第10話「お手柔らかに」

 「――リーベル王国から参りました。サーシャ・リーベル・テイルと申します。以後お見知り置きを、騎士科Aクラスの皆様」

 『…………』


 学園へ到着した瞬間、黒板の前で自己紹介をするサーシャ。そんな彼女を眺める騎士科Aクラス一同は唖然としている中、一緒に来た学園へやって来たリーサは頭を抱えていた。

 この学園へ到着する前、サーシャと遭遇したリーサは前以て告げられている。編入などではなく、学園アルカディアに通う事はリーベル王国では決定事項らしい事を聞いているのだ。

 だが頭を抱えている理由は、それだけでは無かった。


 「……ティナ・フロスト。カイル・オーギュスト。ザック・シュラウド。カイル・ブラッド。エリザ・リーズフェルト……そして、リーサ・アルファード・アルテミス。これが騎士科Aクラスの生徒の名前よね?」

 

 王族が来ただけでも驚いたのにもかかわらず、生徒全員の名前を把握している事を示したサーシャ。そんなサーシャの言葉を聞き、リーサを除く生徒たちが膝を折ってサーシャの前へと跪いた。

 出遅れたリーサを見兼ねたエリザは、ムスッとした表情を浮かべて言った。


 「ちょっと何してるのかしら?リーベル王国の王族が来たのよ!?何を平然としているのよ、貴女はっ」

 「えっと……」

 

 エリザの言葉に戸惑うリーサへと視線を動かしたサーシャは、口角を上げつつ目を細めて言った。


 「問題無いわ。リーサは私の友人なのだから、跪く必要は無いわ。ねぇ?リーサ」

 「……そ、そうなのですかっ?(り、リーベル王国の王女様と知り合い?あの子、一体何者なのよっ!)」

 「ところで、貴女はリーズフェルトと言ったわね?」

 「は、はい!エリザ・リーズフェルトと申しますっ。姫様のおかれましては御機嫌麗しゅう御様子で何よりです」

 「そんな堅苦しい挨拶は結構よ。せっかく城から離れているというのに、どうして学園ここでも堅苦しくいかなきゃいけないのよ。私は嫌よ?そんなの時間の無駄。――そんな事よりも」


 サーシャはエリザの言葉に愚痴を零してから、リーサへと視線を動かして口角を上げた。そして音も無く移動をし始め、リーサが座っていた場所の隣に姿を現した。だがそれよりも先に、動きに反応出来たリーサは既にその場所へと振り向いていた。


 「貴女、私と手合わせしてくれないかしら?」

 「どうして、でしょうか?」

 「王族である私が、手合わせを願っても手加減されてしまう時もあれば、勝負にならない時だってあるの。でもこの学園は、平民も貴族も王族も関係なく、実力が物を言う学園でもある。なら、誰かと勝負したいと思うのは当然でしょう?」

 

 サーシャは目を細めてリーサへそう言った。その言葉を聞いていた他の生徒たちの中で、フラストレーションを抑える事が出来なかった生徒が立ち上がって言った。


 「サーシャ・リーベル・テイル王女殿下。お相手はオレが致しますから、その者がする必要はありません」

 「……ベ、ベイル……貴女っ」

 「へぇ……」

 

 ベイルの言動と行動に驚いたエリザは、慌てた様子で彼の行動を制止させようとする。だがしかし、一度視線を向けてからまたサーシャへと視線を戻した。その瞬間、ベイルの視界には天井が広がるのであった。


 「――っ!?」

 「随分と大口を叩いたものね。その程度の実力で、私に敵うと思っているの?」

 「(ま、全く見えなかった、だと……)」

 「私がただ理由も無しにリーサを対戦相手に選んだと思ってるのなら、考えを改めなさい。私はこのクラスの中で、最も強いと判断したのが彼女だった。同等の強さを持つっていう段階なら、そこに居るティナ・フロストも捨てがたいけれど……」


 そうサーシャが視線をティナへ向けると、ティナは先程まで跪いていた姿勢を解いて自分の席へと戻っていく。その様子を眺めつつ、サーシャはその言葉を続けた。


 「――それでもこのクラスで対等以上に戦えるのは彼女だけ、リーサを置いて他には居ないわ。私の眼に狂いは無いのよ、お分かり?」

 「ぐっ……」

 「さ、リーサ?今から訓練場に移動するわよ?準備をしてくれると嬉しいのだけど……ん?」


 サーシャがリーサにそう告げた時、既にリーサは姿を消していた。彼女の姿を見失った事を悟ったサーシャは、周囲を確認するようにして視線と身体を向ける。だがしかし、リーサの気配はするものの姿が見つける事は出来ない。

 そして次の瞬間、サーシャがベイルにしたような投げ技を喰らっていたのである。


 「っ……!?」

 「そんな方でも私のクラスメイトですので、手荒な事はしないで頂けますか?王女殿下」

 「あらあら……」

 「勝負をするのは構いませんが、お手柔らかにお願い致します。何分、私には貴女の言動が理解出来ない部分があるので」

 「ふふふ……良いわ。貴女はそういう人だものね?知ってるわ。いえ、

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