第2話桜島チヨ

 翌日、午後の授業も終わりサリアの寮の部屋に二人はいた。


 図書館から借りた世界地図を広げて、ウィルデリアは桜島チヨが生きていた時代の地理と大きく違うと言った。

 まず、あるはずの和島国がない事。

 昔は大陸が一つであった事。


 その二つでわかった事は桜島チヨが生きていた時代が遥か大昔である事。


 その時代、盛んだった魔法が失われた事。


 そして、桜島チヨの記憶があるウィルデリアの目的はチヨの娘、竹女を救う事であった。


「ウィルデリア、桜島チヨが生きていた時代は大昔だよ?

 その彼女の娘を救う話しの前に、もう娘

 は大昔に死んでしまったのではないのか?」


「普通に考えたらそうですわね、でも竹女はまだ生きています。

 正確には寝ていますが、彼女の時はチヨの魔法によって止められています。

 肉体も全てそのままですわ。」

「そんな事が可能なのか?」

「チヨには可能でしたわ。

 その引き換えに彼女は魔法を使えなくなり、何もかも殆ど失ってしまいましたが。」


「それじゃ、竹女はどこにいる?」

「和島国の鈴乃の国、富丘という地底湖に封じさせました。

 チヨは魔法を使えなくなりましたから、封印はチヨの知人に頼みましたわ。」


 こんなに地形が変わってしまったら見つけるのは不可能だとサリアは思った。


「いったいどうやって見つけるんだ?」

「方法はありませんわ。

 絶望的です、もうあとは神頼みだと思っていますわ。」


 サリアは友人を殴りたくなってきた、あっさりと、ギブアップをしたと言っているようなものです。


「それで私にどうしろって言うのだ。」

 助けてと頭を下げたウィルデリアをサリアはどう助けて欲しいのかわからなかった。

「友人として、知恵を貸して欲しいのです。

 わたくし一人では限界があるのです。」


「私も何も思いつかないよ?

 ………お伽話に出てくる全てを知る鏡があれば別だが。」

「残念ながら魔鏡は、大きな戦争で割れてしまったと聞いていますわ。

 残った破片ではその力の半分の効果もありません。」


 そうなのかとサリアは伝説の鏡の末路を知ってしまった。



「魔鏡の破片を集めて修復すればいいのでは?」

 第三者が二人の会話に割って入って来た。

「その魔鏡、直せれば元通りになると思いますよ。」


 くせ毛の優男が言った。


「ニール!

 貴人同士の会話に割って入り込むんじゃない。」


 サリアの家の使用人であるニールだ。

 身分の低いニールが気軽に会話に入って来た事を叱責するサリア。

 彼女は、すまない、とウィルデリアに頭を下げて謝る。


「あら、大丈夫ですわ。

 わたくし気にしてません。

 いい考えですが、それより肝心の魔鏡の破片のありかも知りませんわ。」


「それは残念です。では、これはどうでしょう?

 星見の巫女さまに占って頂くのは?」


「ニール、お前またしても会話に参加するんじゃない!」

「サリアさま、この案も駄目ですか?」

「駄目も何も、星見の巫女さまに気軽に占ってもらえるほど簡単ではないんだぞ。」


 ここ、エジェカ学園のあるリードシア王国。

 星見の巫女はブルーシア公国にいる。

 ブルーシア公国はリードシア王国の隣国だが、十年前から仲が悪く国交を断絶している。


 いくら貴族のウィルデリア達でもそうそう占ってもらえる程簡単じゃない。

 仲の悪い国の貴族じゃ占ってもらえない。

 まず、ブルーシアに行く事も出来ないのだ。


「星見の巫女さま…」

「ウィルデリア、星見の巫女さまは諦めて違う方法を」

「サリアさま、それではサリアさま達の力でブルーシアと仲良しさんになればいいじゃないですか。」


 呑気に言うニールにサリアは頭を抱えた。


「無理を言うな。

 私達はまだ子供だ!

 それに国交断絶している国だぞ、無謀だ。」

「いいえ、サリア出来ますわ。

 別に仲良しさんにならなくても。」


 ウィルデリアは顔を輝かせて言った。


「わたくしがブルーシアへ嫁げば。」


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