第26話サリア、ドレスを着る

 リードシア王国、建国記念祭。

 国中の人々が建国日を祝う今日、ウィルデリアは明るい表情で準備をしていた。

 新しく仕立てたドレスに袖を通して、薄化粧をする。

 髪の毛は、器用なライラが上手に結い上げ、母の形見の真珠の髪飾りを付けて、出来上がり。

 鏡の前で、ウィルデリアは自分の姿を色んな角度で眺める。

 出来栄えに満足したのか、くるりと一回り。


 今日はクロードと逢える。


 久しぶりに会う婚約者に、綺麗に着飾った自分を見せたいのだ。


 そんな、ウィルデリアにライラは嬉しそうに見ていた。

 以前は着飾ることに無頓着だったウィルデリアの、その変わりようにライラは喜んでいた。


 人間恋をすれば変わるもの。

 ライラのお嬢様はいい方向に変わったようだ。


 そうライラが思っていると、誰かが部屋のドアをノックしていた。


 開けると、サリアの使用人のニールだった。


「ライラさん、すみません。

 ロウフィール嬢に来て頂いてもいいですか?」


「あら、ニール。

 どうなさったの?」


 ウィルデリアがライラの横から覗き込むように出てきた。


 着飾った、ウィルデリアの姿を見たニールは思わず見惚れてしまった。


「ニール?」


「ああ、申し訳ございません。

 あまりにも美しかったもので、見惚れてましたよ。」


「お世辞を言っても何も出ないわ。

 それで、何かご用ですの?」


 すると、ニールは深刻そうに言った。


「サリアさまの支度が手間取って…ロウフィール嬢、来て頂きませんか?」


 ウィルデリア達は直ぐに一階のサリアの部屋に向かった。




 二階から階段で降りて、直ぐのサリアの部屋に着くと、サリアは一着のドレスの前で暗い表情をしていた。



「ウィルデリア…綺麗だね。」


 サリアは着飾った、絶世の美少女の親友を眩しそうに見て言った。


「ありがとうございますわ。

 サリア、今日はドレスを?」


「ああ、今日の夜会に着て行かないといけないみたいで…

 覚悟していたつもりだが、いざ着てみようとするとな…抵抗があるんだ。」


 ウィルデリアはどこか苦しそうなサリアを不憫に思った。

 出来れば、ウィルデリアはいつもの男装でも良いと言ってやりたかった。

 でも今日は王族主催の夜会。

 いつもの男装で出るのは流石に無理があった。


 ウィルデリアはサリアの着る予定のドレスをジロジロ見た。

 ドレスは胸元が開いていて、スカートの部分はふんわりとしいた。

 豪華な刺繍とレースが使用されていて、所々宝石が散りばめられていた。

 ウィルデリアのドレスより豪華な逸品だった。


「凄い気合いの入ったドレスですわね。」


「母上が用意してくれたんだ。」


「おばさま…。」


 娘が何十年振りにドレスを着るのだ、母親としたても、気合いも入るもの。

 ウィルデリアはサリアの母親が嬉々として、ドレスを用意したのが目に浮かんだ。


 ふと、ウィルデリアは閃いた事を口にしてみる。


「サリア、ドレスの下だけでもいいですわ。

 スボンを着てみては?」


「スボン?」


「こんなにふんわりとしたスカートですもの、下にスボンを履いててもわかりませんわ。」


 その提案にサリア、マジマジとウィルデリアを見た。

 下にスボンを履くなら、まだ気分的にも少し楽なのかもしれない。


「わかった。スボンを履こう。

 ウィルデリア、ドレスを着るのはずいぶん久しぶりなんだ。

 手伝ってくれ。」


「わかりましたわ。

 任せて、髪型はライラが結ってくれますわ。

 とても上手ですの。」


 ウィルデリアは自分の髪型を指差してそう言った。



 1時間後、支度の終えたサリアを見て、ウィルデリアは親友を褒め称えた。


「サリア、とっても素敵、よくお似合いよ、馬子にも衣装ですわ。」


 鏡の前のサリアは複雑そうだった。

 ドレスを着るのは何十年振りだろうか。

 下にスボンを履いても、やっぱり抵抗がある。


 ニールが衣装部屋に入って来て、タイプの違った美少女二人を見て言った。


「わあ、眼福です。

 サリアさまですか?綺麗に化けましたね。」


 無礼な使用人にサリアは弱々しく答えた。


「お前がいうならそうかもな…」


 事実、ドレスを着たサリアは美しかった。

 いつもの男装と180度変わって、儚気に見えた。


 サリアを見てニコニコしていた、ウィルデリアはしばらくすると、ソワソワし出した。


「どうした?」


「クロードさまがサリアに目移りしたらどうしょうかと考えていましたわ。」


 心底不安そうに言う、美少女の一言は嫌味にも聞こえたが、彼女を知るサリアはそう思うわずにキッパリ言ってあげた。


「それはないから、安心しろ。」


「ええ、絶対に大丈夫ですよ。」


 ニールもそれに同調した。



 外はもう夕方、夜会迄にはあと少し。

 ウィルデリアはもうすぐ、クロードに会えると、微笑み。

 サリアもまた王太子のアレクセイと会えると、嫌そうに顔を歪めた。



「お姫様方、それでは馬車の準備をしてきますね。」





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る