第17話ベセラの夏祭り

 ブルーシア公国の美しい都、ベセラ。

 夏祭りの今日、ウィルデリア達四人は、お忍びでベセラに来ていた。


 質素な服に着替えて、なるべく目立たないように。

 もちろん、クロードもいつものギラギラした出で立ちではない。

 普通の格好のクロードは、いつもの倍ぐらい格好良くて、出歩く女性達の視線のまとだった。


(こう女性に注目されると、忍べてないんじゃないのかな?)


 ニールはそう思ったが、当の本人は気にしてないようだったから、敢えて何も言わなかった。


 ただ、顔面の目立つウィルデリアに、帽子を深く冠るように注意した。

 お陰で余計に目立つにすんだ。


 先日、ベセラに行ったサリアを羨ましがって、自分もベセラに行きたいと駄々をこねる、ウィルデリアの為に訪れていたのだ。


 そして今日は夏祭り。

 国外からも人が集まるため、いつも以上な人だかりだった。


 今日の為にさまざまな花や露店で埋め尽くされた広場を皆んな、目指して歩く。


 ウィルデリアは初めは色々と珍しがっていたが、あまりの人の多さに、段々嫌になってきた。


 そんな辟易した彼女も広場につくと機嫌がよくなった。


 さまざまな花と、露店が並んだ賑やかな広場。

 聞こえてくる音楽と歌声。

 そして、美味しそうな屋台の、食べ物の匂いに食いつくサリア。


 花より団子なサリアは近くの屋台で、ニールと立ち止まり、二人とはそこで別れた。


 ウィルデリアとクロードは色々な屋台を見て回った。

 国外からも来た商人の露店もあって、珍しい品々も見れた。

 二人は時間をかけて楽しんだ。


 明日にはウィルデリア達は、リードシア王国に帰ってしまうのだ。


「ウィルデリア。少し休憩をしよう。」


 屋台の前に設けれたテーブルと椅子が空いていたので、クロードはウィルデリアを座らせて言った。


「ウィルデリア、夏祭りは楽しめた?」


「ええ、楽しめましたわ。

 珍しい花もたくさん見れましたし。」


「それは良かった。」


 クロードは屋台の食べ物を頼んでくれた。


「これはモコモコっと言って、油で揚げたお菓子だよ。」

「いただきますわ。」


 美味しいと、お菓子を食べるウィルデリアを見て、クロードもお菓子を食べた。


「子供の頃、こうして母上達とお忍びで、よく夏祭りに参加していたよ。

 もう何年ぶりになるだろうか。」


 懐かしむように思い出を語るクロード。


「わたくしはお祭りは初めてですの。

 クロードさま、連れてってくださり、ありがとうございますわ。」

「いいえ。ウィルデリア、また今度も行こうね。」

「はい、クロードさま。」




「こんな所で会うとはな。」


 不意にかけれた声。


 金髪の少年だった。

 隣には桃色の髪の女性を連れていた。


「叔父上。」

 クロードは少年に言った。


(叔父上?)


 年下の、それもウィルデリアと歳が変わらなそうな少年に。


「女連れか。

 クロード、婚約者がいるのだから他の女性と遊ぶのはいかがなものかと。

 兄上のように、女グセが悪いぞ。」


 少年はウィルデリアを見て、怪訝そうな顔をして言った。

 誤解されたクロードは慌てて弁解する。


「叔父上、この女性が婚約者のウィルデリアです。」


「お初にお目にかかります、ウィルデリア・ロウフィールですわ。」


 深く冠った帽子を取って自己紹介するウィルデリア。

 露わになった顔に一瞬見惚れる少年。

 一拍遅れてから。


「これは失礼した。

 私はクロードの叔父。

 ローザリンド伯爵、ラウル・ローザリンドと申します。

 そして、こちらは私の騎士。」


「ベル・セルバと申します。」

 女性が敬礼して名乗った。

 凛とした美しい女性だ。


「ウィルデリア。ラウル叔父上は、父の歳の離れた弟君なんだ。」


「そして、腹違いの兄弟だ。

 私達はこれで失礼する。

 ロウフィール嬢、祭りを楽しんで下さい。」


 去って行く二人を見送るウィルデリア達。


「クロードさまの叔父さまはブルーシア姓、ではないのですね。」


 疑問に思ったのでウィルデリアは口に出してみた。


「ああ、叔父上は母君の姓を名乗っているんです。

 色々と事情があって…」


「そうなのですか。」


 ウィルデリアは複雑な事情を察して、それ以上聞かなかった。


 その後サリア達と合流して、祭りを日が暮れるまで楽しんだ。

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