧コクマーッ!!」

 初めに動いたのは、ロア・ゲノズィーバだった。魔剣ヴァル・ラグナを掲げ、詠唱する。

 魔剣ヴァル・ラグナ〈天命の樹〉……文字通り、豊穣の女神フレイヤの固有能力・《天命の樹》を魔剣ヴァル・ラグナの力の一部として扱う進化した魔剣。

 その《天命の樹》のうちの一つ…智慧は”一時的な記憶混濁を発生させ、記憶を簒奪する”というもの——皮肉なものだ。

 簒奪の国・ラルフラムの民に対し「記憶を簒奪する」スキルを行使すると考えると、笑いが込み上げてくるものだ。

 ロアは〈天命の樹〉の智慧を発動するが……アゼルの様子は一切として変化していなかった。

「――フッ、何叫んでんだ? 反逆者。何か細工を仕掛けようとしたのか…無為。僕は状態異常に耐性を持つ正真正銘の神の子なんだッ!」

 …『ディスインペル』。

「状態異常を無効化する」という特殊な遺伝子を保持する稀少な存在。記憶操作や洗脳、幻術スキルも全て無効化する敵にすれば厄介な特性だ。

「へぇ……特殊な奴だな。しかし、お前の職業は恐らく魔弾射手だろ? 不利じゃねーのか?」

 ロアの言葉は、的を射ている。遠距離が近距離に敵うはずもない……アゼルは既に詰んでいるようなもの——。

 そんな圧倒的な状況下、アゼルはなお口角を下ろすことを止めない。

「…そこまで勘付いているんだろう? ならば、僕のこの下がらない口角の理由が解らないはずが無いだろ?」

「何……?」

「――”イヴィリアス”ッ!!」

 刹那、アゼルの姿が霧のように消え去り、気配が無くなる。…ロアは自分の無知さに歯噛みする。忘れていた……遠距離攻撃に特化した「弓使い」系統の職業の身にある専用スキルのことを。

「弓使い」系統の職業の飲みにある専用スキル…”イヴィリアス”。このスキルは魔力の六割を消費して十秒間だけ敵対存在から姿気配を消し去るというもの——。

 これがあるだけ戦闘が厄介になる。魔力消費が大きい代わりに戦闘に対するアドバンテージが生まれるのだ。

「リア、少し大変かも知れないが俺とミリアに”アテック”と”ディフィア”を付与してくれ。ミリアは俺についてきてくれ」

 指示を下していくロア。我ながら適切な指揮だと思える。正直リアは適材適所で全てを熟す天才だ、最低限の指揮で何とかしてくれるはずだ。

 ミリアの召喚スキルは無闇に使うわけにはいかない。もし強力な召喚獣が召喚されれば、街を壊しかねない。恐らく剣技も一般以上だろうから、前衛に回して召喚スキルは最低限使う程度でいいだろう。

「……うし、一応教団の本拠地に出向くとしますかぁ」

「はいっ!」「……りょ」

 二人は威勢よく返事をする。

 敢えて敵の本拠地アジトに赴く理由は——正直説明しなくても解ることだ。

 単純にアゼルの居場所が見当つかないだけである。

 そして、三人は中央に位置する神殿へと踵を返した——。


  †


「やけに小綺麗だな」

 直接的に言えば、大聖堂。黄金と緋色を基調とした豪華絢爛な外観、よく見ると壁や柱に発火性の宝石パイライトが埋め込まれている…流石、焔の神の納められた神殿だけある。

 彩硝子ステンドグラスには、燦然とした炎の翼を生やし、松明と黄金の剣を持った男が映っていた。

「あれが……プロメテウス……?」

 リアが小首を傾げて一人疑問を抱く。その独り言に、ミリアが微笑み真柄返答した。

「そうです。焔を司る神…プロメテウス。かつて、最高神ゼウスが大事に保管しておいた危険な《炎》を世界の解き放った悪辣な神なんです。だから焔と”簒奪”の神と揶揄されているのです」

 この国で窃盗が頻発している理由は、ここにある。――神の下に或る者は、神と同じ業を背負う……所謂、「親と子は似る」と同義ということだ。

 人々は産まれつき窃盗欲が少なからずあり、それ故か窃盗が頻発している…というわけだ。

「はぁ、チッ。この世界の国は何処もヤバい場所しかないのか? 窃盗とか、犯罪大国じゃん……」

 財布を失くした哀惜感に浸りながら溜息を吐く。――すると、空から声が響く。


「悪かったね、犯罪大国で。でも、僕の大好きな国の神を侮辱することは、許さないよ。…さ、僕の従順なしもべたちよ、踊れや騒げ! その者を灰燼と化すまで燃やし尽くせッ!!」

 意味不明な台詞を宣言した天の声――刹那、周囲から喧騒とした足音が鼓膜を襲う。眼前に広がるは、アゼルと同じ真紅のローブを身に纏った人間が無数と立ちはだかり、三人を包囲していた。

「ハッ、姑息な手段を使うなんて…とんだ臆病者だな。まぁいい……リア、ミリア、さっさとこの狂信者どもを片付けるぞ」

 ロアは不敵な笑みを浮かべながら高らかに吼える。教団の奴らも憤慨してか厳戒態勢で武器を構える。

「……任せて、お兄。ミリアも細剣構えて…”アテック””ディフィア””テルミラ”、”アクシズアウロラ”」

 リアは威勢のいい(全く変わらない)返事をして二人に強化魔法スキルを付与し、炎属性に耐性を持つ氷結術師のスキル”アクシズアウロラ”も追加で付与する。

 ミリアもリアの催促に反応し、腰に携えた細剣レイピアを抜き、構える。

「は、はいっ! …”サモンズ・ダンテ”――【威光の天帝竜リンドヴルム】!」

 慌てながら返事をしたミリアは、召喚スキルを行使する。

 …次の瞬間、魔法陣から黄金と白亜の鱗が無数に。そして、白銀の剣のよう鋭利な鉤爪が四本、石畳を崩壊させる。

 魔法陣の奥底から響く金切り声のような高い咆哮は、神殿の彩硝子ステンドグラスを一瞬にして粉砕して見せた。

 魔法陣から出現したのは、黄金の角と白亜の鱗、天使にも近しい美麗で広大な二枚の翼、光輝を宿した左眼と真逆で闇黒を宿した右眼を持った美しくも雄々しい白竜がその荘厳な姿を現した。

【威光の天帝竜】…神界を守護する最強の竜、その牙は遍くを浄化し、天に還すと云われている強力な神獣だ。ロアとリアはミリアの真の力を改めて確認した。

「……ミリア、お前凄いな……。こんな上級の神獣を召喚できるとか…稀代の神童じゃないか?」

「そうだね……流石」

 二人は唖然としながらも、優秀な召喚スキルを持つミリアに称讃の言葉を贈る。

 

 そして、戦闘が開始される——。


  †


「喰らえッ! ”フレア”‼」「”フォルニアス”‼」「”アドラドラグ”っ!」

 教団の連中が、火焔術師のスキルを行使しまくる。火球や炎の剣、夕焼け色に燃え盛る炎の鎖や追尾する炎の蛇を三人に飛ばしてくる。

 街の被害などお構いなしに攻撃をしていく教団の人間ら……ロアは溜息を吐いた。

「はぁ……自分の国を破壊していく狂信者——神を前にすれば罪も厭わないのか?」

「正直、私もこの人たちは擁護できないと思います……罪を正当化しようとするなんて、神がお赦しになるのでしょうか……?」

 聖人であり女神のような性格のミリアすら、この狂信者たちは気に喰わない様子だ。――だが、ロアも教団の人間のやり方には虫唾が走る。

「……この国は環境もいいし、ご飯も美味しいけど……こんな連中がいるって考えると……やっぱり」

 リアも二人と同様な気持ちらしい。三人意見が合致したところで、教団の勢力が魔力切れか攻撃を止める。

「おいアゼル! 聞こえているか知らんが、お前の率いる奴らは魔法特化なのか? 偏り過ぎなんだよお前の部下ッ!!」

 戦闘中でもお構いなしに煽りまくるロア。「ろ、ロアさん……!」と慌てた様子で制そうとするミリアの声にも耳を貸さず、魔剣ヴァル・ラグナを構える。

「よーし、こっからは——俺たち番だ」

 ロアが啖呵を切った途端、リアが先攻して『アストラル・テン』を振り翳す。

「”ヒュリアヴリング”‼」

 詠唱を終えた次の瞬間…『アストラル・テン』の先端から透き通った雪の結晶が数個出現し、リアは手首をしなやかに動かし、結晶を空に撒き散らす。

 ――刹那、それは海色と白亜の竜巻と変豹して教団の人間たちを凍てつく吹雪で蹂躙する。

 途轍もない威力で教団の人間を蹂躙しているスキルは、氷結術師クリオマンサーの最上級スキル”ヒュリアヴリング”だ。氷の精霊を収束させ、狂暴化させる。それによって精霊たちが敵対存在も見做した存在を無差別に襲撃する……というものだ。

 教団の人間は「ぐわぁぁ!」と雑魚のような不甲斐ない声を上げながら空に舞い上がる。同時にミリアは【威光の天帝竜】に告げる。

「やって下さいっ! ”セイクリッド・エクスヴェルン”‼」

 刹那——視界全体に白い閃光が全てを覆い尽くす。直後、教会が半壊しており、眼前に居た真紅のローブの人間らが消滅していた。…文字通り。

 空を見ても誰もいない、下を見ても血液や人体は見当たらない……本当に先の【威光の天帝竜】のスキルによって消滅したのだろう——これほどの破壊力…否、殲滅力には圧倒される。

 これで粗方敵機は減少した。残りは先の攻撃で奇跡的に被害を受けなかった雑魚と、張本人である狙撃手アゼルだ。

「”アクエルシーズ”っ‼」

 リアは残党を氷結術師のスキル”アクエルシーズ”を発動する。小さい津波が突如出現し、残党をまるで無様に流れる流木のように流れて、激流の影響で壁に叩き付けられる。残党はその攻撃で失神し、昏倒する。

「よしっ! ある程度敵は倒せたな。二人とも、よく頑張ったな」

 主な活躍を果たしたリアとミリアの頭を撫でるロア。二人もご満悦な表情だ、やはりご褒美と言うのは必要不可欠なようだ。

「……ん、ありがとう」

「えへへ、嬉しいです! ありがとうございます、ロアさん♪」

 二人の笑顔を見て、ロアも思わず微笑んでしまう。

 そして、三人は蒼く美しい空を見上げ、ロアが大きく息を吸い込んだ。

「うおおおおおおおいッ‼ アゼル! お前の居場所を言ってもらおうか!? お前の部下は全員倒したッ‼ さっさと姿を現しやがれぇぇッ‼」

 喉が枯れるほどの大声で、無限大の空に叫んだ。流石に部下を全員倒されて焦燥感を抑えられるかどうかと聞かれれば、恐らく抑えられないだろう。

 

 ――しかし。

「生憎、僕もそんな強大な神獣や魔法師に突っ込む無謀な奴じゃないよ。だから——」

 刹那、何処からともなく銃声が空に響く。恐らく…否、確実にアゼルの攻撃だ。しかし、何処から銃弾が発砲されたのかが不明な状態だ。

「皆ッ! 周囲を警戒してくれ! 銃弾が————」

 と、ロアが二人に注意を促した途端、か細い悶絶声が耳を突き刺す。その方向に振り向くと、ミリアの召喚した【威光の天帝竜リンドヴルム】の脳天から紅蓮の焔が燃え盛っていた。

 どうやら標的はこの中で最も脅威な【威光の天帝竜】を殺せば、何とかなると思ったのだろう……。

「チッ……いや、だがまだ二人は生き残っている。急いで物陰に隠れ——」

 ロアが指示を下そうとしたその瞬間――血潮が薔薇の花弁が如く散り、舞った。その血潮は…ロアの妹、リアのものだった。リアは腹部から血液を大量に流し、倒れ込む。

「リアさんっ!? しっかりしてください! ……ロアさん……」

 ミリアは颯爽とリアの身体を揺さぶりながら叫ぶ。しかしリアは反応しない、行きを荒げ、大量の汗を流している……ロアの表情は、憤怒に染まっていた。

「――――フレイヤ、お前の持つ〈天命の樹〉の最上級の能力ってのは、王冠ケテルだったよな?」

『え……えぇ、アタシの〈天命の樹〉で一番強力なのは…それね』

 フレイヤは、恐怖していた。感じたからだ…ロアの憤怒を、威圧感を——。


「殺す……アゼル、貴様には絶対的な苦痛を与えてやる。神にでも赦しを乞え、罪人、お前らの命は…悉く散ると痴れッ!!!!」

 ロアは大事な肉親に傷害を与えたアゼルに対し、啖呵を切った。そして魔剣ヴァル・ラグナの柄を強い握力で握り、叫んだ。

「魔剣ヴァル・ラグナ、贖罪状態サクリファイスッ!! 〈天命の樹セフィロト〉…王冠ケテルッ!!」

 茨がロアの腕を覆い、血液と魔力を吸収した。更に、漆黒の刃が正反対の純白へと色彩を変えた。

 そして、純白の刃と同じような純白の蛇が螺旋状に出現し、天上で輝く太陽へと昇っていく。蛇が消失し、太陽の下に超巨大な魔法陣が生成された。

 魔法陣の中心に十字架が無数に収束し、一本の巨大で鋭利な純白の十字架が創られ、停滞している。

 ソレを確認したロアは、魔剣ヴァル・ラグナを何も無い場所に振り翳した。

 刹那、純白の十字架が神速に下へと落下し、地を縦断した。鼓膜が破れそうなほどの轟音と地震――墜ちた十字架は地に触れた途端、途轍もない威力で爆発し、長剣程度の大きさの十字架が迅速に街中を飛び交った。その数は数えきれない程だった。

 ——《天命の樹》…王冠。最上級の魔術であり、その能力は”自分の大事な「何か」が危険な状態にあった時、太陽の光輝を収束させ、摂氏4000度の十字架を大量に拡散させる”というもの……。別名『最後の剣』『白き天罰』。

 今の十字架の量なら、アゼルに多少の傷は負わせられるだろう。


「いやはや、驚いたなぁ。まさか僕に重傷を負わせるとは…いつつ……」

 先の攻撃で被害を受けたのか、姿を現した。どうやら教会の屋上の陰に隠れていたらしい。

 見ると、腹部と左肩が火傷し、深く抉れていた。流石にあの無数の十字架を回避できるほどの敏捷性は持ち合わせていなかったらしい。

「ハッ、無様なもんだ。…ま、俺の妹を傷つけた罰だ、受け取っただろう?」

「そうだな……ウッ、だが…僕はまだ諦めないッ! 僕は絶対に勝たなきゃいけないんだ…反逆者を殺さなければ……僕は」

 今のアゼルは、教唆煽動していた強気な瞳とは正反対で、何か哀愁を感じる瞳をしていた。

「――そうか、分かった。これが最後の勝負だ、アゼル。俺とお前の一騎打ち、一発でケリを付けよう……な?」

「僕を愚弄しているか?! …いや、それが丁度いいか。……いいだろう、それで」

 不本意ながらも、ロアの提示した条件に応諾するアゼル。

 ロアは勝負する前にミリアに近寄って、懇願した。

「ミリア、俺の妹を宜しく頼む。修道女であるお前なら多少の治癒スキルを使えるだろ? だから…お願いだ!」

 この状況、フレイヤ戦と同じ状況だ。これ以上、大事な人間が傷つくのは見たくない…だが、今は修道女として修業を重ねてきたミリアが居る。ミリアなら、ある程度リアの容態を保つ…否、回復することすら出来るだろう。

「……分かりましたっ! その代わり、ちゃんと勝ってきてくださいね……?」

「当たり前だ、俺は神を殺すんだよ。簡単に信者に殺されるほど軟じゃねーよ」

 不愛想にロアは返答した。アゼルを殺さなければ、ロアが殺される……即ち、旅が終わる。ロアは——否、ロアとリアは神を殺した存在だ、簡単に人間に殺されるわけには行かない……。

 そしてロアはリアに一瞥し、アゼルの方へと踵を返した。


「よぉ、お待たせ」

「仲間との告別式は終えたかい?」

 冗談のように思えるが、冗談のように思えない言葉を投げかけるアゼル。

 だが、火傷傷を見る限り、余裕は見られない。ただ虚勢を張っているだけだろう。

「ハッ……神にでも祈れ、簒奪の神にな。――よし、始めるか」

「ああ……フゥ」

 互いに煽って、準備をする。アゼルは大きく呼吸し、狙撃銃クロイツェルに黄金の銃弾を装填する。

 一方、ロアは魔剣ヴァル・ラグナを贖罪状態で維持したまま抜剣状態スラッシュブレイドにする。

 そして二人は武器を構え、鋭い眼光で互いを凝視し、唇を震わせる。


「――”遍くは一刀にて潰えるリフィロディア・ワン”ッ‼」

「――”ムスペリエム・アッモ”ッ!!」

 

 あらゆる光を消滅させるような漆黒の三連撃。

 一発で街を地獄の業火で焼き尽くす煉獄の魔弾。

 

  ——二つの全力の攻撃が交じり合い、そしてこの一撃で全ての勝敗が決まる。


  †

 

 そして――

「……さて、僕は負けたわけだが、どうするつもりだ?」

 決着がついた。結果は…アゼル・ヴァーミリオンの惨敗に終わった。僅差の勝負だった。

「つってもなぁ……俺たちは今からプロメテウスを殺さなきゃいけないわけで」

 そう、三人の目的はあくまでこの国の支配神プロメテウスを討つことにある。教団はあくまで勝手に付き纏ってきた敵に過ぎない。しかし、ロアも贖罪状態と”遍くは一刀にて潰える”を行使したせいか、魔力欠乏症の上に身体が壊れている。

 リアも先の狙撃で腹部を負傷した。こんな状況で神との戦闘は、流石に鬼畜というモノだ。

「…フッ、貴様らは今から我が神を殺しに行くんだろう? だったら、これをやる」

 アゼルはそう言って懐から二個の薬瓶をロアに投擲した。見ると、最上級の回復薬「ユグドラシルの雫」だという事が分かった。滅多に手に入らない代物だ。

「飲め。それなら僕の魔弾の傷も一瞬で癒えるはずだ」

「感謝する……しっかしお前、俺らに施しを与えていいのか? 教団のボスにどやされたりしないのか?」

 アゼルは何か吹っ切れたような表情で息を吐いた。

「今更…僕も正直教団のやり方――いや、この国のやり方に疲れていたからね。丁度いい機会だ」

 ロアの脳裏に疑問がよぎった。本来神に信仰心を絶やさず捧げている教団の人間が、何故そんな神に反逆するような発言をしたのか? 

 そんな疑問を抱きながらも、貰った「ユグドラシルの雫」を持って重傷のリアにそれを飲ませる。気管に入ってしまったのか、噎せ返るリア。

「大丈夫か? リア。…ミリア、俺が戦っている間のリアの容態はどうだった?」

「ええ、何とか止血をして”ヒリア”で命を繋ぎとめました……」

 安堵の息を吐くロア。そして見る見るうちに乱れていた息が整われ、寝息を立てていた。

 ――しかし、まだ安堵するには早い。ロアとリア、ミリアの目的はこの国の支配神プロメテウスを討伐することだ。今はあくまでプロメテウスの討伐を阻む障害を退けたに過ぎない。

 正直、プロメテウスの弱点や能力が一切として不明な状況だ。どうやって討ち取るか、熟考するロア。現在、殆どの人員が致命傷を負っている。

 ロアは先の戦闘の”遍くは一刀にて潰える”によって内部が破壊され、リアも回復薬を投与したものの完全に治癒できるとは限らない。激しい戦闘は出来るだけ避けたい……ミリアも、剣技の程は不明だが、召喚獣は一蹴されてしまうだろう。

「ん~、俺の体内の損壊はリアの”エヒュリケイス”で何とかなるだろうし…肝心のリアがどれくらいで目覚めるか、だが」

 ロアが必死に知恵を捻り出し、リアが目覚めるまで待つという結論に至った……ところで、リアが平然と起き上がった。

「ん」

「ん……じゃねーんだよッ!? 俺が苦悩してる間に勝手に目覚めんな!?」

 意識を取り戻し覚醒した途端、急に暴言を吐かれたリアは肩を竦めた。

「悲しい……お兄私に永眠しろって……」

「そこまで言ってねーよ、驚いただけだ。すまんな」

 軽く謝罪するロアに、リアは「いいよ」と気前よく許してくれた。突っ込みを入れてしまったが、リアが覚醒したのは都合がいい。早速病み上がりなリアに重い役を背負わせることになる。

「悪いがリア……”エヒュリケイス”と魔力供給をお願いだ」

 ロアのお願いに、リアは「うん」と頷き、ロアの身体に状態異常を回復させるスキル”エヒュリケイス”を五回ほど付与し、直後——

 ちゅっ——いつも通り(?)の魔力供給を行う兄妹。本来、人前で兄妹がキスをすることなんて、そうそう無いだろう。

 この光景を傍らで見ていた純粋無垢なミリアは口をパクパクさせながら羞恥心を露わにしていた。

「ふぅ……」

「ロアさんっ! セクハラはいけませんよ?」

 何も知らないミリアは、ロアとリアの行為に対し注意する。当たり前の行動だ、兄妹が急に接吻をするというのは非常識的な行為と捉われがちだ。

「今のはな? 魔力供給の為でやったことなんだ。決して疚しいことは無い!」

 必死に弁明するが、何か釈然としないような表情をするミリア。


 そんなこんなで、三人とも完全復活した。重症で昏倒しているアゼルを壁に横たわらせ、教会内へと足を進めていく――。

 

 




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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