第8話サリア・アリサのトラウマ

 ウィルデリアはチヨの記憶をまるで演劇を見るかのような感覚で思い出すのだ。


 でも彼女とは全く違う人格で違う人物なので、チヨの娘である竹女を救いたいという思いは紛れもなく母親としての愛なのだが、それはウィルデリアではないのだ。

 チヨとしての記憶だった。



 それでウィルデリアにとって他人である、竹女を救いたいとどうしてここまで動いているのか、ウィルデリアにもよくわからないのだ。

 多分、前世の記憶のせいだとウィルデリアは思っていた。

 そして、魔法使いとして成功したチヨへの尊敬の念からなのかも知れない。






 ロウフィール侯爵は、ライラから送られる、ウィルデリアの様子を綴った手紙を読んでいた。


 なんでもウィルデリアはブルーシア公爵と頻繁に手紙のやり取りをしているらしい。

 字が汚くて、文書を書くのも嫌いな娘の変わりようはまさに魔法に値する。


(ブルーシア公爵は魔法使いだったのか!)


 と馬鹿な事を思うのは、最近多忙なせいだからだ。


 ブルーシアとの国交は徐々に回復しつつある。

 それに比例するかのように役人でもあるロウフィール侯爵達は忙しくなっていった。


 忙しい中でも娘の様子を知りたい彼は、現在の娘の様子を非常に、喜んでいた。


(初恋はお伽話の魔法使いで、名前はエリオスだったかな?)


 エリオスのお嫁さんになりたい、と最近まで言っていた娘を思うとより嬉しいものだ。

 相手の出で立ちはギラギラしていたが、ちゃんとした人物そうである。

 何より架空の人物でお伽話に出てくる魔法使いではないのだから。


(このまま上手く行くと良いのだが。)





 サリアは父親から呼び出された後、寮に戻って来た。

 彼女はとても落ち込んでいた。

 ご飯なんて殆ど食べてないのだ


( あの食いしん坊のサリアが!)



 心配になったウィルデリアはサリアに理由を聞いたが、教えてくれなかったので、口の軽そうなニールに聞いてみる事にしたのだ。


 すると、ニールは「まだ周りには秘密ですよ?ロウフィール嬢だからお話ししたんですよ。」


 と言ってあっさり教えてくれた。

 サリアは婚約候補として名が上がったのだ。

 相手はサリアの従兄妹でもある、リードシア王国の王太子アレクセイ殿下。


 ウィルデリアが知る限り、幼少期サリアのトラウマを作った人物の一人だ。


 男の子のような顔立ちをしていてたサリアは真っ赤なフリフリドレスを着て、お城に母と遊びに行った時の事、子供達同士一緒に遊ぶ事なり、そこでアレクセイ殿下とその取り巻きによってオカマだとからかわれたのだ。


 サリアは深く傷つき、それ以来ドレスは着れなくて、少女の顔立ちに変貌した成長をしても男装をやめないのだ。


「相手はよりによってあの馬鹿殿下ですの?

 わたくし、アリサ公爵閣下に抗議しますわ!」

「ロウフィール嬢、落ち着いて!正式に決まった訳じゃないから!!」

「でも…」


 ウィルデリアは大好物のサンドウィッチに全く手も付けないサリアを見た。


「大丈夫ですよ!ほらスープは飲んでますよ。

 野菜たっぷりスープです。

 俺の自信作ですよ!」


 ニールはウィルデリアにもスープを勧めた。

 一口飲めば、その美味に思わず感動した。


 ニール、趣味は料理。

 サリアの使用人兼護衛で雇われた。

 実はスラム街出身の男性である。

 その腕を買われてアリサ公爵に雇われたのだ。


「ところで、魔法使いじゃない方のエリオスさまとはいかがですか?」

「魔法使いじゃない方の?」


 ウィルデリアは首を傾げた。


「あ、いいえ、知らなければいいのです。

 サリアさま、スープのおかわりはいかがですか?」


 ニールはまだ、暗い顔のサリアに声をかけた。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る