第21話モコモコ再現

 翌日、ウィルデリア達はサリアの部屋にいた。

 サリアの使用人、ニールはリアムを見て、誰ですか?と、聞いてきたので。

 ウィルデリアは魔法使いですわと、言った。


 ニールはそれを聞いてリアムを二度見した。

 サリアは同級生の美少年を、ガン見する使用人にお茶を出すように促した。


「竹女の身体が大丈夫そうなら良かったですわ。

 ただ、心配は封印を解いた後です。」


「そして、どうしたら迷いの森の湖とやらにたどり着けるかだ。

 ウィルデリア、あの迷いの森だぞ。」


 入ったら最後、生きて出れた人間はいないと言われる迷いの森。

 よりよって、そんな場所に竹女がいるなんて。


「地底湖が地上に出て湖になるんて、思いもしませんでしたわ。

 森に詳しい人はいませんの?」


「いるのかな?あの迷いの森だよ。」


 三人がうーんと、悩んでいると使用人ニールが口を挟む。


「迷いの森なら俺が昔いたスラム街の近くですね。」


 そう言って、ニールは紅茶を三人分用意した。

 手作りのお菓子もテーブルの上に並べて。


「そう言えば、お前はスラム街出身だったな。」


「はい。

 実は迷いの森は、スラムの皆んなにとっては、いい稼ぎになる場所なんですよ。

 ただ、俺達が行くのは森の入口周辺で、それより奥は行きません。

 奥まで入って、生きて戻って来た人はいませんので。」


 意外な事に森に詳しい人物が、身近にいた。


「ニールさん、お願いです。

 良ければ森を案内して下さいませんか?」


「ニールでいいですよ、ロウフィール嬢。

 構いませんが、俺が案内出来るのは入口周辺だけですよ。

 覚悟がいりますよ?入口周辺でも充分危ない場所ですから。

 あと、迷いの森に向かう途中も危ないです。」


 リードシア王国の南にあるスラム街は迷いの森のすぐ側にあった。


「スラム街か。」

「はい、スラム街の近くですから物騒ですよ。」


「行くには、それなりの準備が必要かな。」

「そうですよ。魔法使いさん。」


 ウィルデリアは少し考えてから言った。


「まず、迷いの森の案内はニール。

 竹女の封印はルッドマン君ですわね。

 あとは森の湖を探す事と、竹女の病をどうするかですわ。」


「ところでおかあさま。」

 リアムがウィルデリアに向かって言った。


「おかあさま⁈」

「タケメのおかあさまだから、そう呼んでもいい?」

「だ、大丈夫ですわ。」


 肯定の返事はしたが、内心動揺していたウィルデリアは、近くのお菓子を手に取って食べ始めた。


 モグモグ。

(あら、このお菓子…)


 ニールを見ると、目が合ってニコリとされた。


「ブルーシアの屋台で食べた、モコモコを再現しました。

 このお菓子、本当美味しいですよね‼︎」


「美味しかったな、このお菓子。」


 サリアもモコモコに手を伸ばす。


 ウィルデリアはモコモコを食べてると、なんだかクロードを思い出してきた。


(拝啓クロードさま、わたくし、息子が出来たようですわ。)


 そう隣国の婚約者に想いを馳せると。


「おかあさま、お菓子を堪能しているところをすみません。

 タケメは何の病にかかっているの?」


 リアムは気になっていた事を尋ねた。


「老化病と呼ばれていた病ですわ。」


「老化病?」


「桜島チヨの時代では、不治の病と恐れられた病ですわ。

 どんなに若くても、病に罹れば急速に老化して、わずか半年前後で死にますわ。」


「昔はそんな病気があったんだね。」


「聞いた事がない病だな。

 どうやって治す気だ?ウィルデリア?」


 サリアの問いにウィルデリアは答えた。


「癒し手を探しますわ。」


「癒し手って、癒しの巫女さまにでもお願いするのか?」


 癒しの巫女さま。

 サルバト帝国にいると言われる最高の癒し手。

 どんな病をも、癒しの女神への祈りによって治癒すると言う。


「癒しの巫女さまにお願いするにしても、相手は敵国にいるんだ。

 どうするんだ?

 それに、婚約者のいる今のウィルデリアでは、前のブルーシア公国に嫁ぐ、みたいな事は出来ないぞ。」


「ならサリアが帝国に嫁いで下さい。」


「アホか‼︎」

 激怒するサリア、只でさえサリアは、アレクセイ殿下の婚約者候補の問題が残っているのに。


「冗談ですわ。」


「冗談に聞こえなかったんだが…」

「まあまあ、サリアさま。

 モコモコでも食べてましょうね。

 おかわりはまだまだ、いっぱいありますから。」


 サリアを宥めるニールはウィルデリアに聞いてみた。


「もしかして、ブルーシア公爵にお願いして、星見の巫女さまに、お嬢さまの病気をも治せる癒し手を占ってもらっちゃおって、作戦ですか?」


「ええ、鋭いですわねニール。」


「それしか思い浮かばなかったもんですから。」


 そして、モコモコのおかわりを取りに行くニール。

 その後ろ姿をしばらく、眺めていたウィルデリアは、今更ながらニールの素性が気になってきた。

 ニールの助言もあってここまで来れたのだ。

 サリアの信用出来る使用人でもある。

 でも…。


(只者じゃない‼︎

 少し警戒をしたほうがいいかもしれないですわ。)


「なんだ、ウィルデリアもおかわりが欲しいのか?」

「いえ、結構ですわ。」


 そんなウィルデリアを見て、サリアは勘違いして言ってきた。


「ルッドマン君、魔法の鍛錬をこれからも励んで下さいね。」

「わかったよ、おかあさま。」


 ニールがモコモコを持って戻って来た。

 リアムもモコモコに興味が出てきたのか、手を伸ばした。



 その後ウィルデリアはクロードに手紙を出す為に行動した。



 スラスラの存在もサリアの部屋に置き忘れて。


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