第9話「もう一人のクラスメイト」
ミレイナとティナとの買い物を終えたリーサはその日の夜、屋敷の中にある書斎へと足を踏み入れていた。それは昼間に承諾を得られなかった魔法使い同士の戦闘、その訓練の方法と規律について調べる為である。
「……」
そして分かった事が二つ。一つは、魔法使いの戦闘において必要なのは術者の判断力と決断力。そしてそれに魔力量の総量が重なる事によって、魔法使い同士の戦闘は過激さを増すと記述されている。
この世界には二種類の魔法使いが存在しているという事。主な魔法使いが使えるのは、各属性を軸にした精霊魔法を使う魔法使いが一般的だと言えるだろう。だがしかし、もう一種類の魔法使いは違う。
精霊魔法ではなく、自分自身の内側にある魔力を消費して使える魔法使い。精霊魔法も魔力を消費しない事は無いのだが、それでも精霊魔法は〈四大精霊〉と呼ばれる精霊を経由して魔法が放たれている。
だがその魔法使いは、何も経由する事無く魔法を扱う事が出来る魔法使い。さらに記述によれば、その魔法使いにはそれぞれ名称があるらしい。
「……
書斎で蝋燭の灯りの下で広げた本を眺めながら、リーサはただ一人でそう呟いた。やがて本を閉じ、自分の手の平を眺めて言葉を続ける。
「――私は、どっちなんでしょう?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その日、私は夢を見ていた。いや、夢という訳でも無いだろう。これは恐らく、私の過去と呼ぶべきものだ。夢ではなく記憶と呼んだ方が良いかもしれないが、正直見たくない景色だ。
『理沙よ、何だその腑抜けた剣はっ。私はその程度に育てた覚えはないっ』
「――!?」
思い切りに振られた竹刀は、迷う様子も無く夢の私へと振り下ろされる。片腕で防ぐも、傷みが全身に走っている様子だ。そんな夢の世界の私へと手を伸ばした私は、小さく囁くようにして言った。
「……代わってあげる。今の私なら、お父さんに勝てるから」
「っ……?」
そして次の瞬間、私は父の竹刀を握り締めたまま、同じように握っていた木刀を振り下ろしたのである。その時に感じた手の感触は、今でも覚えている。そしてそれが、木刀で人間を傷付けた初めての経験である。
その感覚を噛み締めたまま、私は現実世界へと引き戻す声が耳の奥まで響いた。
「――お嬢様?起床時間ですよ」
「んん……」
「起きられましたか?リーサお嬢様」
「んん……ぁ、おはようございます、シェスカさん」
私は目を擦りながら、寝惚けた状態でそう挨拶をした。ベッドの横には、微笑みながらこちらの様子を伺うメイドのシェスカさんの姿があった。
――どうしてこんな朝早くに、私の部屋に居るのだろうか?
そんな疑問を浮かべつつ、私はシェスカさんに問い掛ける。
「珍しいですね。シェスカさんが、部屋の中まで起こしに来るなんて」
「……何を仰っているんですか?もう刻限を過ぎておりますよ、学園へ行く時間ではありませんか?」
「学園~~???……ち、遅刻っ!?」
私は一気に目が覚めて、シェスカさんに怒られるかもと思いながら服を脱ぎ捨てた。やがて着替え棚から学園の制服を取り出し、慌てながら袖に手を通した。正確な時間は7時50分と時計は針で示している。
今の状態では遅刻は確定している。だがしかし、私個人の意志としては遅刻なんてしたくないのが本音である。だからこそ私は朝食を抜き、身体強化の魔法で街へと向かった。
「……はぁ、はぁ、はぁ……(身体強化も万能ではないけれど、止むを得ません。身体強化のさらに上……超身体強化を使って学園へ)」
身体強化よりも効果が凄まじい身体強化の魔法を使った瞬間、走っていた速度が格段に向上した。脚力が上がり、地面を蹴る威力も上がった事で速度が増す。元の体力も無い訳では無いけれど、これはこれで消耗が激しい部分があるらしい。
走りながらで分かり難いけれど、魔力の消費が凄まじく速い。このままでは、学園に到着したとしても、実技訓練の方は休まざるを得ないだろう。
「――フフフ、急がなくて平気よ?リーサさん」
「……っ!?」
だが道中で話し掛けられ、速度を上げていた足を無理矢理に止める。だが止める瞬間、ブレーキが掛からない為に地面を抉るようにしてブレーキをした。加減はしたつもりだが、しかし地面の抉れ方が火の魔法を正面から受けたようにクレーターが出来上がってしまった。
だがそれよりも、私は声の主が誰なのかを確かめる必要があった。そう思って振り向いた瞬間、そこには見覚えがある少女が立っていた。
「
「……誰、ですか?」
「これは失礼しました。私の名前はサーシャ・リーベル・テイルと申します。リーベル王国第一王女にして、騎士科Aクラスに所属しますわ。以後お見知り置きを」
「リーベル、王国……?」
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