第3話ブルーシア公国
「嫁ぐって、簡単に言うな。
一生がかかってるんだぞ?」
「わたくしとしてはいいアイディアだと思いますわ。」
「素晴らしいアイディアだと思いますよ。
流石はロウフィール嬢。」
にこにこと相槌を打つニールにサリアはキッと睨みつける。
「サリアさまは他に方法を思いつきますか?
」
と、ニールに返された。
残念ながらサリアには他の方法は思いつかない。
男装の麗人は悔しそうに顔を歪ました。
納得しない彼女に使用人ニールは助け船を出した。
「別に嫁がなくても、ブルーシアのどなた
かと婚約して、星見の巫女さまに占ってもらった後、婚約破棄をすればよろしいのでは?」
「それだ!
ウィルデリア、その手でいこう。」
「そうですわね。
では、早速お父様にお願いしますわ。」
そう言って部屋を出たウィルデリアを見送った二人。
「ロウフィール侯が許可を出すとは思えないが、どうなるのやら。」
「ロウフィール侯爵はご息女を目の中に入れても痛くない程の可愛がり用で有名ですからね。
難しいかもしれないですね。」
ウィルデリアはその日のうちに早馬を出した。
父親がいるロウフィール領までは遠い。
なるべく早く事を進めたかった。
竹女の為に。
一週間後父親から返事が来た。
内容は駄目だった。
「こうなったら…直接お願いするしかないですわ。」
ウィルデリアは休学をして実家に帰った。
長年使える、メイドのライラをお供につけて。
「ウィルデリアさま、あの話を侯爵閣下にお伝えなさるのですか?」
ライラはウィルデリアから聞かされた前世の話について、持ち出した。
「ええ、そのつもりですわ。」
「それを理由にブルーシアに嫁がれるのは難しいと思います。」
「奥の手があるわ。」
例のスライムの入った瓶をライラに見せつける。
ライラもスライムを見てなんとか信じてくれた者の一人だ。
「ウィルデリアお嬢様お帰りなさいませ。」
屋敷に着いて、ウィルデリア達は屋敷の皆んなから出迎えを受けた。
「ウィルデリア、おかえり。」
父親のニコル・ロウフィール侯爵はにこにこと出迎えてくれた。
「お父様、皆さま、ただいま帰りました。」
「さあ、疲れただろう。
ライラもご苦労様。
二人共疲れただろう、奥の間で休みなさい。」
「お父様その前にお話がありますわ。」
「ウィルデリア、その話とはブルーシアの件かね?」
「はい。」
場所を移動して、父親の書斎で二人は話しした。
ウィルデリアの前世の事。
竹女の事。
星見の巫女の事。
その為にブルーシアに嫁ぐ必要がある事。
もちろん侯爵は始めは信じていなかったが、例のスライムを見せてようやく信じてくれた。
しかし、ウィルデリアが嫁ぐ事だけは断固として受け入れてもらえなかった。
「最終的に婚約破棄するとしてもウィルデリア、お前にキズが付く上に上手く破棄まで持ち込めるか。」
「わたくしはかまいませんわ。」
「それに私はお前に恋愛した上で結婚をして欲しいと思っている。
私とお前の母、フィオナと同じくな。」
ウィルデリアの父親と母親は貴族にしては珍しい恋愛婚だった。
母が亡くなって十数年、周りがいくら言っても、父は後妻を迎え入れようとしなかった。
父はまだ母を愛しているのだ。
「お父様はわたくしが恋愛婚をする事がお望みなんですね。
わかりましたわ。ブルーシアで好きな殿方を見つければ良いのですね。」
「ウィルデリア、お前は本当に頑固だな。」
「お父様の子ですもの。」
侯爵は笑って、そして言った。
「実は今、ブルーシアとの国交正常化を望む声が高まっているのだ。」
「それは、ラッキーですわ。」
「コレはお前にとってはもしかして、ラッキーな話しかもしれない。
それには理由があって、帝国がどうもキナ臭いようだ。」
サルバト帝国、大陸の南部を統治する大国。
30年前、ウィルデリアが住むこのリードシア王国と戦争をしていた。
戦争の最中、サルバト帝国で内乱があって、リードシアとの戦争どころじゃなくなった帝国は撤退して、リードシア王国は難を逃れた。
「また、戦争ですか?」
「今はわからん。
帝国は長い内乱でその体力はないと思うが。
内乱を収めた今の皇帝は好戦的な噂だ。
数年後にこちらに戦争を仕掛けたとしても不思議ではない。」
ウィルデリアはゴクリと唾を飲み込んだ。
戦争の経験はないが、経験のある大人達から その惨さを聞かされた事ならあった。
「それでお隣のブルーシアとの国交を望む
声が上がるんですね。」
「そうだ。
そしてウィルデリア、お前はなぜブルーシアと国交が断絶したのか理由を知っているか?」
「ええ、確か、ブルーシア公国から嫁いできたアベンヌ姫が変死なさったんですよね?」
怒ったブルーシア公がリードシアとの国交を断絶した。
帝国との戦争時は同盟まで組んで共に戦った仲だったのに、同盟を更に強固にする為に嫁がせた姫のその変死により、二国の良好な関係が壊れた。
「国交を断絶されてから、西からの物が入って来ないわ、大陸の西部側の国々との行き来が難しくなった。」
隣のブルーシアは西部側の国で、地理的に西部の国々と交易する為にはブルーシアを通らなければならない。
南は迷いの森と呼ばれる樹海があり、入ったら最後生きては戻れないとされている。
南側との行き来は海路しかないのだ。
「国王陛下はブルーシアに親書を送ったが向こうの要求は王族の姫を要求された。」
「それは難しいのでは?
我が国の王女さま方は皆、婚約なされていますわ。」
「王族ではないが、王家の血を引く姫ならばあと二人いる。」
侯爵はため息ついて、チラリとこちらを見て言った。
「お前とアリサ公爵家のサリア嬢だ。」
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