第6話瓶の中のスライムと手紙

 ピクピクッ…

 瓶の中のスライムが微かに動く。


「お嬢様、スライムって可愛いですね。

 なんか癒されます、私。」


 メイドのライラが言った。


 ウィルデリアはライラの言葉で、スライムを眺めた。

 チヨの記憶では、スライムはそこら辺にあふれていた謎の生命体なのだ。


 ウィルデリアのスライムは薄透明な紫色の物体。

 個体によって様々な色があるとされる。

 当時、その姿から癒されるとして、スライムを飼う人がたくさんいた。


 スライムには、はっきりとした寿命がない。

 個体によってすぐに消滅したり、百年以上生きたりするものもある。


 ただそのエサが魔力である事にウィルデリアは頭を抱えた。


 ウィルデリアにはどう頑張っても魔力を与えれないのだ。


(だって、私には魔力がないのですから)


 いつか餓死してしまうのではないか心配だった。

 名前だってもう決めてあるのだから。


「ねえ〜スラスラ。」


 命名、スラスラ。


 センスの悪さは、どこかの公爵の服のセンスと一緒のようだ。


「スラスラ…もうお名前をお決めなさったんですね。」

「わたくしってセンスありますわ。

 でしょ?ライラ?」

「ええ、あ、はい。」


 お嬢様に反論出来ないので、目を泳がせる事しか出来ないメイドです。


 トントンッ


 と、扉に誰かノックして来た。


「ロウフィール嬢にお手紙です。」


 ライラは手紙を受け取り、差出人を見るとブルーシア公爵からだった。


「お嬢様、ブルーシア公爵閣下からでございます。」


「公爵から?」


 ウィルデリアはライラから手紙を受け取って封を開けた。


 内容は、先日のお見合いの事でウィルデリアとあまり話せなく公爵は残念がっているようで、またお会いして話しがしたいとあった。

 また、出来ればお手紙のやり取りをしたいとも書かれていた。


 とても綺麗な文字で。


(ブルーシア公爵閣下、お着物のセンスは悪いのに文字はとても綺麗ですわ。)


 ウィルデリアはまたしてもときめいた。

 これは恋の始まりかもしれない。


 因みにウィルデリアの初恋はエリオスという青年で、リードシア王国で有名なお伽話に出てくる魔法使いだ。


 ニヤニヤするウィルデリアの様子を見て不気味がるライラ。


「ライラ、今すぐ高価な便箋を用意してちょうだい。」

「は、はい。ただいま。」



 数分後、ライラの用意した便箋で手紙を書き綴るウィルデリア。


 何回か書き直してりもしたが、満足のいいものが出来たようだ。


 ただ、その字はお世話にも綺麗だと言えない。

 ライラは何回か代筆を進めたが、ウィルデリアに却下された。


 手をインクで真っ黒にしてライラに手渡す時には夜も更けていたのであった。



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