第27話アレクセイ・リードシア

 リードシア王国の建国記念祭の今日、灰色の城は一段と賑やかだった。

 煌びやかに飾られた城内に、これまた煌びやかな人々が多くいた。


 王太子、アレクセイ・リードシアは来客から逃れるように中庭に出た。


 正直夜会など騒々しい事が、あまり好きじゃないアレクセイは、深いため息を吐いた。

 従者が気を利かせて、軽めの果汁酒を持ってきてくれた。


「ありがとう。」


 礼を言うと従者はそのまま下がってくれた。


 一人になったアレクセイは果汁酒を飲み、夜空を見上げた。

 くっきりとした満月が夜空に輝いている。


 先程挨拶しに来た少女達を思い出す。

 一人は大輪の薔薇の様な絶世の美少女。

 もう一人は、この夜空の月の様に、美しい少女だった。

 二人共アレクセイとは親類で、その一人は婚約者候補のサリア・アリサのはず。


 アレクセイの知るサリアは、夜会でも男装で参加する公爵令嬢だ。

 幼い頃は、まるで男の子の様で、オカマだとからかった覚えがアレクセイにあった。


 男装をしても昔の様な男顔ではなく、今ではちゃんと女の顔立ちに成長している。

 男装の麗人として一部の令嬢から支持をえていると言う、噂も聞いていた。


 今まで、男装趣味の変わった令嬢だと思っていた。

 だが、今夜、ドレスを着たサリアを見て、アレクセイは彼女を見る目が変わった。


 月の様な美しいサリアに、目を奪われてしまったのだ。


「殿下、今どなたのを想っておいでですの?」


 高い声が後ろから投げられた。


 振り返ると、銀髪のつり目の少女がこちらに向かって来ていた。

 この少女も美しいく、咲き乱れる百合の様に。


「月を見てたんだ。

 見てごらん、見事な満月だ。」


「ええ、見事ですわ、まるで今夜のアリサ嬢の様に…」


「マリルー。」


 女性は鋭い。

 アレクセイはあの場では、平静を保っていたつもりだった。


 マリルー・ルッドマンはアレクセイに好意を抱いている。

 彼女は幼い頃からずっとアレクセイを見てきたのだ。

 そんな彼女だから、アレクセイの少しの表情の変化にも敏感に気付くもの。


 そして、マリルーもアレクセイの婚約者候補の一人。


 アレクセイは返答に困っていると、マリルーは言った。


「わたくしは殿下を困らせたくありませんわ。

 だからその様な表情なさらないで、わたくしのはただの焼きもちですから。」


「マリルー…」


「それと、わたくしは殿下があまり夜会が好きではないと知っていますわ。」


 ハッと、アレクセイは驚いた。


「しばらくこうして、わたくしと一緒に夜空を眺めて下さいませ。

 きっと休憩になりますわよ。」


 マリルーはニッコリと優雅に微笑み、続けて。

「ただ、あの満月は邪魔ですわ‼︎」


「月には罪はないだろう?」


 クスリっとアレクセイは笑った。


「いいえ、存在が罪ですわ。

 特に満月は人をも惑わすと言うそうですわ。

 …ですが殿下、どうか周りの星も見てあげて下さい…」


 マリルーは切な気に言った。

 直向きな態度は、アレクセイの心に響く。


「そうだな、どの星々も綺麗で目移りしそうだ。」


 二人は夜空を見上げて語り合った。

 よく晴れた夜空は星も綺麗に見えた。

 無数の星々が競う様に輝き。

 まるで、この城にいる貴婦人達の様。


 こうして、束の間でもアレクセイを独り占め出来たマリルーは、幸せいっぱいだった。




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